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電子のメロディと鼻風邪のアナウンスが義務のように流れ、ひととおりの乗降客の波がとぎれて扉が閉まると、電車がふたたび走り出した。
この駅はわりと大きく、たくさんの電車がとおっているので、乗り換えを利用する人も多く、周囲の顔ぶれががらりと変わる。例の男の子も人の流れの波にまぎれて、いつのまにか扉まえの定位置に立っていた。
「ねえ、ウミ、あれ?」
電車が走り出してすぐだった。長身のマコが腰をかがめて小さく耳打ちした。
人ごみのなかでも男の子は、頭ひとつ突き出ているから、よく目立つ。そちらをずっと凝視していたマコはすぐに気づいたようだ。
うん、そうだよ。
アイコンタクトでマコに伝える。
ふーん、そう。
にやついたマコの顔には、そんな文字が書いてある。
男の子が立っている扉は、私たちの位置からは、ななめ左の前方だった。直線距離では、せいぜい三、四メートルくらいだが、あいだに人が壁みたいに立っているので、体感距離はもっと長い。
男の子は、いつもどおりのアメカジみたいな服装だった。
フロントジップの淡いピンクのスウェットパーカー。左肩に例のバッグをかついでいて、右手の先でスマホをいじっている。耳にはもちろん、白いワイヤレスイヤホン。いつもとちょっと違うのは、大振りなスポーツタイプのサングラス。たしか、スポーツ用品のブリコとかっていうメーカー。これもいつだかロフトで見かけた。ゲレンデ用のゴーグルなんかが有名だ。髪のうえに跳ねあげて、カチューシャ代わりに使っている。
「ていうか、めちゃくちゃかっこいいじゃん。電車男」
扉の方にこっそり視線を送りながら、ひそひそ話でマコが言う。
「あんたが電車男なんていうくらいだから、オタクみたいなやつを想像してたけど、ぜんぜん違う」
私はひとつも、そんなことは言っていない。マコが勝手にへんなあだ名をつけたのだ。へえと言ってマコはひとりで納得している。
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