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数日間の観察で、わかったことがほかにもある。
それは男の子の乗ってくる駅とかいろいろ。生物学者ふうにいえば、習性とか生態とか……なんちゃって。
男の子は、私より二つ先の駅から毎朝、同じ時間の電車に乗りこむ。
乗ったら車内をまっすぐ進み、向かい側のドアのまえに位置をとる。
それからはいつもの体勢。扉にもたれて、スマホ画面とにらめっこ。
耳にはイヤホン。真剣な目つき。「触れたらだめ」のスタンスだ。
電車のなかは極度に混雑していないから、彼のまわりには自然と小さなスペースができあがる。
まあ、そのおかげで、私はけっこう観察がしやすくなっているというわけだ。
ちなみに彼の乗車時間は、誤差なくだいたい二十五分。駅にしたら六つほどだ。
唯一不思議なことといえば、男の子はいつも電車の同じ位置に立つっていうこと。
それはつまりドアのまんなか。
ふつう扉付近に立っている人っていうのは、たいてい左右どちらかの手すりにもたれたがるものだ。私の独断と偏見だけど、その認識でだいたい間違っていないと思う。
そちらの方が寄りかかりやすいし、ずっとらくな姿勢がとれる。それに近くの席が空いたときなんかも、さっさとそこに移動できる利点もある。
だけど、男の子はそんなことにまるで興味がないみたい。たまに運よく近くの席が空いたりするけど、いっこうに座る気配がなく、まったく気にもとめないのだ。
もしかしたら公共の場で、率先してイスとりゲームの参加者になるのが嫌なのだろうか。それとも、たった二十五分の乗車時間をわざわざ座ってすごさなくてもいいという、強靭な足腰の持ち主だとでもいうのだろうか。
どちらにしてもその位置は、私にとってもつごうがいいから、毎日のんびりシルバーシートで観察を続けた。
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