第3話 DISC3(#6)

<#6 爆誕! 無敵の美少女剣士!!>


「泣くな、少女よ」

 俺は、何が起こったのか分からないといった感じの、目の前の彼女に声をかける。

「立つのじゃ。今、魔法を解いてやる」

 彼女の体が一瞬光に包まれ、そして消えた。

「え……あ、動ける……」

「そなた、名前はなんという」

「あ……ク、クリス……クリスティアです」

 よろよろと立ち上がる彼女――クリスに、俺は続けて言う。

「そうか……クリスティアよ、よぉく聞くのじゃ。わしは正義の女神、フレイア様の使いじゃ。善良なる、心優しき者を救えとの命を受け、この地上に遣わされた精霊なのじゃ。そなたに力を貸そう。その箱の中には、神が作りし伝説の……無敵のアーマーが入っておる。それを使って、ここから脱出するがよい」


 ビキニアーマーとは、別な存在を装うというのは前から決めていた。

 だってさ……これの正体が、不細工で小太りの三十過ぎのおっさんと知ったら、相手が「そんなの着るくらいだったら死を選びます!」になっちゃうのは、火を見るより明らかじゃん?

 フレイアというのは勿論でまかせ、前世で見た漫画だかアニメだかからの流用。

 そして、こんな口調で喋っているのは、前世でやった双六風のゲームに出てくる、お金やカードをくれる神様をイメージしてのことだ。

 うーん、これで少しでも彼女を騙せるんだろうか?


「え、でもこの箱って、ミミックなんじゃ……」

「ミミックなどではない! 伝説のアーマーじゃ! 時間がない、早くするのじゃ!」

「は、はい!」

 ガシャッ。

 慌てた様子でクリスが箱を開ける――


 そう、「自分」を装着さえしてくれれば、クリスは助かるのではないか。

 さっき、クリスは重そうな荷物を背負っているにも拘わらず、俊敏に動いてポニテの女を助けた。意外と身体能力は高そうだ。

 彼女が、膨大な魔力、絶対無敵の力を備えた「自分」をつければ、あの魔物を倒せる可能性はある――俺はそう思っていた。

「え……」

 だが、箱の蓋を開けたクリスは、フリーズしている。

 アーマーという言葉からイメージしたのとは、相当に違う物が入っていたからであろう。

 しかも、着るのはこれ即ち、ほとんど裸になるような物が――


「緊急事態じゃ。手荒なまねをするが、許されよ!」

 俺は魔力を集中させる。「自分」が、眩く光り出したのが分った。

「きゃあっ!!」

 無意識に自分を守ろうとした姿勢になったクリスの体が、同じように光に包まれた。

 モスグリーンの上着とズボンが、細切れになって消滅していく。

 その下に着ていた、彼女くらいの若いが着るにはちょっとデカいんじゃないかと思える、飾り気のない白のブラジャーとパンツが見えたが、それも一瞬のことで……クリスは文字通り、一糸まとわぬ裸の姿になった。

 間髪入れず、「自分」を、クリスの胸と腰に纏わせる。

「はうんっ!」

 クリスは声を上げ、ビクンとちょっと仰け反った。

 膨大な魔力が流れ込んでいるのか――光に包まれたクリスの体は、その姿勢のままで、地上から三十センチくらいのところで宙に浮き、彼女の意識ともども、固まっている。


 クリスの両手両足に、白いロンググローブとロングブーツが形成されて、装着されていく。まあ、これは「標準装備」だ。

 しかし、彼女――

 その肌は新雪のように真っ白い。

 大柄な体に相応しく、胸もお尻も大きいが、ウエストはきっちり細い。ナイスバディ……いや、ダイナマイトバディだ。

 その体型に……「自分」は、まるで最初から彼女のために作られていたかのように、完璧にフィットしていた(なお、長きにわたる懸念事項であったハミ出しはないことが確認された)。

 そして……魔力のため、今、彼女の髪はちょっと逆立っているが、初めて見たその丸くて大きな瞳は、まるでサファイアの宝玉を思わせる美しさだ。

(な、何っ……こっ、この、むちゃくちゃ美少女じゃねーか!!)

 ポニテの女がクズだということをヌキにして考えても、クリスの方が更に上だ。

(よおし、そうと分れば、サービスだ!)

 汚れを落とし、銀髪をサラサラショートヘアにする。前髪が目にかからないようにセットすると、生成した白いカチューシャで固定する。

 ついでに両耳に、紫石英を丸く加工したイヤリングも装備だ!


 ふわり。光が消え、彼女の体が一陣の風とともに地上に降り立つ。

 我に返ったクリス――近くの、大きな紫石英の結晶の一面に映った自分を見て、大きな目を丸くした。

 そりゃもう、顔も体も、美しさの大渋滞だし。

「え、ええっ! これが、あたし……?」

「うむ、よく似合ってるぞ」

「……ちょっと……恥ずかしい……な……」

 頬を染めてクリスが言う。まー確かに。後ろを見ると、お尻の上の方が見えちゃっている。

 だが、別人のように美しくなった顔には、本人も何か感じているところがある――と、俺は思った。

「でも不思議ですね……この鎧、金属でできてるはずなのに、なんかあったかいです」

 そりゃ元は「人間」だからな。しかし――


 俺はだんだんムラッとしてきていた。

 だ、だってさ……当たってるんだよ?

 実は超絶美少女だった彼女の、大きな胸の膨らみの先端にある二つの小さなポッチと……そ、その……女の子の大事な部分がさ?

(こっちからもさわれるのかな……)

 この生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに、俺は……自分の欲望に負けた。その場所に、意識を集中すると――

「ひゃうんっ!」

 大きな声をあげて、クリスは一瞬ビクンと硬直した後、その場にしゃがみ込んだ。

「み、使いさまあっ! い、いま何か、すっごくヘンな感じがしたんですけど……この鎧、本当に大丈夫なんですかあっ? それになんか、だんだん熱くなってる気がするんですけど……」

 顔を真っ赤にして、ちょっと涙目になったクリスが言う。

 この初々しい反応……多分、生まれてから一度たりとも「そういうこと」はしていないのだろう。

(ホントに純真無垢ななんだなあ……)

 こんなを、三十過ぎのおっさんがけがすわけにはいかない。

 自ら、彼女と接している部分の感覚を魔法で遮断した。

「あー、すまんすまん。そなたに合わせてこの鎧の性能が最大限に発揮できるように、ちょっと微調整をしての……もうしな……いや、もうならない」

 

「ギャオオオ!」

 帆掛け竜ディメトロドンもどきの魔物が、ガラガラ紫石英の結晶をはね除けながら起き上がった。

 こっちを向いたその両目が、ギラリと赤く光った。

 明らかに怒り心頭に発している様子だ。

 そうだ、クリスにイタズラしている場合ではなかった。

 さっき彼女が見た冒険者の白骨遺体の腰に、まだ剣が残っていた。

 念動力を使って、それを鞘から抜き移動させ、ザクッと、クリスの前の土の上に突き立てた。

「ヤツが来るぞ! それを使って戦え!」

「え、でっ、でも……さっきの人の高そうな剣でも、折れてしまいましたよ?」

「大丈夫! その剣にはアーマーの魔力で強化バフがかかっておる! 臆せず戦え!」

「は、はいっ!」

 クリスは立ち上がると剣を抜き、おっかなびっくりという感じで、ドシンドシンと足音立てて向かってくる魔物の前で、剣を構える――

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