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 その男の子の顔はというと、うまく表現できるかどうかわからないけど、少年漫画の主人公みたい。奥二重の大きな瞳に口角のあがったあひるみたいなくちびる。ひげはなくて、眉は太くも細くもない。自然な形に整えられている。


 センターラインをさだめる鼻は、小さすぎず、ほどよい大きさ。顔の中心で主張するでもなく、ほかのパーツをぼやけさせてもいない。


 なんというか、なにもかもが絶妙で完璧なバランスでできているって感じ。一般的に格好いい、どこにいても目立つあんちゃんといった雰囲気だった。


 私は電車のなかでの退屈しのぎに、その男の子をしばらくぼんやり眺めていた。


 男の子は音楽でも聴いているのだろうか。白いワイヤレスイヤホンを耳のなかに入れている。


 左手でダッフルバッグの持ち手をにぎり、残った右手でスマホをつかんでいる。顔をしかめ、おそろしく真剣な表情でディスプレイを凝視していた。


 画面をあまりいじっているようすはないから、ゲームをしているとかそういうことでもなさそうだ。私みたいに、まえの晩のメッセージでも読み返しているのだろうか。完全に自分の世界を作っていて、そのなかに没頭している。


 その真剣な表情といったら、本当にもうびっくりしちゃうくらい。男の子のまわりには、ほかの場所よりほんのちょっとだけ広めのスペースができあがっていた。


「おれに触れると怪我するぜ」ってところかな?


 エスパーじゃない私には、心の声は聞こえないけど、想像するとなんだか少しおもしろかった。


「ふーん」


 それにしても、この男の子は、いったいなにをそんなにいっしょうけんめい見ているんだろう?


 彼女のLINEか、仕事かなにかのすごくだいじな連絡だろうか。


 完全無欠の男の子を見つめていると、想像がさらに膨らんで、電車のなかの退屈がほんの少しまぎれていた。

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