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「毎朝、同じ電車に乗りあわせる男の子がいるんだけど、ちょっと変わっていて目立っているんだ。完全に自分の世界を作っていて、人を寄せつけない雰囲気なんだよ」
私のへたな説明に、マコからは「ふーん」の言葉も返ってこない。
「すっごいまじな顔して、スマホの画面を見つめてるんだよ」
身振り手振りでそう言って私は言葉をしめくくる。
「へえ」
そこでようやく、いちおう返事が戻ってきたが、いつものつねでマコは話を聞いていない。遠くを見つめて、たばこの煙を大人みたいに吐くだけだ。
「それで……」
わけがわからないといった調子でマコは言う。
「それとウミが服装に気をつかうのと、どんな関係があるの」
うーん。これはちょっと難しい。
男の子が毎日おしゃれに気をつかって、いつも違う服を着てくるから、私も同じ服は着ないように心がけている。
バッグや靴や髪に隠れたピアスなんかも、いちおう毎日変えている。それが毎日顔をあわせるものとしての礼儀なんだと勝手に思う。
なんてことを、噛み砕いていっしょうけんめい説明した。
わかりづらい私の説明が、ちゃんとマコに伝わっているのだろうか不安になる。
「それで……」
マコは煙といっしょに言葉を吐いた。こちらを見ずに、白煙の漂う天井に視線を向けてあくびをしている。
「顔はどうなの、その男。かっこいいの」
あうう。やっぱりこいつは、私の話を聞いていない。なんだかがっくりきてしまう。
「はあ」
しかたがないから私はこたえた。
「うん。まあ、ふつうに」
そう言ったところでマコの反応が急に変わった。天井を見ていた視線がいきなりこちらに向けられる。
「見たい!」
「え?」
疲れて肩をしゅんと落としていた私は驚かされた。からかうみたいにマコは続ける。
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