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 その日も車内は、いつもと同じ様相だった。なみの混雑ぐあいというやつ。乗車率は150パーセントというところ。


 もちろん、かぎりあるつり革は争奪戦になっているけど、ほかに場所はいくらでもある。私たちはシルバーシート周辺の、細い通路にならんで立った。その位置は、車両と車両の連結部分の近くのエリアで、通路をはさんだ壁ぎわに、三人がけのシルバーシートが電車に対して平行に向かいあってならんでいる。


 前後左右にうじゃうじゃ人がいるけれど、ドア付近のエリアよりはだんぜんましな空間だった。なんといっても、ちびの私が埋もれないですむ。車内の景色も楽しめる。


 私とマコは人ごみのまんなかあたりで、先ほど開かなかった方の扉を向いて立っていた。その位置からだと人の頭のあいだから、男の子が立つ(であろう)乗降扉がよく見える。


 とうぜんだけれど男の子はまだ乗っていない。しばし黙って、がたごと電車に揺られる。


 電車はいつもと変わらずに、自分のペースに忠実だった。動き始めてしばらくはマコもおとなしかったけど、二つ先の駅が近づいてくると、さすがに我慢ができなくなったようだ。また例の妙に高いテンションではしゃぎ始める。


「そろそろだね。チャンスがあったら私がうまくアプローチして、あんたに絶妙のパスを出してあげるからね」


 おいっ。そんなことはたのんでいない。


 だいいち、いきなり電車のなかで話しかけられたりしたら、ふつうは引く。絶対引く。少なくとも私はそうだ。なんでこいつは、いちいちよけいなことをしようとするのだろうか。


「いいから、黙って電車に乗ってる。よけいなことは絶対しない。いい?」


 声を殺して念を押した。


「はいはい」


 マコはへらへら笑って、あてにならない返事をした。


 むう。こいつは絶対、聞いていない。私の話をいつもみたいに流してる。


 心配だ。ひじょうに、ひじょーに心配だ。


 そんなこんなで灰色の電車が、二つ先の駅についた。

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