第3話 事故物件に引っ越したら女の化け物が現れるので追い出してやった話 【3】



 Zに相談に乗ってもらおうと電話で内容を話そうとしたのだが、話は後で、とにかくすぐに一度部屋を見に行きたいと言ってきたので急遽きゅうきょ来てもらうことになった。住所を教えると昼過ぎには到着すると返事が来た。

 待っている間はとくに変わったことは何も起きず、ダラダラと過ごしていた。


 そしてしばらくすると玄関のドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けるとそこにZがいた。


『 よぉ、久しぶりー。』


 僕が声をかけると、Zは少し離れて手招きをしてきた。


『 ん? どした?』


 するとZは小声で僕に言った。


『 少し外で話そう。準備したら出掛けるぞ、車で待ってる。』


 言われた通り僕は軽く準備をして、鍵をかけて階段を下りた。

 するとZは車の窓から顔を出して『乗っていいよ』と言ってきたので、助手席に座った。


 車を走らせたZは、すぐに笑いながら僕に『 随分ヤバイとこ借りたな。どうしてそうなった?』と聞いてきた。

 玄関の前までしか来ていないのに、その段階でZには何かが見えていたのだろう。


 とりあえず近くの公園に行き、そこにある自販機でコーヒーを買ってベンチに座り、Zは語り始めた。

 その内容は、僕と電話で話していると『 サヨウナラ』と何度も聞こえてきたこと、アパートに着いた段階で建物を黒いモヤが覆っているように見え、車から降りて建物に近付くと腐敗臭がしたこと、玄関のドアを開けた僕の後ろに女が立っていたことだった。

 更にその女は生霊ではなく既に他界しており、その202号室の部屋に残り続け、このような場合誰かを道連れにしようとすることがあり大変危険で、その影響は両隣の部屋にも及び、もし入居者がいても長く住んではいられない。

 僕はその話を聞いて全身に寒気が走った。それと同時にZは本物だったんだと驚いた。霊感が強いとは昔から聞いていたが、こちらからはまだ物件についても起こったことについても何も話していないというのに。


『 怖い・・・。仕方ないからここは一旦とりあえず──』


『 ─脱ぐなよ? つか、何なのその癖。昔からそうだよな笑』


『 あぁごめん・・・。何でかは分からないけど、恐怖を感じたり気が動転するようなことがあったら脱いで落ち着こうとしちゃうんだよな。』


『 何だよそれ笑 じゃあ、もし痴漢の冤罪で女の人に大声出されてパニクったらどうするんだ?』


『 あぁ・・・脱ぐね。』


『 本当に捕まっちまうだろーよ! まぁでも、冗談は抜きでこれは引っ越したほうがいいよ。』


 Zは引っ越すことを進めてきたが、昨日の今日でそうもいかない。金もないし、まだ姿を見てはいないのに逃げ出すのも何か嫌だと思った。

 まぁ、昨夜恐怖のあまり全裸で部屋を飛び出すという醜態しゅうたいはさらしているが・・・。

 それより住み続けたらどうなるのかが凄く気になるのでZに聞いてみた。


 結論からすると、どうなるかはっきり分からないそうだ。霊障というものは直接実害があるのか、それとも不安や恐怖を抱えて生活していく中で徐々に気持ちが沈んでいってしまい結果的に壊れてしまうのか、Zは後者だと考えているようだが、僕もそう思う。

 気配や物音などの不可解な現象が起きているのは間違いない。ただそれを気にしないようにすれば案外何とか・・・いや、そうもいかないか。

 こうして公園ここに僕を連れ出して話しているのも、会話をやつに聞かれるからだと言う。そんなことあるのか?って思うが、どうやら見えない僕と彼とでは考え方が違うようだ。

 百物語などの怪談話をすると呼び寄せることや、遊び半分で心霊スポットに行ったりすると祟られるといったように、霊体にも感情はあるし会話の内容も分かる場合もあるとのこと。それに見え方も様々で、何もせず動かない者もいれば特定の人にしがみつく者、語りかけてくる者までいるそうだ。色々と謎すぎて想像もつかない。

 

 ある程度話が終わったところで、僕はZに泊まっていかないかと聞いたが即答で断わられた。


『 なぁZ。もし──』


『 ──嫌だ!』


 マジでこんな感じ。さすがのZも得体の知れない同居人のいる部屋には泊まりたくないようだ。ただ、その代わりにZは祖母に教わって作ったまじないというか御守りのような物を渡してくれた。

 そういえばZの祖母、昔ユタとか何か言っていたような言ってないような。バキバキに体鍛えた拳法の達人か何かなのか、それはよく知らないが、霊に打ち勝つ能力を有しているのだと思う。

 これを常に持っていれば護られると聞いたので、お礼を言ってすぐにポケットにしまった。


 それからしばらく話して、Zに送り届けてもらい、僕は帰り際に言った。


『 なぁZ。』


『 断るっ!』


 先程よりも即答で断わられた僕は、渋々車を降りた。


『 んじゃ、本当に気を付けろよ。ヤバいと思ったらすぐに引き払え。』


『 わかった。そっちこそ帰り気を付けろよ。じゃあ。』


 その場でZの車が見えなくなるまで見送った。あっという間に見えなくなったのだが、どんどん離れていく車とそれに比例して現実に帰ってきた恐怖を感じる。

 しかし何とかやっていけそうな気がする。もらった御守りをポケットから取り出した。


 ──そして帰宅した僕は・・・玄関のドアを開けた。 


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