第6話もし採用されたらこのコンビニ立て直します
「スイーツを作るとして、まず最初に考えることって何なんでしょうか、、、」
高見さんは悩むように机上に用意されたボールペンをくるくると指で押して回している。
「そうだ、香取さん、香取さんは普段商品開発で、どのようにして新商品のアイデアを見つけられているんですか?」
そこで俺は、このグループの案内を担当する社員の香取さんに助言を求めた。
「そうですね。たとえば、あなたはアイスクリームショップに来ました。バニラ・ストロベリー・キャラメル・チョコレート、4種類のアイスがあります。1つだけアイスを買えるとして、あなたは何を注文しますか?」
「私は、、、キャラメルですかね」
俺はそう答える。
「ではなぜ佐藤さんは、その味を食べようと思いましたか?」
「え、えっと、、、美味しそうだからですかね」
思いもよらない質問に戸惑ったが、緊張に声をこわばらせつつもとっさにそう答える。
「ではなぜ美味しそうだと思いますか?」
「それは、、、」
なぜおいしそうに見えるか。「おいしそう」とは、俺もよく使う言葉だが、「なぜ」おいしそうかなんて考えたことが無かった。
俺が答えられずにいると、高見さんが続けて話始める。
「今は実物があるわけじゃないから難しいと思いますが、人が商品を見て、これにしようと選んだ時、そこには必ず"理由"があります。なんとなく選ばれた物にも。見た目がきれいとか、国産素材が使われているとか、脂質が少ないとか。そういう、なぜ、どうして人気なのか。それを選んだか。そこに注目して買い物したり食事したり。私はそういうところからアイデアを引っ張ってきます。」
「なるほど」
俺はもっとこう、流行ってるから作っとけみたいな感じで作ってるものだと思っていた。勿論、流行も大切だろうが、それだけでは人気の商品を開発することはできないということらしい。よく店舗を利用していたが、そこまで気にしたことは無かったな。
「流行や思い付きだけではいいものは作れないということですね」
高見さんも香取さんの言葉に感銘を受けている。
「でも今回はどうしますか?皆さん、今までそんなこと考えてなかったような反応ですし、自分も考えたことなかったです」
番田さんは俺たちにそう問いかける。
「そこですよね、、、」
俺は手に持ったボールペンの上をカチカチしながら少し考える。
「確かに、考えたことありませんでした、、、」
高見さんも困ったような反応を見せている。
香取さんからもらったアドバイスを生かそうにも、今まで考えてこなかった俺たちには厳しい。今回は俺たちでも考えられるリソースでアイデアを出して考えるしかない。
「とりあえず、ターゲット層を決めませんか?」
俺はそう提案する。行き詰ったら決めれるとこから決める。タイムリープしてくる前務めていた会社で俺がよくしていたやり方だ。
「たしかに、決めれるところからでも決めましょう!」
「ひとまずそうしましょう」
2人も賛同してくれるようで一安心だ。話し合いをスムーズに進めることができそうだ。
★★★★
そのあと、香取さんと2人の協力もあって、無事新商品のプレゼンを終えることができた。正式な商品として採用されることは無かったが、俺たちが考えた「クロワッサンドーナツ」は、かなりの高評価を得ることができた。これは翌年、2014年の流行スイーツの一つを先取りしたものだ。俺はタイムリープ前の世界で、クロワッサンドーナツにはまっていて、いろんなショップを訪れていたものだ。
「2日間ありがとうございました!」
「おつかれさまでした」
インターンシップ2日目の終了後、高見さんからの提案で、お疲れ様会を開くこととなり、3人で近くのショッピング施設の喫茶店に訪れていた。
「お疲れさまでした」
俺も二人に続く。
「、、、って言っても、まだ面接が残ってる訳なんですけど、、、」
「あ、たしかに」
そもそも今回はインターンシップだ。インターンシップへの参加は重要ではあるが、入社試験はこれからだ。適性試験はいいとして、面接はどうにかしないと、、、
「というか、2人とも入社試験受けますか?勝手に話し進めちゃいましたけど、、、」
高見さんが問いかける。
「俺は受けるよ」
俺はそう答える。
「私も受けますよ」
番田さんもそう答える。
「じゃあ3人でまた一緒に働けるように、試験頑張りましょう!!」
「「おー!!」」
、、、面接練習しとこ。
★★★★
「いよいよか、、、」
俺は適性試験を無事合格。今日はいよいよ面接本番だ。
「次のグループの方は順番にお入りください」
グループ面接の順番が回ってくる。インターンシップで知り合った2人は別グループのようで、見たことのない人やインターンシップで見かけた人と組むことになった。
「それでは、順番にお名前を、、、」
面接が始まる。3人の面接官は、落ち着いた表情ではあるが、その目から真剣さと誠実さを感じ、膝に置いた手に自然と力が入る。俺は事前にまとめた自分の志望理由や自己PRなどを一つ一つ、確実に答えていった。 そして、、、
「では最後に、佐藤さん、なにか最後に質問や話しておきたいことはありますか?」
面接官のその問いに、俺は焦りを感じた。ここで「ありません」と答えるのはぜったいNG。ここで質問したいことも、話したいことも考えていた。でも、、、
(最後の最後に緊張で全部とんだーー!!!)
しかし、何も話さない、質問しないというわけにもいかない、、、
追い詰められた俺は、頭真っ白で宣言する。
「もし採用されたらこのコンビニ立て直します!!」
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