7
「おはよー、ウミ」
男の子の観察を始めて数日がたった。
その日の観察をぶじ終えて、ほくほく気分で電車を降りて歩道をてくてく歩いていると、背中で声をかけられた。
ほんのちょこっと鼻にかかったハスキーヴォイス。うるさいほどのハイテンション。振り向くとB型の友人が、百七十センチのはるか上空から顔をのぞきこんできた。
「うわっ」
私はこいつが相手だと、いつも圧倒されてしまう。足をとめ、くちづけができる距離の顔に向かって反射的に返事をした。
「おはよう。マコ」
そう言いながら顔をそらす。
「おはよう、ウミ」
長身の友人は人の顔をのぞきこみ、やたらと近い距離で話すくせがある。
そういえばこいつは、酔うとキス魔になるんだっけ。私の横にひょいとならぶと、ペースをあわせて歩き始めた。狭い歩道で一列横隊。早朝の通学路に、ほかの学生たちの姿はない。ほとんど歩道が貸切状態。駅まえにならぶマクドナルドやドトールやコンビニなんかの自動扉が、退屈そうにこちらをじっと眺めている。チェーンではないほかのお店は、どこもかしこも灰色のすすけたシャッターが降りたままで退屈そうに眠っていた。
「ウミ。あんた、いつもこの時間なんだね」
うー、彼氏彼女のサイズバランス。ヒールの音をかつかつ鳴らしてマコが言う。
「てかさあ。あんた、この時間の電車だと、授業までちょっと早くない?」
私は視線をマコの足から頭のてっぺんまで、ゆっくりとスライドさせた。
ヒールのついたパンプスは、私好みでちょっとかわいい。控えめなヒールの高さはだいたい五センチくらいだろうか。それなら今日は、百七十五センチの日だな、こいつ。
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