10

「すっごいにやにやしてたよ、あんた。気持ち悪い。なにか悪いものでも食べた?」


 えっ? うそ? 


 私は両手で頬を押さえて、とっさにこたえた。


「べ、べつに、なんでもないよ」


 マコはまじめな顔をして、ますます私をのぞきこむ。


 やばい。こいつはキス魔なのだ。


 私、キスでもされちゃうのかな。思わず目をつぶってしまいそうになる。


「てかさあ、あんた……」


 ぐいと顔を近づけて、マコはわずかに目を細める。たばこの匂いにほんのりと、マコの甘い香りが混ざる。大写しの接写モードで私の視界にマコの顔が広がった。二重のラインどころか、毛深いつけまつげの一本いっぽんが独立して見える。それが今にも、私のまぶたに触れそうだった。


 ごくり。


 つばをのんだ。


 目を閉じる。遠慮しながら、なぜか口を「う」の形にすぼめてしまう。なんというか条件反射。


「ねえ、ウミ……」


 マコの声が私のくちびるのすぐ近くで聞こえてきた。吐息がこそばゆい。覚悟を決める。


「……最近、やたらとかわいく作ってない、顔」


 ほえ? 


 私はあわてて目を開けた。


 キスがくると思っていたのに虚をつかれた。意外な言葉を投げられて、私はぽかんとなってしまう。


「こ、濃いかな、化粧」


 われに返って私は言う。マコは私の顔から離れた。


「んー。ちょっとね。それに服装にも、やたらと気をつかってるって感じ。女の子おんなのこしているっていうか。ここ一週間くらい、あんた靴もバッグも毎日違うの選んでるでしょ」


 マコはさすがにジュエルスターの一員だった。星だけでなく、人のこともよく観察している。


「そんなにおしゃれしちゃって、どうした。好きなやつでもできたの?」


 うーん。当たっているようで、ちょっと違う。


 私はかん違いされるまえに、電車で見かける男の子のことを手短に説明した。

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