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 その日マコは宣言どおり、私の家に泊まりにきた。


 学校から歩いて五分のアパートには帰らず、わざわざ一時間もかけて電車に乗って私の地元にやってくる。まったくもって、ご苦労なことである。


 私の家は、駅からわずかに離れた場所にひっそりある。天然の山を切り崩した小高い丘の灰色ベースの住宅街に建っている。二階建ての一軒家。右も左も正面も、そんな感じの家なので周囲の景色にごくごく自然に溶けこんでいる。要するにモデルハウスの規格品というやつだ。私はそこで両親といっしょに暮らしている。


 兄弟姉妹もペットもいない。一世帯の三人暮らし。典型的な核家族。


 一階はリヴィングルームやキッチンや風呂やトイレの水まわりで、二階に私や両親の部屋がそれぞれ独立してひとつずつある。


 私たちが家についたのは二十一時すぎだった。


 親にはマコが泊まりにくることを事前にLINEで伝えてあるし、夕食もマコと二人で外ですませた。


 玄関に入ると正面の階段をのぼり、まっすぐ私の部屋に向かった。


「だから、べつに好きとか嫌いとかそういうんじゃなくて、ただ電車でよく見かける男の子。ただそれだけなんだって」


 この説明を、これで何度しただろう。マコはぜんぜん理解してない。


「てか、あんた、ヘンリーと別れてからけっこうたつよね。新しい彼氏とかつくらないの?」


 部屋に入ると、マコは私のベッドに腰をおろしてそう言った。同じ方向性の会話ではあるが、初めて内容が変わった気がした。


「あんたがヘンリー王子と別れたのって、たしか年が明けるまえだったよね。かれこれもう三ヶ月以上たつじゃん。そろそろ寂しくなってくるころなんじゃないの?」


 ちなみにマコが言っている、ヘンリー王子は大野源太おおのげんたのことである。


 春休みまえに別れた私の元彼。純粋な日本人だが、髪を金に染めていて、ほんのちょっと外国人っぽい顔立ちだ。


 鼻が高く、赤ら顔で色が白い。サークルの誰かが英国王室のドラ息子の若いころに似ているとかいって、そんなふざけたあだ名をつけたみたい。そのうちハゲるってことなのだろうか。

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