第6話 事故物件に引っ越したら女の化け物が現れるので追い出してやった話 【6】
マッチョに助けてもらい無事に部屋に戻ることが出来た。長かったように感じたが時間としては30分程しか経過していない。
一度気持ちがリセットされたのか恐怖を感じない。堪らず窓から飛び出したのが嘘のようだ。
しかし夜はやってくる。今は落ち着いているが、次第に暗くなっていく部屋の中で不安は募る。脱いだ服のポケットから御守りを取り出し握り締めた。
またいつ現れるのか、そう考えてしまうと安心して服も着れない。ただ、下の階の住人に会ったことで心に少しだけ余裕が持てる気はする。
結局その晩は何事もなく過ごし、何とか服を着ることができた。
しかし翌日から更なる恐怖が立て続けに僕を襲った。
──3日目
早朝から突然の腐敗臭。服を脱ぎ窓を開けて原因を調べたが見つからず、その直後にラップ音のような音が部屋中に鳴り響く。そんな現象が一日のうちに何回となく僕を襲った。
気のせいだと自己暗示をかけ、御守りを握り何とかこの場を凌いでみせた。もちろんその日は早朝から服を着ていない。
──4日目
翌日も同じように早朝から腐敗臭。それに気付いて目覚めたが体が動かない。金縛りにあったようで、仰向けのままどう足掻いても動くことが出来ない僕の上に何かが乗っているような感覚があり息苦しい。しばらくすると体が軽くなり、動けるようになったが目を開けることも出来なかったので正体が何かも分からない。
御守りを握って寝ていたつもりが、起きてみると布団から少し離れた床に落ちていた。肌身離さず持ち続けるのが難しいということで、胸元にテープで貼り付けた。こうすればずっと持っていれる。つか服を着ればいいんだろうが、そんなメンタルは持ち合わせていない。
御守りを身に付けている間は、怪奇現象が起こっても音と臭い以外は何もなかった。
もしかするとこの御守りが結界のような役割を果たしているのかもしれない。そう思った理由はその日の夜。
風呂を入った後、脱衣所に御守りを忘れたままにしてしまい、胸元に貼り付けるのを忘れて床についてしまった。布団に入って寝ようとした瞬間、たちまち腐敗臭が・・・
・・・と思ったら僕の布団が臭いだけだった。
安心して横になり、眠りにつくところで突然耳元で壊れたラジオのような、とにかく耳障りなノイズ音が聞こえてきた。
しまったっ・・・! 御守りのことを思い出して体を起こそうとしたが、遅かった。
金縛りにかかり全く動けない。直後に足元からノソノソと這いずり上がってくる感触。間違いなく何者かが来てる。あの女か・・・。声も出せずただただ恐怖に耐えるしかない。幸い布団の上から来ているからまだいいが、これがもし布団の中からのルートを選択して来ていたら大変だ。
こちらは全裸だから。
それを知った上で避けているのか、それともたまたまなのか。だとすると布団をかけずに寝たら無敵ではないのか? いや、そんなことを考えてる場合じゃなかったんだ。
ゆっくり確実に僕の体の上に乗って来る感触、気が付けばノイズ音も治まり、静まり返った部屋の中ではズルズルという摩擦音だけが僕の耳に入ってくる。それらで恐怖心は限界を迎え、気を失った。
──5日目
気づいた時は朝だった。目覚めると同時に飛び上がる勢いで体を起こした。
すでに異様な気配は消えており、夜の出来事が本当か夢か分からない。ただ、夢にしてはリアル過ぎる。その時感じた音や感触を覚えているから。何とも言えない恐怖感や脱力感でしばらく何もする気がおきない。時間が経てばまた夜が来る。どうしよう・・・。
そんなことを考えていたら、再び一瞬不快な臭いを感じた。それと同時に着信も鳴り、震える手で携帯を取り画面を見ると非通知。瞬く間に全身に鳥肌が立ち、休む間もなく訪れた恐怖に僕は大声を出した。
『 何なんだよ! 頻繁に出てきやがって、んもぅ・・・嫌んなっちゃう!』
別におネエではない。本当にそう叫んで壁に枕を投げつけた。頭がおかしくなって来たようだ。
『 くそ・・・。』
布団越しに床を殴り、布団に顔を埋めた。
あ、不快な臭いの件は僕の布団が臭いだけだった。
すると平常心を取り戻し、一度外で気持ちを入れ替えようと部屋を出ることにした。
外へ出て玄関の鍵をしっかりと閉めたが、他の戸締まりが気になりすぐに部屋の中へ。
『 窓OK、電気OK、携帯あるでしょ、OK。』
『 あぁダメだ、服着てなかった・・・。 』
急いで服を着て、部屋を出た。
それから車で近くのコンビニへ行き、コーヒーを買ってから駐車場の車の中で着歴を見ると、非通知の不在着信で埋め尽くされていた。
気づかぬ間にこんなに・・・。恐怖のあまりコーヒーを持つ手が震え、酷すぎる震えのせいで上手く飲めずに口から顎を伝って溢れてしまい、上着を汚してしまった。
『 これはダメだ・・・。一旦脱ごう。』
すぐに上着を脱いで付着したシミをある程度ティッシュで拭き取り、そいつを後部座席へ投げた。そんなアクシデントによってか、落ち着きを取り戻し震えも治まっていた。
そして冷静になると、あることを思い出した。着歴の中に友人Zからの不在もあったこと。
もう一度確認してみると、間違いなく一件だけZからの着信も混じっていた。これは嬉しい。非日常の世界に引き込まれた僕を照らす一筋の光に思える。例えるなら、1円玉ばかりが詰まった貯金箱の中に500円玉が1枚だけ混じっていたような・・・違うか。
ワクチン接種か何かで、小学校の高学年にもなって注射嫌だーって泣きじゃくってたら、自分よりもだいぶ小さい子供が名前を呼ばれて診察室に堂々と入っていく後ろ姿が涙で滲んだ視界に映ったときのような・・・違うか。
早速折り返しの電話をかけることにした。
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