事故物件に引っ越したら女の化け物が現れるので追い出してやった話

天使 ゆがら

第1話 事故物件に引っ越したら女の化け物が現れるので追い出してやった話 【1】



 これは僕が就職のため実家を出ることになり、引っ越したとあるアパートで起こった出来事です。


 色々と家財道具を揃えなくてはならなかった僕は、とにかくお金がなかったので家賃の低い部屋を探すため不動産屋に行き相談した。

 不動産屋の担当は親身に僕の話を聞いてはくれたが、やはり相場というものがあるようで、なかなか条件に合う部屋の紹介には至らなかった。


『 なかなか難しいですね。一旦帰って考えてみます、お時間ありがとうございました。』


 出された資料をいただいて、それの入ったクリアファイルを持って席を立った時、突然呼び止められた。


『 古田様。あの、すみません・・・。本当に安い物件を何より重視されるのであれば、実は1件だけ条件に合う物件をご紹介出来ます。ただ・・・』


 そこまで聞いた段階で、何となく変な物件だというのが伝わってきた。

 

 もう一度席に戻り、その詳細を詳しく聞いてみることにした。物件は築40年以上の古いワンルームで、写真で見た印象は特に何も・・・。普通の古い建物のようだが、告知事項有りと書いてあり家賃が物凄く安い。

 告知事項について説明を聞くと、数年前に若い女性が亡くなっていて、その後の全ての入居者は不可解な現象に悩まされ、ある人は数日で耐えかねて出ていき、ある人は精神が崩壊し、皆口を揃えて何かがいると言っていたそうだ。

 女性が死亡してからすぐに家賃を大幅に下げたが、つられて契約した何人もの入居者がすぐに出ていき、噂のせいか次第に問い合わせも少なくなり、しばらく空き部屋になってしまったため更に家賃を下げたところだった。


 ひと通り説明を受けて僕は答えた。


『 この部屋借りてもいいですか? 』


 担当者は驚いた・・・と言うより少し引いて、何度も本当に大丈夫ですかと聞かれたが、その部屋を借りたいと伝えた。

 僕はスピリチュアルなことは半信半疑だが全く信じていないワケではない。もちろん本当に出てきたら怖い。けど、好奇心がそれを遥かに上回り、幽霊を見たという話題性を考えると何だかワクワクしてきた。

 

 それならせめて内見だけは必ず・・・という事で、見せてもらうことになり早速現地へ向かった。

 僕は車を走らせ、担当者の車の後をついていく形で案内してもらったが、向かっている間も考えは変わらなかった。

 数分車を走らせ大通りから一本曲がると、一気に人気がなくなり、夕方近い時間帯だったからなのか何とも不気味な雰囲気。

 

 それから間もなく、僕の視界に古びたアパートが入ってきた。

 まさかここではないよな? そう思っていたら担当者の車はそれをスルー。

 安心したのも束の間、そのアパートを過ぎたところにある更にボロッボロの二階建てアパートの前で担当者の車が停車し、車から降りて僕の車の運転席側に来て頭を下げた。窓を開けると担当者は『着きました、こちらです。駐車場はこの建物の裏にあるので、とりあえず7番に停めてください。』と言ったので、裏側へ回ると7と書かかれた杭が端に打ってあるのが目に入る。

 そこへ停めると、担当者はその横に駐車して2人とも車から降りた。


『 まさか、ここって誰も住んでないんですか?』


 思わず聞いてしまった。


 担当者の話では、ここは6世帯入居出来る物件で、現在1階の3つ全て埋まっているが、いずれも高齢者で駐車場は使っていないらしい。確かに玄関前に自転車は置かれているが・・・。

 そして上の階は全て空いており、好きな部屋を選んで良いとのことなので、全ての部屋を見せてもらうことにした。ちなみに問題の部屋がどれかは言わないでほしいと伝えた。


 まずは201号室の鍵を開けてもらい、ドアを開くと・・・。


 カビ臭い・・・最初の印象はこれだ。


 担当者がすぐに窓とシャッターを開けた。すると部屋の中に光が入り、劣化した畳と引っ掻いたような傷だらけの壁が目に飛び込んできた。

 見たところ住めなくもないけど、何だか背筋がゾクッとするような気味の悪い感じはする。とりあえず残りの二部屋を見せてもらってから考えることにした。


『 すみません。一度ザックリ他も見せてもらえますか?』


『 はい、大丈夫ですよ。ではどちらからにしましょうか?』


 玄関から外に出て202、203の玄関のドアを眺めて、先に203を見せてもらうことにした。

 同じように鍵を開けて中を見せてもらうと、何故か最初の201よりは雰囲気がマシと言うか不気味さは感じない。


 ただ・・・汚い。


 あちこちにコーヒーを溢したかのようなシミがあって、前に住んでいた人が使っていたであろう古い家電がたくさん残っている。それに最初の部屋よりも劣化が酷い。歩くとミシミシ音は鳴るし、引き戸もガタガタ。

 それでも家賃が安いなら掃除すれば住めなくもない。


 そして最後に真ん中の202のドアを開けてもらい、担当者は先に入り窓を開ける。

 するとこの部屋だけ畳ではなくフローリングだった。他の部屋よりも明らかに綺麗でメンテナンスされている。

 その理由を聞くと、この部屋は特に劣化が酷くそのままではとても人が住める状況じゃなかったためリフォームしたそうだ。他の部屋も十分劣化しているのに、それ以上とかどんだけだよ。


 雰囲気も悪くないし、この部屋が一番気に入った。全て見せてもらった結果、最初に入った201が問題の部屋だと確信した。理由は入った瞬間のあの不気味な雰囲気と壁の傷。恐らく201が事故物件に違いない。

 それを確認したくてもう一度201を見せてもらうと・・・やはりそうだ。霊感のない僕でも感じるこの独特な雰囲気。ネタとしてはここにするのが面白かったが、綺麗な部屋を見てしまうとそっちの方が良くなってしまい、202を借りようと思った。


『 ありがとうございます。今回は202に決めました。ところで、例の部屋は201ではないですか? 入った瞬間そんな気がしました。』


 そう伝えると担当者は・・・。


『 いえ、実は202号室が問題の物件です。』


『 え? ここがですか!?』


 その答えに驚いた。もちろんリフォームされて同じ家賃なのは怪しさ満点だが、本当に他の部屋と比べて空気も重くないし居心地も悪くなさそうだ。これなら普通に生活出来そうで破格の家賃。借りない手はない。


 見学を終えて担当者に202号室を契約したいと伝えた。


 ─そうして契約を済ませ、数日後には友達数人に手伝ってもらい引っ越しを完了させた。


 

 ──1日目

 

荷物を運び終えたのは16時頃だった。お礼がてらに友達らと飯を食いに出かけて、何だかんだで帰る頃には22時を回っていた。

 アパートの駐車場に車を駐めて、軽い足取りで外階段から2階に上がり、部屋の鍵を開けて中へ入った。


 よし、ここから新生活のスタートだ。と心の中で呟いた。


 この時はまだ、自分の身に何が起こるかなんて想像もしていなかった。

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