第14話 公園の映画館(後編)

 公園の映画館へ行った日の深夜、涼音は自分の部屋の学習机に向かって、ノートパソコンを開いていた。

 画面には、店のブログのタイトル『僕の森へようこそ』と、入力画面に、小池さんが描いたモネ風の絵が映っている。涼音は、どういう出だしにしようか、じっくりと考えていた。何しろ、時間はたっぷりある。

 そのとき、部屋のシーリングライトが、またたいた。

「えっ?」

 とまどって振り向くと、季里が浮かんでいた。

「季里さん。こんばんは」

「うん。こんばんは」

 季里は、微笑んで……はいなかった。何か、くせの強い野菜でもかじってしまったような、苦い表情をしている。

「どうしたんです? 何かあったんですか」

「ああ……確かに、あるね」

 季里はうなずいて、

「公園の映画館のこと、ブログに書くつもり?」

「はい。何かまずいでしょうか」

「まずくなかったら、口は出さないよ」

 季里は、真剣そうに応えた。

「あの……季里さんは、あの映画館に行ったこと、あるんですか」

「ないよ。とても怖くて行けない」

「怖い?」

「涼音ちゃんにはまだ、分からないかも知れないね」

 季里は、少しだけ笑った。

「どうせまた、映画を観に行くつもりなんでしょう」

「はい。それが?」

 涼音が訊くと、

「鏡を持って行きなさい。そうすれば、私が言った意味が分かるから。いまのところは、それしか言えないの」

 季里は真剣そうな表情のまま、消えた。


「そんじゃ、またあしたっつーことで」

 その次の日、午後二時のシフト上がりを待ちかねたように、蓮は店のドアから飛び出して行った。

「よっぽど、気に入ったのね」

 涼音が笑うと、小池さんはうなずいて、

「私も行きたいところですが……」

 ことばを濁した。

「どうしたの? 小池さん。シフトなら調整するけれど」

 涼音の問いに、応えようかやめようか、小池さんは考えているようだった。

 やがて、ぽつぽつと、話し始めた。

「ゆうべ、夢を、見たんです」

「それが?」

「とても、いやな夢でした。生きながらにして、少しずつ斬り殺されていく……そんな感じの夢です」

 それは、確かにいやだろう。

「涼音さんは、何もありませんでしたか」

「うん。だって私……」

 言いかけた涼音はハッとした。『眠らないもの』とは言えない。

「いつも熟睡しちゃって、夢はほとんど見ないの」

「私もほとんど、夢は見ません」

 小池さんは応えた。

「それが、きのうに限って、とびっきりの悪夢を見ました。起きたときは汗びっしょりで、シャワーを浴びました」

「そうなの……」

「はい。また横になったのですが、すぐには眠る気になれなくて、どうしてこんな夢を見たのか、ずっと考えていました。きのう、何かふだんではないことをしたのか、考えてみて、気がつきました。……それが……」

「映画というわけね」

 涼音のあいづちに、小池さんは顔をくもらせてうなずいた。

「私は、ふだんは映画を観ても、それが夢に反映するなんていうことはありません。たとえそれが『呪怨』【じゅおん】のビデオ版第一作でも」

「『呪怨』?」

「日本で一、二を争う、怖い映画です」

 小池さんは言って、

「ですが、映画館が悪夢と関係する、と決めつけるのは、早計です」

「ソウケイ? 大学の?」

「涼音さんでも、ほんとうにボケることがあるんですね」

 小池さんは少しだけ笑った。

「関係を疑うのは、早すぎる。そう思うのですが……」

 ふと涼音は、季里のことばを思い出した。

『鏡を持って行きなさい』

「分かった。私はもう一回、鏡を持って映画館に行く」

「危なくはありませんか」

 それは危ないのだけれど、小池さんに言うわけにはいかない。

「私は城隍神【じょうこうしん】だから、この街で起きていることは、どんなことでも放ってはいけないの。……大丈夫。私も、慣れているから」

 言ってみると、小池さんは少し安心したように、

「あの弾丸無鉄砲娘に、それぐらいの思慮があったらいいのですが」

「蓮ちゃんなら、心配しなくてもいいと思うな。もし何かあるとして、向こうも相手を選ぶでしょう」

「涼音さんも、けっこうひどいこと、言いますね」

 ようやく小池さんは、緊張が解けたらしく、明るい笑顔になった。


 その日、帰ってきた蓮は、また目を赤くしていた。

「何ならシフト調整するから、家でしみじみ泣いてもいいのに」

 涼音が言うと、ちょっとうつむいて、

「うちの親、心配性なんで。泣いてるとこなんか見られたら、何かあったのかと心配されますよ」

「蓮さんは、親孝行なんですね。うらやましいです」

 小池さんは、二、三度うなずいた。

「え? 小池さんは親不孝してるんすか」

「女装が唯一の趣味の息子を持って、何も思わないと?」

「あ……」

 蓮は、気まずそうな顔をした。

「だから、家を出ました。それが唯一の親孝行と言えば、親孝行です」

 小池さんは応えて、

「それより夢は、きのうと同じでしたか」

「同じっす。でも、ちょっと陽が傾いてきて、空が暗くなったような気がしました。それがまた、切なくて……」

 蓮の目が、また涙でにじんだ。


「じゃ、行ってきます」

 小池さんと、きょうは夕方のシフトに入っている蓮に手を振って、涼音は店を出た。

 公園に着くと、映画館のドームはきのうと変わらず、そこにあった。

 けれど涼音は、すぐには近づかず、ハンドミラーにドームを映してみた。

(えっ?)

 そこに映ったものは、信じられないようなものだった。

「そうだったの……」

 思わずつぶやいて、涼音はドームの入り口に近づいた。

 きのうのように、老人とシノが座っている。涼音に気がついたようで、老人が微笑んで立ち上がった。

「いらっしゃい。また、映画を観に来たのかね」

「ええ。何だか、忘れられなくって」

 涼音も微笑んだ。

 自分の笑顔は、ぎこちなくなっていないだろうか。

 老人も、少し他人行儀な顔をして、

「何か、希望はあるかな」

 訊いてきたので、少し考える……ふりをして、応えた。

「きのうと同じでいいです」

「ああ、分かったよ。お入り」

 涼音がドームへ入るまで、シノはひとことも発しなかった。


 椅子に座ってドームが暗くなると、涼音は目を閉じた。

 眠らない涼音は、いくら目を閉じていても、居眠りはしない。ピアノの音楽が流れてきても、催眠術のようなものにはかからない。ただ、一時間ほど目をつぶったまま座っているのは、退屈ではあった。

 ……まぶたの裏が、赤く明るくなった。

 目を開けると、スクリーンから光は消えて、ドームの中は少しオレンジがかった照明に照らされていた。

 ドームを出た涼音は、老人に笑いかけた。

「とっても、すてきでした」

「すてき……そうかな」

 老人はとまどったようだ。

「はい。いつまでも見ていたいくらいです」

 涼音だって、作り笑いはできるのだ。老人は、まんまと引っかかったようだ。

「それなら……」

「でも、その前に」

 涼音は笑顔のままで言った。

「……私から、お礼をさせて下さい」

「お礼はいらないよ。入場料は、ちゃんともらっている」

 シノがうなずいて、五百円玉の入ったガラスの広口瓶を振ってみせた。それなりには、客が入っているようだ。

「この感動には、五百円以上の価値があります。……コーヒーはお好きですか」

「コーヒー……」

 老人は、首をかしげた。

「もう何年も、いや、もっと飲んではいないなあ」

「あなたたちを、私の店にお招きしたいんです」

「店?」

「喫茶店です。ここから歩いて五分とかかりません」

「どうする? シノ」

「シノは、コーラが飲みたい。ふだん飲まないから」

「そうか……」

 老人は考え込んだようだが、やがて笑顔になった。

「それではお呼ばれしようかね」

「ありがとうございます。……ちょっと待って下さいね」

 涼音は数歩下がって、スマホのメールを送った。返事はすぐに来た。

(準備はよし、と)

 涼音はまた笑顔で、老人とシノに近づいた。

「では、行きましょう」

 そのとき、午後五時だった。


 ふたりを連れた涼音は、『僕の森』へと向かった。ドアに掲げた『申しわけありません。事情により、閉店です』の札を、ふたりに見えないように体で隠した。

「どうぞ、お入り下さい」

 ふたりを先に入れておいて、涼音はドアの鍵をかけた。

「カウンターはご存じですか。……そうです。そちらへお座り下さい。蓮ちゃん、お水を差し上げて」

「かしこまりました」

 ぺこん、と頭を下げて、蓮はカウンターの奥に入った。間もなく『三点セット』……水、おしぼり、メニュー……をふたりの前に置いた。

「お決まりになりましたら、おっしゃって下さい」

 『僕の森』の常連客なら、この段階で怪しむだろう。蓮がすなおに『かしこまりました』『お決まりに』……、などと言うはずがない。

 老人の前には小池さんが、例のように無表情に立っていた。

「あんたたちはみんな、映画館に来てくれた人だね」

 老人が笑うと、小池さんは会釈した。

「その節は、お世話になりました」

「礼を言われる筋合いではないよ」

「いいえ。無事に帰して下さってありがたい、そう言いたかったのです」

「なんだって?」

 老人の表情が変わった。

「まさか、言いがかりをつけよう、って言うんじゃないだろうね」

「言いがかりなんて」

 カウンターに入って、涼音が言った。

「少なくとも、あなたに言うつもりはありません。……シノちゃん、私たちは、あなたと話しているの」

 あっ、と老人が口を開けると、すぐに全身が黒い煙になり、シノの体に吸い込まれてしまった。

「どこで分かった」

 声も体も子どものまま、シノは言った。

「私たちは、『ふだん通り』を愛しているの。それが、ここにいる小池さんが……」

 涼音は小池さんが言った夢の話をして、

「小池さんがきのう、ふだん通りではないことをしたと言えば、映画館へ行ったことぐらいしかない。そういう話になった。小池さんは、めったなことで泣く人じゃないから。……ここまではいい?」

「私は、冷血漢ですので」

 小池さんは、軽くうなずいた。

「でも、それだけで私たちが、何かおかしい、ということにはならないでしょう? お姉さんの考えすぎよ」

 シノはころころと笑った。

「それも、考えなくはなかった。でも、こうしてお爺さんは、あなたに吸い込まれてしまったじゃない。あなたたちは、自信家に過ぎたね」

「あなたは……何者なの?」

 シノの表情が、怒りに変わった。

「私は城隍神。分かりやすく言えば、街の守り神」

 涼音は応えて、

「さっき、あなたの映画館を、鏡で見せてもらった」

「鏡で、見る?」

 シノは首をかしげた。

「説明しているほど、私は暇じゃないの。あのドームには、いろんな人の影が映っている。その影は、みんな映画を観に来た人たちでしょう」

「面白いことを言うのね。いいよ、続けて」

「ありがとう、って言うべきかな」

 涼音はかすかに笑って、

「映画館で上映している『映画』は、みんな、映画を観に来た人たちの、夢や心から吸い取ったものなんでしょう。それにもうひとつ。鏡には、あなたの影が映っていたけれど、お爺さんの影はなかった。お爺さんは、それこそあなたの『影』なんだね」

「想像力の豊かな人なのね、お姉さん」

 ここまで言われても、シノはまるで平気そうな顔をしていた。

「応えなくても、いいよ」

 涼音も平然としている……ように見せていた。いくら神様とは言え、内心は緊張でみなぎっていたが。

「訊きたいことが、ふたつあるの。シノさん、あなたを倒せば、ドームに吸い込まれた人たちは戻ってくるの? そしてもうひとつ。あなたは、何が楽しくて、こんなことをしているの?」

「私を倒す? 面白いなあ。あなたみたいな人間に、何ができるって? 私を倒せば、確かに吸い込んだ人間は戻ってきて、ドームは消える。私も消える。……もうひとつ、何が楽しいかなんて、知らない」

 シノはけらけらと笑った。


「なんか、むかつくんすけど」

 カウンターの端で、蓮が小池さんにささやいた。

「こういうのって、自分らがかまっちゃいけないんですよね?」

 すると小池さんはこれまでにないほどの怒りに充ちた顔で、あわてて口をふさいだ蓮をにらみつけた。

「涼音さんでもうかつに手を出せないでいる相手ですよ。それ以上言うのなら、あなたを消してもらいます」

 蓮はしおれたように、床に座り込んだ。


「気がついたときには、私は映画館のシノだった」

 カウンターをはさんで、涼音とシノは向かい合っていた。

 涼音はようやく、落ちついてきた。

 そうだ。何かの化物だ、と思うから緊張するのだ。普通に、迷惑な客が来た、と思えばいいのではないか。だとすると、涼音がすることはひとつ……。

「ちょっとごめんなさい」

 涼音は振り向いて、ハンドミラーにシノを映してみた。

(ほんとうに? それでいいの?)

 けれど、いつまでも見てはいられない。シノに向き合った。

「スマホでも見てたの?」

 いらいらしたように、シノが言う。涼音は微笑んだ。

「私たちが消されるのなら、それはあなたが強いからで、しかたがないね。けれど、あなたは強くなんかない。この鏡に……」

 エプロンのポケットから涼音はハンドミラーを出して、

「ここに、自分の顔を映してご覧なさい。あなたのほんとうの姿が見えるから」

「何よ。子どものいたずらみたいに……」

 言いながら、シノはカウンターの上に涼音が置いた、鏡をのぞきこんだ。

 すると、鏡がまばやく輝き始めた。

「ぎゃあああ!」

 悲鳴が響き渡り、シノは洋服ごと白い灰となった。鍵をみんな掛けていたはずの窓が一枚開き、そのまま外へ、灰は吹き散らかされて、飛んで行った。

 涼音は、しゃがみ込んだ。

「だいじょぶっすか? 涼音さん」

 蓮に助け起こされて、ようやく涼音は立ち上がった。

「あの『ひと』は?」

「もう、いません。安心して下さい」

「お水をどうぞ」

 小池さんにグラスを渡されて、涼音は少しずつ、冷たい水を飲んだ。

「思ったのですが」

 小池さんはうっすらと笑って、

「水と同化するなんていう空想は、歌、それも『Lemonの勇気』だからいいのでしょうね。そのことばかり考えていたら、仕事も手につかず、そうですね……人間ではなくなるのかも知れません」

「ほんと、こんなことになるなんて、重いものしかなかったっすよ」

「それは『思いもしなかった』」

 社交上、涼音はツッコんで、

「あなたたちがいたから、がんばれた。あなたたちは、大事なメンバーだよ。ほんとうに、ありがとう」

「いやいやいや、自分たちは何にもしてないっすよ。よく言っても、熊本は天草名産、こっぱもちですよ」

「ごめんちょっと何か分かんない」

「最近ちょこちょこ言いますね」

「木っ端店員、とでも言うところでしょうね」」

 小池さんがつぶやく。

「それにしてもこれにしても……」

 蓮は腕組みをして、

「いまの不気味な女の子のことっすけど、なにゆえ、鏡を見て『ぎゃあっ』って言ったんでしょ」

「ああ、それね」

 それなら応えてもかまわないだろう。

「何かの理由で、とっても長生きする『ひと』や動物がいるらしいのね。そういうのが、妖怪とかそういうものになることもあるらしいの」

「ということは……」

「シノは実年齢の自分を見てしまったの。少なくとも、百年なんてものじゃない。そう……千年単位かも知れない」

 ぽかんと口を開けて聴いていた蓮は、ごく当たり前の感想を言った。

「歳は取るもんじゃないっすね」


 人間は、平凡なくらいがちょうどいいのかも知れない。涼音はそう思った。


 その夜、涼音がまた学習机に向かっていると、シーリングライトがまたたいた。

 涼音は落ちついて、アームチェアに向かい、深く掛けた。

「終わったようね」

 季里が微笑んでいた。

「みんながいたから、がんばれたんです。私はまだまだです」

 涼音は本気で言ったのだけれど、季里は顔をしかめた。

「それを言うの? まだまだだなあ。うん、涼音ちゃんはまだまだだよ、神様として」

「みんなの助けを借りたからですか」

「そういうことじゃないの。第一、みんなの助けなんて、そんなに借りてなかったじゃない。今回の『事件』では」

 季里は何が言いたいのだろう。

「あのね、涼音ちゃん」

 季里は表情を引き締めた。

「神様は、謙遜なんかしちゃいけないの。分かる?」

「えーと……よく分かりません」

「本人に訊いたのは、私の失敗だね」

 苦笑いした季里は、

「神様はね、人の上に立たないといけないのね。これは分かる?」

「何となく……でも季里さん。私ひとりでは、こんなにむずかしい『事件』は片づかなかったと思いますし、神様である前に、そもそも人間として、私は半人前で、季里さんなんかには、とてもかないませんし……」

「そんなに自信のない神様を、誰が信じてくれると思う?」

 季里のことばは、涼音の胸の深い所に刺さった。

「神様の世界にはね、『半人前』ということばはないの。その時にはもう、神様失格だから。いつでも、一人きりで……まあ、神様に『人』はそもそもないけれど……、相手がどんなものでも、勝たなければならない。それが、神様に与えられた責任なの。いやなら早くそう言って。別の城隍神候補を探すから」

「……」

 涼音は、考え込んだ。

「こんなことを、ひとに任せるのは無責任だと思います。だから……」

「だから?」

「やっぱり、私が、がんばります。ひと柱の神様として」

「涼音ちゃんなら、そう言うと思った」

 季里は微笑んだ。

「ゆっくり眠って、リフレッシュなさい……ふつうの『ひと』にはそう言うところなんだけれど、涼音ちゃんは眠らないんだものね」

「はい。それが恨めしいところですけれど、私だって、季里さんから受け継いだのを、放り出したくはないんです」

「じゃ、もう少し続けてみて。私でよければ、相談には乗るから。とりあえず、きょうはそんなところ……あっ。ひとつ忘れていた」

 季里は思い出したように、

「涼音ちゃん。がんばったね」

 そう言って、涼音の頭をくしゃくしゃに……する動作を取った。

「いまの私にできることは、これだけなの。じゃあ、またね」

 今度こそ、季里の姿は消えた。

「季里さん……」

 涼音の頬を、涙がひと粒、伝った。

 季里は城隍神として、まったくの孤独に向かい合っていたのだ、ということが、いまの涼音には分かったのだった。


 その後、ドームのあった公園には、何十人もの人が気を失って倒れていたのを、涼音は新聞で知った。

 人びとは、回復が早かったが、『意味不明のことばを、繰り返しつぶやいている』人もいるそうだ。

 何とかしてあげたかったが、涼音は、そこまで自信過剰ではない……。


(「公園の映画館」おわり)


【各話あとがき】この『映画館』には、モデルがあります。1980年、東京のいろんな所で観られた、『シネマ・プラセット』です。

 フランス料理なんかで、料理に丸いカバーをかけて持ってくるのがありますよね? あれと同じ、銀色の半球で、席数は、何十だったかな……とにかく小さな映画館でした。

 この映画館だけで観られたのが、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』(80)という映画です。何とも不思議で、またスクリーンが小さい分映像が鮮明で、凄い映画だな、と思いました。この映画は、キネマ旬報でベストワンを獲っています。

 その他にも、私の個人的なお勧め映画、内藤誠監督の『時の娘』などもあって、場所も東京タワーの下とか、代々木公園とか渋谷の公園通りとか、最後の方は、吉祥寺PARCOの屋上にもありました。それを追いかけて街を歩くのがまた楽しい……ということから、この話を書いてみました。

 では、次のお話は、不思議でも何でもないお話です。飲み会の話です。どうしても、この連作にしかはまらないので、入れてみました。興味のない方は、飛ばして下さい。

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