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「うーん」


 うなりながら部屋のすみに鞄をおくと、私は中央で床おきになってるミニテーブルのまえに座った。マコとは少々段差があるが、向かいあった形になる。


「べつにあえてつくらないとか、そういうわけじゃないけど、好きな人もいないしね」


 どうも私はこういう会話がけっこう苦手だ。彼氏はほしいと思うけど、もともとがそれほど恋愛依存の体質じゃない。


「ヘンリー、かっこいいしやさしいしおもしろいから、それ以上のやつってなかなか大学じゃ見つからないか」


 だから、そういうことじゃないんだけどな。私の言葉をまるで聞かず、マコは勝手に納得している。


「それより」


 マコはつくらないの、彼氏。


 なんとなく、流れ的にそんな台詞を言おうとすると、ベッドのうえの友人はかぶせるように口を開いた。


「どっちがかっこいい? ヘンリーと電車男」


 もう。話がすぐにそっちの方に戻っていく。だいいち、どうしてへんなあだ名をすぐにつける。私はせめてもの反撃で、精いっぱいの言葉を返した。


「電車男って。マコ、古いよネタが」


「で、あんたはどっちの方が好きなの?」


 あうう。やっぱりこいつ、私の話を聞いちゃいない。


「だーかーらー……」


 不毛な会話が、そんな感じで深夜遅くまで続いた。

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