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「まあね。でも、ほかにちょうどいい時間の電車がなくて。このあとの電車だと授業にちょっとくいこんじゃう。遅刻するよりはいいでしょ」
「ふーん」
学校の近くで独り暮らしをしてるマコには、通学時間という概念がこれっぽっちもない。興味なさげにうなずくだけだ。
「それより、マコはどうしたの。いつもは授業ぎりぎりにくるのに、今日はやけに早いじゃん。まだ始まるまで三十分以上あるよ、ほら」
私はそう言って、にぎっていたスマホの画面をつけた。表示してあるデジタル時計をマコのまえに突きつける。イメージ的には水戸黄門。控え、ひかえ、ひかえおろう。
「ああ」
B型の大女は、まえを見たまま無関心にうなずくだけで、私のスマホには目もくれない。なんだか私がすべったみたいな空気になった。
「ちぇー」
つまんないの。
私がむくれて視線をそらすと、となりを歩く大女の手元が見えた。シカト女のマコの手には、ヴィトンのオンザゴーのバッグといっしょに、クリアファイルがにぎられていた。なかにはパソコンからのプリントアウトが一枚入っているようだ。
「それなあに」
私が聞くと、マコはプリントを顔のまえに突き出して見せてくれた。こいつも、水戸光圀のモノマネをしてるのだろうか。
「サークルのうちらの学年の名簿。名前と電話番号が書いてあるやつ。本当は昨日までに作らなきゃいけなかったんだけど、忘れちゃって。だから、せめて朝イチで届けようかなって思ってさ」
あまり悪びれずに笑いながらそう言った。そういえば気の弱い部長も、いつだかこぼしていたっけ。
各学年の今年の名簿が早くほしい。
来月早々、ゴールデンウイークにサークルの合宿(というより旅行)があるので、いろいろ把握したいのだろう。
それなのに、こいつは、本当に、もう。
まったくもって、いいかげんな女である。
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