~潜在~(『夢時代』より)

天川裕司

~潜在~(『夢時代』より)

~潜在~

 「作家は物語(ロマンス)を書くべきである」(太宰)、これに対する呼応として私は了認し、少し明るい気分を持ちながら炎天下にて、幾つもの生活の過去を見詰めながら他人の家々の屋根を上空から眺める様にして気持ちが良かった。最近とりわけ阿川佐和子の事が何故か妙に気に成り始めたが、彼女の出す本を読む内に彼女が御良家の大変有名なお嬢様育ちの令嬢で在る事に気付き、〝自分とは別世界に居る(住む)人間〟だとして近付く事を諦めさせられ、遠くの地に住む所詮は理解し合えない存在同士だと又いつもの気質に寄り掛って決め込んでしまい、悲しくも残念にも、彼女は遠い炎天下に居ながらにして、私の知らない外国から唯手を振ったり微笑んだりして居るだけの存在(女性)と成ってしまった。きっと、何か私が功績を収めた後で彼女のインタビューを受けたとしても〝まるで異国の女性だろう〟と思う自分を容易に想像出来てしまい、彼女と私との間の親密度に要を得ないのだ。掴み処の無い彼女と私との間に在る互いの存在理由、一方に対する本体の価値、見えない感情を見てしまい、嫌に成ってしまう放棄に身を投げてしまい、真っ白な白紙(キャンバス)に又投身して自分の体内から発せられる数々の想像の色が周りにぼやけて行くのを、又、唯、見て居るより他なく成るのだ。

 当り障らず、穏やかな生活をようやく手に入れられ始めたかな、と思えて来た矢先に見た夢である。

 私の家から徒歩で五秒程の所に家を構える、K家と私との話であった。場面は夜である。いつか明けるか、と期待して居たがずっと夜だった。私には幼くして親友を味わわせてくれたKKと言う友人が居る。今はもうお互い成長して三十歳を過ぎて居り、私はあのKKが現在(いま)何処で何をして居るのかも知らないが、こうして私の夢では変わらない私が知る限りでの姿を以て現れる。しかしこの夢の主人公はどうも、そのKKの親父であるKのおっちゃんの様であった。

 〝Kのおっちゃんが昨日か今日の昼頃から行方不明になった!〟との知らせが私の母伝いに私へと伝わり、私はその模様を同じく昨日か今日かに既にK家の誰かか、又その周辺に住んで居る誰か(子供も含めて)から聞かされて居り、〝やっぱりか、やっぱりそうだったのか、まさか行方不明に成るとは…〟等とブツブツ呟きながら又母と努めて冷静で居る事を守りながら、やはりそれでも唯、互いに(私と母は)顔を見合わせて居るだけだった。しかし同時に私はこの家(自分の家)の中で、現実に於ける元職場と同様の広さと内容量とを持った仕事場を持って居り、私はその母親の知らせが届くまで衣類の洗濯をしたり、食べ物を作ったり、小道具を作ったりと、利用者である要介護者の介護をして居た。そこには元職場に於いて一緒に働いて居た気に入った・気に入って居ない職員も居り、私の嫌いな協同作業を織り成して一つの仕事(介護)をして居る。しかし不思議と利用者の姿は灯りの届かない暗闇に隠れた様にして誰一人見えない。その夢の中の職場は私の家の内の私室から襖一つ隔てた向こうに在った。

 私は好い加減その〝協同作業〟に飽きて嫌に成って居た節が既に在った様子で、その〝Kのおっちゃんの行方不明〟のニュースを聞いた途端に直ぐ様その新しいニュースの方に耳だけでなく全身を傾け、この職場を今すぐ捨てる覚悟は出来て居た。私のその決心は当然として共に働いて居た職員は知らず、特に女性職員が多かったその一団をあたかも一網打尽出来る〝降って湧いた機会〟に小躍りするようにして喜び、私は唯次の行動を決める為だけに耳を澄ます。

 していると直ぐに遠くからパトカーのサイレン(の音)が聞こえて来た。これ迄私が、子供の頃からずっと聞いて居た見ず知らずのパトカーのサイレンの音を急に身近に感じて、私は直ぐに母の顔を見た。母の次の言動が私の期待に沿うものである事を期待して、その時は夢の力を使う事を敢えて止め、母にこの〝流れ〟の全てを託した。

(母)「あれ(パトカーのサイレンの音)、追いかけるで」

 そう言う母の言葉に私は、無性に、掻き毟りたく成る程の嬉しさと、まるで足場を失った様な不安定に母が舞い降りて来てその不安な私を丸ごと救ってくれ得る様なイメージを妄想の内で構築し、私は又母に全ての〝流れ〟を託しながら、少しずつでもそうした母の役に立てる様に、と私は徐々に自分が出来る事(能力)を発揮し始めて居た。〝じゃあ車は俺が運転する〟と母に私は言って居た。全く、滅多に外へ出ない母との(外界での)冒険がこれから始まると思うと、武者震いがする程に嬉しかったのだ。そしてその〝俺が運転する車〟に乗って走り出したが、いつの間にか、途中で下車したのか、私が下したのか、母の姿は露程も見えず、気配が感じられなくなった時点で〝俺は一人だ〟として俺は新たな冒険に出、又いつしか時間が過ぎたのか辺りは昼間の様に明るく成って居り、私は車で森林を突き抜けた先に在った温泉宿(恐らく山小屋の様にして建てられたロッジ)を目前にして居た。

 過去に俺の恋人の様にして居てくれたKTが又自分の前に現れてくれ、俺の車の運転席側の窓を軽くコンコンと叩き、気付いた俺に本当に可愛い笑顔を見せて〝又抱き合いましょう。良い事一杯しよう、沢山の良い思い出、二人だけの思い出を作ろう、掛け替えの無い経験を私に頂戴〟と言って来た後、俺達は車から少し離れた林道迄てくてくと歩いて行って、人目を憚った後で(人が居ないのを良い事にして)、抱き合い、sexをし始めた。又私は彼女の唇を奪いながら、しっかりと、まるで我慢する様に目を閉じて居るTの肉付きが益々最高に良く感じられるお尻と、そこから真下に伸びて居るセルライトが浮き出て居る両太腿を今度は前と違って始めから思い切り、激しく揉み拉き、「ウン…ウン…」と可愛く呟く彼女を又一層強く抱き締めながらまるで逃げられない様にしっかり押さえた上で、二人の入り混じった涎が俺の服、彼女の太腿に垂れ落ちる程に強い接吻をし、きっと種付けまでし終えた。Tは事が終わった後、暫く俺の横で俺の腕枕を借りて横に成って居り、目は潤んだ程に細く見開いて居たがその時は何処へも行く様子はなかった為、俺は安心して一眠りに落ちて居た。Tは〝もうそろそろ良い?〟と又可愛く微笑を以て問い質し、次に満面の笑みを以て俺に自分から口付けをして、もう一度互いにギュウッと抱き合った後で、別れた。

 その後俺は暫く一服し、又、あの目前に在ったロッジの前に戻った。そこには茶髪したコギャル~ギャル達がそれ程今は多くはない様だが私にとってはわんさか居り、しかしその数が友人伝いで増える様に、後から後から増えて来る様な予感さえ漂わせて居た。私はここで恐らく初めて〝夢の力〟を使い、彼女等に自ら近付いた。あっと言う間に私はそのロッジの中に入り、〝ここはバンガローやで―〟という内一人の茶髪娘の一声を聞いた後、十~十五人程集まって居た〝今風〟のコギャル、ギャル達一人一人とsexをして居た。皆、開放的であって、現実では考えられない位のボランティア精神を以てギャル達は私に対して〝少しでも気持ち良く成る様に…〟と酒池肉林を、持って居るテクニックのあれこれを、旅の恥は掻き捨ての如く髪を振り乱して、〝自分の務め〟を果たす様に元気で在った。私はハーレムの王にでも成った気分で非常に気持ち良く、興奮し、まるで彼女達一人一人を愛するが如く、一人一人を自分の(そのバンガロー内での)部屋に呼んで尽きぬ程に可愛がった。しかし、それ等は一瞬にして私だけを残して雲の上に吸い込まれたのだ。良い所で目が覚めたものだ。



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~潜在~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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