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「おはよー、ウミ」


 男の子の観察を始めて数日がたった。


 その日の観察をぶじ終えて、ほくほく気分で電車を降りて歩道をてくてく歩いていると、背中で声をかけられた。


 ほんのちょこっと鼻にかかったハスキーヴォイス。うるさいほどのハイテンション。振り向くとB型の友人が、百七十センチのはるか上空から顔をのぞきこんできた。


「うわっ」


 私はこいつが相手だと、いつも圧倒されてしまう。足をとめ、くちづけができる距離の顔に向かって反射的に返事をした。


「おはよう。マコ」


 そう言いながら顔をそらす。


「おはよう、ウミ」


 長身の友人は人の顔をのぞきこみ、やたらと近い距離で話すくせがある。


 そういえばこいつは、酔うとキス魔になるんだっけ。私の横にひょいとならぶと、ペースをあわせて歩き始めた。狭い歩道で一列横隊。早朝の通学路に、ほかの学生たちの姿はない。ほとんど歩道が貸切状態。駅まえにならぶマクドナルドやドトールやコンビニなんかの自動扉が、退屈そうにこちらをじっと眺めている。チェーンではないほかのお店は、どこもかしこも灰色のすすけたシャッターが降りたままで退屈そうに眠っていた。


「ウミ。あんた、いつもこの時間なんだね」


 うー、彼氏彼女のサイズバランス。ヒールの音をかつかつ鳴らしてマコが言う。


「てかさあ。あんた、この時間の電車だと、授業までちょっと早くない?」


 私は視線をマコの足から頭のてっぺんまで、ゆっくりとスライドさせた。


 ヒールのついたパンプスは、私好みでちょっとかわいい。控えめなヒールの高さはだいたい五センチくらいだろうか。それなら今日は、百七十五センチの日だな、こいつ。

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