18

「なんていうか、ザ・イケメンって感じ」


 だから勝手にへんなあだ名をつけるなよ。


 そんなふうに思ったけれども、不思議と悪い気はしなかった。なんだか自分が褒められたみたいに感じたからだ。


「でも、あれって、いったいなにしてるんだろう」


 ひとりごとでマコが言う。


「すごい真剣にスマホを見つめているけどさ。もしかしたら、耳のイヤホンをとおしてエレクトリカルワールドと交信でもしてるのかな」


 なんだそれ? ひとつも意味がわからない。


 耳はおそらく、ふつうに音楽でも聴いているだけだろう。まったくいちいち、わけのわからないことを言う女だ。


 マコは自分のスマホに視線を落とし、不思議そうに言葉を続ける。


「いや、ほんと、すごい集中力だわ。たまに小さく口もぱくぱくやったりするし。スマホのなかの世界に没頭してるって感じ。いったいなにをそんなに真剣に見てんだろ」


 そんなの知るか。


 だから私が言ったじゃないか。ちょっと変わってるから観察しているだけだって。それをマコが好きとかなんとか。ぶつぶつぶつぶつ……


「ねえ、ウミ」


 男の子にこっそり視線を向けたまま、マコが私のハンドバッグを引っぱった。


「もっと近くにいってみよう」


 はい?


 私は目をぱちくりさせた。いったいこの子は、なにをいきなり言い出すの?


「ちょっと、マコ……」


 なんて私が言うまもなかった。私の意見を聞く気もなく、マコはさっさと行動している。


 うんしょ、こらせ、ちょっとじゃまです、すみません。そんな調子で私を引っぱり、人をぐいぐいかきわける。電車を奥まで歩いていく。


 人ごみをかきわけながら、私も場所を移動した。不本意ながらもマコに連れられ、受動的に動くかたちだ。

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