第4話 事故物件に引っ越したら女の化け物が現れるので追い出してやった話 【4】
『 あー無理無理無理、怖い怖い。一旦脱ごう。』
入った瞬間から異様な空気で、何だかさっきまでいた自分の部屋とは思えないというか、とにかく重く息苦しい。
僕は靴を脱ぎ、一歩玄関から足を踏み入れたと同時に服を全部脱いで部屋中の全ての窓を開けた。
まだ夕方前で外が明るいことによる精神的な部分もあってか、空気を入れ換えただけでだいぶ気持ちは落ち着き、布団の上に寝転んだ。
こうして動かずじっとしていると、時々下の部屋から話し声や物音が聞こえて少し安心した。ただ、耳を澄ますと隣の部屋からも物音がするのが気になってくる。足音や壁を軽く叩くような・・・もしかしてこの部屋にいる女がステチェンして隣の部屋に行っているのか。それなら隣の部屋に入居する人がいないのも納得はいくが、普通ドアから移動するものじゃないのか? そんな常識にとらわれてはいけないということか。
そうしていると次第に外は暗くなり始め、僕はカーテンを閉め電気をつけた。
『 あ、服着てなかった。』
玄関に脱いだ服を取りに行かなきゃと廊下へ出ると、何やら足音が聞こえる。ゆっくりペタ...ペタ...と濡れた裸足で歩いているような音がこちらに近付いてくる。
その音を聞いて後退りしながら、僕はあることを思い出した。
『 あ、靴下だけ履いてた。』
恐怖を感じている最中でもそんなことは気になる。もちろん気持ちに余裕など全くないし、出来ることなら全部脱いで逃げ出したいが、如何せんこれ以上脱ぐものがない。
玄関側からこちらに向かっているとなると逃げ場もない。後ろを一瞬振り返ると窓が視界に入った。最悪ここから飛び降りるしかないのか・・・と、そんなシナリオが頭を
──そうだ、Zにもらった御守りだ。これがあれば無敵になれるっ! そして僕は急いで御守りを手に取り、両手で握りしめて何とかこの状況から救って・・・
『 はっ・・・!!』
──御守り・・・さっき脱いだ服のポケットの中じゃん。
絶望した。足音は脱ぎ散らかした所を過ぎて部屋に近付いているからだ。取りに行くにはその足音の主をすり抜けなければならない。見えてはいないが接触するのは怖すぎる。
そして廊下から部屋の中へと入ってきた。僕は恐怖で震えながら後退りしていくと、とうとう窓辺に追い詰められた。
『 く、くそ、こうなったら・・・。』
そのまま窓から飛び降りた。あまり高さのない建物なのだが、地面に足がつくまでの滞空時間が物凄く長く感じだ。それはきっと、飛び降りた瞬間にあるこを思い出したからだ。
──あ、部屋の鍵もさっき脱いだ服のポケットの中だった。
しかし、よく考えてみれば鍵は閉めてなかったような気がした。
上手く着地した僕は、忍者のように素早く自分の部屋の玄関前まで走った。この時の身を屈めてササササッと走る姿はきっと忍者そのものだったと思う。足音を立てず階段を駆け上がり、玄関ドアの前に立つと周囲をキョロキョロと確認し、急いでドアノブを握り・・・固唾を飲んで深呼吸をしてからの勢いよく捻るガチャッはい開いてなーい。
誰も見ていないであろうに、気にしてませんオーラを出しつつ再び周囲をキョロキョロと確認し、その場に屈んだ。
──ど、どうしよう・・・。
何か方法はないか色々と考えた。最初に思いついたのが、不動産屋さんに電話してスペアを持ってきて・・・いや、ダメだ。携帯はさっき脱いだ服のポケットの中だ。
次に思いついたのが、外からよじ登って窓から侵入。だが自力では不可能に近い。仮に挑戦したとして、落ちて怪我でもしたら大変だし、そもそも何故飛び降りてまた同じ窓から入ろうとしてるのか意味が分からない・・・次。
そして次に思いついたのが、車に乗ること。これ以上服を着ていない状態でここにいるのは周りの目が気になる。気になる奴がよくこの状況で飛び降りたなと自分に言いたくなった。まぁ、どうあれ車の鍵なんて持ってるワケないじゃん。
『 あ・・・。』
車の鍵だけはさっき脱いだ服のポケットじゃなくてテーブルに置いてあったから飛び降りる前に回収出来たじゃん。
『 くそ、どうして・・・。』
自分のポンコツっぷりに腹が立ってきた。どうして玄関の鍵を閉めた。どうしてポケットにあれもこれも忘れてきた。どうして飛び降りる前に車の鍵だけでも回収しておかなかった。つーか、そもそもどうして飛び降りた。何回も「さっき脱いだ服」を思い出す度にその脱ぎ散らかした服の描写が頭の中にフラッシュバックし、そんな自分が情けなくなりその場に両手を付き
『 あ、服着てなかった。何のプレイだこれは。』
ふと我に返り、冷静に最善策を考えた。しかしどうすることも出来ない。こうなっては下の住人に助けを求めようか考えたが、こんな格好で何て声をかけたらいいのか分からない。
だからといってこのままこうしていては埒が明かないので、悩んだ挙げ句に恥を承知で下の部屋へと向かった。
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