ドリルですわ

「うららかな陽気ですわね、シェミー?」


「本当にですわ、アザゼラお姉さま。紅茶がよく合う、ほんわかとした昼下がりですわね」


「平和ですわね~。まったく、うっとりいたします」


「憩いのひとときですわね、ほほ――」


 どがががっ!


 炸裂する破壊音に小鳥たちも散り散り。


 アザゼラ、シェミーの両名はギョッとして庭のほうを見やる。


「潜るのだ、潜るのだ……!」


 地面を掘削するニッカポッカ姿の女性。


 黄色い安全メットをすっぽりとかぶったそれは、誰あろう、サタナエラであった。


「サタナエラ! いったい何をしているのですか!」


「アザゼラお姉さま、ドリルですわ!」


「それは見ればわかります! そのやかましい作業をいますぐにやめなさい!」


「だが断るの!」


「しぇ、シェミーが思うに、鼓膜が破れますわ……!」


 ドリルのスイッチを切るサタナエラ。


「ふう、フェイズ・ワン終了っと……」


 あごから垂れる汗を手の甲でぬぐう。


「いったい何フェイズあると言うのですか?」


「アインクラッドのそれを凌駕いたします」


「タイムリー! 映画がトレンドになっているいま!」


「角への配慮ですわ、たまにはね」


「いや、角言うな、角!」


「あちぃですわねえ。アザゼラお姉さま、アイスティーを所望いたしますわ」


「駆けつけ三杯みたいなノリで言わないでいただきたい」


「サタナエラお姉さま、なにゆえ掘削を?」


「いやね、お二方。人間、額に汗して、油まみれになって働くのが一番だと思いましてね」


「真面目っ! 肉体労働に目覚めたのですか!?」


「てか、わたしたちは人間なのですか?」


「スカイネットにでも見えますか?」


「なんすか、その返し! シュワちゃんを呼びますよ!?」


「呼ぶなら特戦隊にしてください」


「弱そ! シュワちゃんより弱そ!」


「ちちんぷいぷい!」


 力こぶを作ってほほえむサタナエラ。


「いらつく! その笑顔!」


「心がすさんでいるからですわ。お二方もたまには体を動かしなさい。それはとてもとても、気持ちのいいことなのですよ?」


「カヲルく~ん! スマイルパンチ一丁!」


「プライスレス」


 サタナエラ、にやり。


「うるせぇ! ぶっ飛ばすぞコラぁ!」


 泡を吹いて激高するアザゼラ。


「そんなことだから何もつかめない……それはきっと、永遠に……!」


「鏡月パパ風にイキってじゃねえ!」


「まうんてんパパだよ~」


「……殺す、殺してやるぞ、サタナエラあああああっ!」


「しぇ、シェミーが思うに、セルフ・オマージュですわ……!」


「セルフでやるのはマスだけにしときなっ……!」


「もう許さん! 死ね、サタナエラあああああっ!」


 アザゼラ、手からエネルギー弾を発射。


「ふんはっ!」


「何いっ!?」


 サタナエラ、ドリルごと中空へ跳躍。


「……」


「……」


 静かに見下ろすサタナエラに対し、怒りの表情で見上げるアザゼラ。


 実に対照的な構図だ。


「どんなに強い力を持とうとも、人の心までは砕けない……!」


「サタナエラ、言わせておけばあああああっ!」


「幕の引きどきですね、アザゼラお姉さま……!」


「おのれ、消し飛べえええええっ!」


 口から灼熱の炎を吐くアザゼラ。


「無駄なことですわ、はあっ――!」


「ああっ、サタナエラお姉さまが!」


 サーフィンの要領でドリルを操るサタナエラ。


「ぎにゃあああああっ!」


 そのままアザゼラを粉々に破壊する。


「アザゼラお姉さま、あなたの敗因はたったひとつ、たったひとつのシンプルな理由です」


「しぇ、シェミーが思うに、それはいったい……?」


「手前は俺のお子様ランチ」


 どしゃ~ん!


「い、意味がわからない」


「ふっ、またつまらぬものを掘ってしまった」


 サタナエラの勝利。


 ててててー、てーてー、てってて~ん!


 サタナエラはレベルが上がった!


「やらないか?」


「アザゼラお姉さまあああああっ!」


「わたしが無限の魂を持っていることをお忘れなく」


「ナインライブズ!? てか、インフィニティライブズ!?」


「とにかく収録は成功ですわね、サタナエラ?」


「ええ、これでバカデミー賞はバッチリですわ、アザゼラお姉さま」


「ど、どういうことですか……?」


「映画の撮影ですよ、シェミー。今度の宇宙コンペティションに出品するのです」


「そのために魂をひとつ使ってまでとは……」


「これくらいやらなければ、海千山千のきゃつらには勝てません。たばかったのは内容をよりリアルにするため。ごめんなさいね、シェミー?」


「と、トップランナー……」


「さ~てと、さっそく編集作業に入るとしますか」


「このために新しいマシーンを組んだのです」


「プレミアはパワーを食いますからねえ」


「シェミーも手伝ってくださいな」


「か、かしこまりましたわ、両お姉さま……」


「タイトルはどういたしましょう?」


「燃える悪役令嬢の赤いドリルはいかがですか?」


「ウィットに富んでいていいですねえ、ほほほ」


「いまから結果が楽しみですよ、ほほっ、ほほほ」


「あ、ははははあ……」


 こうして無事に編集は終わり、作品はコンペにかけられ、かくかくしかじかとして結果発表とあいなった。


「われわれの映画はどうでしょうか?」


「オスカーに決まっているでしょう? ほほほ」


 カチカチ。


「これは……」


「努力賞……」


「い、一位は?」


「劇場版、アニメ、桜の朽木に虫の這うこと……」


「くっ、くっ、くっ、くっ……」


「朽木いいいいいいいいいいっ――!」


「ああっ、両お姉さま!」


「ぬっころおおおっす!」


「あ、はははあ……」


 こうしてアザゼラならびにサタナエラは秋田へと向かった。


 しかしそれは単なる徒労に終わったのだ。


 なぜならそのとき、朽木は伊丹にいたからである。


 腹の虫が収まらない二人は、勢いで秋田を破壊した。


 朽木は意に介さず、さしあって福岡へと向かった。


 おしまい。


※この小説はフィクションです。

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