19

 あっというまに私たちは扉のまえに到着した。私はなるべく視線をしたに落とし、小さくなって気配を消した。


 向かいでは男の子が立っているのがうっすら見える。その日も男の子の周囲には、いつもどおりほんのわずかなスペースがあった。


 マコは私を引っぱって、そこに無理やり身体をねじこむ。二人で横にならんで立つ。男の子ははっきり言ってもう目のまえ。向こうはまるで私たちなど気にしてなんかいないけど、ちょっと手を伸ばせばたっぷり肌に触れられる距離だった。


 私はとにかく小さくなって気配を消した。視線はとにかく地面に地面に。


 となりでマコがなにをしてるか知らないけれど、少なくともこれだけの大女である。ちびの私より、はるかに目立っているはずだ。


 私はよほど「目立つな」と言ってやろうとしたが、声など出せる勇気はない。心のなかにぐっととどめる。ここまでくれば、うかつに文句など言えない。口を開けば存在どころか、会話の内容まで男の子にばれてしまう危険性がじゅうぶんにある。


 当面の希望は、マコがよけいなことさえしなけりゃそれでいい。


 そんなふうに思っていたが、私の心のあわてふためきなんてまるで気にするそぶりも見せず、マコはふつうにしているし、満員電車も平常心をたもちながら自分のペースで走っていた。


 おき去りにされたような空気のなか、とにかく黙って私は電車に揺られていた。

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