20

 がたごと、がたごと。頭は真っ白。周囲の喧騒がひどく遠くに感じられる。


 体感時間はほとんど無限に近かったが、まだ次の駅にもついていない。おそらく十数秒のことだろう。まるで私だけが、どこか違った世界にでも飛ばされちゃったみたいだ。


 背中をつんとしたものが高速で駆けあがり、目のまえがちかちかとハレーションを起こしていた。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ……


 私は一人、あせっていた。危険信号のアラートが頭のなかでがんがん響く。おまけに三文字のカタカナが、頭のなかを右から左へエンドレスにスクロール。いつか見た電光掲示板みたいに流れる。たぶんその十数秒で百万回は流れたと思う。


 やばい、目までまわってきた。早くここから逃げたい。そう思ったときだった。


 不意に電車ががくっと揺れた。ほんのわずかな横揺れだった。おそらく急カーブにでもさしかかったのだろう。電車のなかではわりとよくあることである。ちょっと足をふんばれば、こんな揺れなどなんでもないはず。


 しかし、その瞬間を見逃さなかった女がいた。175センチの上空からキランというSEが聞こえた気がした。


「きゃっ」


 待ってましたといわんばかりに、私の横からわざとらしい声が響いた。首をめぐらし視線を向ける。


 ぎょっ。


 目玉が飛び出た。


 マコが姿勢を崩している。


 まるで足をふんばるつもりがないみたい。まえのめりに倒れこみ、男の子の胸のあたりにうずまるようにしがみつく。

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