第17話

 次に目を覚ましたのは、日が暮れてからだった。

 枕をせずに寝ていたからか、身体を起こした瞬間、首の裏に引きつるような痛みが走る。肩を竦め、捻ると、背骨の関節が乾いた音を立てた。

 薄汚れた窓から、街灯の黄色い光が差し込み、殺風景な部屋の輪郭をなぞっている。

 僕は寝ぼけ眼を擦ると、乾いたため息をついた。

 脳が痺れてる。

 喉がどうしようもなく乾いていたから、立ち上がり台所まで歩いて行った。乾いたシンクに溜まった唾を吐き出すと、冷たい水を出して、口に含み、気持ち悪さと一緒に呑みこんだ。

 それから目を洗い眠気を飛ばすと、電気ケトルの電源を入れた。

 赤き光るランプを横目に、冷蔵庫を開けてインスタントコーヒーの瓶を手に取る。スプーンを手に取り、赤焦げた粉をひとすくいし、マグカップに入れる。その三十秒後に湯が沸いたから、ゆっくりと入れた。

 ふう…ふう…と息を吹きかけ、マグカップに口をつける。

 そこで僕は、我に返った。

「あれ…」

 顎に手をやると、冷蔵庫、シンク横の食器棚、そして、左手に握ったマグカップの順に視線を移し、また静かに黒い液体を啜る。

 舌先に広がる芳醇な香りと、焼けるような熱に身を震わせつつ、壁にもたれかかった。

「何の夢、見てたんだっけ…」

 何も思い出せなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る