第2話 事故物件に引っ越したら女の化け物が現れるので追い出してやった話 【2】



 新しい生活の始まりに興奮気味の僕は、帰宅して靴を脱いだ瞬間・・・ある異変に気付いた。


 玄関から真っ直ぐに数メートル廊下があり、その先に部屋があるのだが、玄関と廊下の電気をつけても部屋が真っ暗に見えた。数メートル先なのにそこが何かで遮断されているような感じだ。

 恐る恐る廊下を歩き部屋の電気をつけると、問題なく部屋は明るくなった。


『 気のせいか。』


 少し安心した僕は、風呂にでも入ろうと湯船にお湯を張った。

 ちなみに水回りは決して綺麗ではないが、僕はさほど気にならない。

 テレビを観ながら時間を潰し、お湯が溜まった頃に浴室に向かおうとすると、突然携帯が鳴った。

 画面を見ると非通知の着信。迷うことなく電話に出てみると・・・。


『 もしもし?』


 すると電話から若い女性の声で『 サヨウナラ 』と聞こえてきた。その何とも言えない棒読みの言い方に一瞬驚いたが、僕は聞き返す。


『 はい? 今何て? もしもし?』


 しかしすぐに電話は切れてしまった。


 『 え? 今の何!? 怖い怖い怖い、ダメだ・・・一旦脱ごう。』


 僕はその場でとりあえず服を脱ぎ、しばらく立ち尽くした後、勇気を振り絞って浴室へ。

 目を閉じるのが怖くなって、シャンプーのときは真上を向いて顔にかからないように流した。

 急いで体を拭いて、浴室のドアを閉めようとした時、更に恐怖を覚えた。

 

 排水溝に髪が詰まっていたからだ。僕は慌てて鏡の前に立ち、自分の髪の毛が抜けていないかチェックし、抜け落ちてはいないと分かるとホッとした。


 

 ・・・。


 

 ・・・。


 

 ──じゃあこの髪の毛誰のだよ─!?


 

 全身に鳥肌が立った。きっと全身がドリアンみたいになっている。


『 嘘だろ。怖い怖い怖い、ありえないって。ダメだ・・・一旦脱ごう。いやまだ服着てなかった。』


 まだ服を着てなかったことを思い出し、怯えながら服を持ち出そうとしたところで、再び着信。

 ウー...ウー...と床に置いてある携帯の振動音が静かな部屋に鳴り響く。

 携帯を拾い上げるとまた非通知の着信。心臓をバクバクさせながらもう一度電話に出て、そっと耳に当てた。


『 も、もしもし?』


『 サヨウナラ 』


 先程と同じ女性の声。その一言だけでまた電話は切れる。

 これはさすがにこの世の者じゃないと思い、一刻も早くこの場から立ち去りたいが恐怖のあまりそれが出来ない。震える手から滑り落ちるように携帯は床に落ちた。

 携帯が落ちた音が耳に届いた瞬間、我に返ったたのか体を動かすことが出来たので、全力で部屋を飛び出した。手が震えて靴もうまく履けず、かかとを踏んだままで飛び出した。

 死に物狂いで階段を駆け降り、全力で車へと走った。


『 ヤバい、逃げないと・・・本当に、本当に・・・』



 


 ──あぁヤバい、服着てなかった・・・。


 僕の車を一周回って、そのまま服を取りに戻ろうと建物へ走った。いや、服はともかく車の鍵を忘れていたから戻るしかない。

 その時、階段の手前で老婆に遭遇した。



『 こ、ごんばんは・・・。』


 足を止めて挨拶をしても返答はない。初めて会ったが恐らく下の部屋の住人だろう。煙草を吸いながら眉間にシワを寄せて一点を眺めていた。

 僕の股間のあたりだ。・・・そうだ、服を取りに戻ろうとしてたんだ。

 思い出して階段をゆっくりと上り始めたが、気がつくと恐怖心は消えていた。他の住人に会ったからだと思う。1人じゃないと実感出来た。

 

 部屋に戻るとすぐに服を着て、寝る支度を済ませ布団に潜り込んだ。また着信があるんじゃないかと思うと怖くなってきたが、疲れもあってかそのまま寝てしまったようだ。


 

 ──2日目


 

 着信に気づいて目が覚めた。かけてきたのは引っ越しを手伝ってくれた友達。


『 もしもし?』


『 あぁもしもし。古ちん、大丈夫か? 何もなかった?』


『 え?』


 突然何を変なこと言ってるのか理由を聞くと、友達は恐ろしい夢を見たと語り出した。

 引っ越し作業を終えて、そのまま僕の部屋で寝ていたら、急に息苦しくなったので目を開けると女が跨がって首を絞めていた。

 怖くなって目を閉じ、“ 助けてください、助けてください ”と心の中で唱えると女の気配は消え、助かったと安心して体を起こすと、その部屋で僕や他の友達は何事もなかったように寝ていたそうだ。

 それを見て自分も寝ようともう一度横になろうとした時、浴室の方からギィギィと何か軋む音が聞こえてきた。

 気味が悪くなって僕らを起こそうとしたが、何故か部屋には彼以外誰もいなくなっていたようで、1人で見に行こうと浴室のドアを開けた。


 

 すると、そこには・・・。



 首を吊った僕。そしてそれに女がしがみついていた。


 ここで目が覚めたそうだ。あまりに生々しく気持ちの悪い夢を見た彼であったが、その首には絞め後のような痣が残っているようで、心配になって電話をかけてきたということだった。


『マジかよ。無理無理無理、怖い怖い怖い・・・一旦脱ごう。』


 電話を片手に服を脱ごうとしていると、彼はすぐにその部屋を引き払って出るようにと説得してきた。出来ればそうしたいが、さすがにこの出来事だけでは踏み切れない。

 もう少し様子を見たいと答えると、彼はある提案をしてきた。それは、僕らの友達に昔から霊感の強いZという奴がいるのだが、そいつに相談してみては?ということだった。

 確かにそれは心強いので、早速Zに連絡してみることにした。


『 もしもし?Z? 』


『 はいはい、久しぶり。この音・・・つーかお前、どこにいるの?』


 Zは電話に出ると、すぐに何かを感じたようだ。


『 あぁ、実は引っ越してさ。アパート借りて昨日から独り暮らし始めたんだよ。』


『 引っ越したの? あ、それでかけてきたのか笑 』


『 うん、ちょっと相談があるんだ。』

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