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 しかたがないから、ぼんやりしたままスマホの画面からべつの場所に視線を移す。なんとなく、向かいのドアに目をやった。


 扉うえの電光掲示板が、くるくる流れる白色で次の停車駅を示していた。


 エンドレスで流れ続ける変わり映えのない景色。表示されるのは関係ない駅。電車はまったく急ぐ気もなく、がたごとがたごといつものペースを遵守しながら線路のうえを走っていく。


 なんというか、本当にもう。


 退屈の時間は、まだまだ無限に長い。


 電車は私をおなかのなかに入れたまま、その後もいくつかの駅に停車して、人を吐き出し違う人を飲みこんで、がたりごとりと規則正しく揺れて動いた。


 私はひまでしかたがなかった。退屈しのぎにあたりを眺める。視線を何度もいったりきたりさせていると、不意にそれが目に入った。


 でこぼこ重なる人の頭のずっと先。向かいのドアのまんなかあたり。扉にもたれるみたいな形で男の人が立っていた。


 年齢としはたぶん二十代のなかほどだろう。ぱっと見だけでも、あきれるほどに背が高い。百八十はらくに超えているんじゃないかな。人ごみのなかでも、頭が半分突き出ている。


 明るくブリーチした髪は、長くもなければ短くもない。ミディアムショートというやつだろうか。アウトラインとえりあしが、計算されて外ハネしている。


 服装は混んでいるのでさすがによくは見えないけれど、たぶん流行りも廃りもない、アメカジみたいなテイストだろう。古着のような渋くくすんだ赤いパーカーのフードが見えた。


 男の人は左肩にダッフルバッグをかついでいる。テントみたいな素材でできた黒い色のグレゴリー。いつだかロフトで見たことがある。たぶんアルパカとかいうモデル。春の日ざしをななめに浴びて、濡れたように光っていた。

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