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「はい、ご存じなかったのですか? ドルクルト伯爵家は代々魔法使いの家柄でございます」
「そうなんだ? 知らなかったわ」
ジュリモネアが考え込む。ジュリモネアの親は娘に婚約者のこと、婚家のことを話していないのかと呆れるが、やっぱり何も言わないリザイデンツだ。
「キャティーレさまは、ちゃんと帰ってくるかしら?」
「えぇ、お出かけの際、『すぐ帰る』と仰っていました。魔獣は三体とのこと、少し手間取っているのかもしれません」
「それで……昼間はどこに行ってらしたの?」
それを訊かれると困る。知っていようと言うわけにはいかない。
「いえ、わたしにも判り兼ねます」
「訊かなかったの?」
「訊くには訊いたのですが、キャティーレさまはお答えくださいませんでした」
「まぁ! 何か知られちゃ拙いところにでも行ってらしたのかしら?」
「いいえ、多分、答えるのが面倒だっただけかと」
「答えるのが面倒?」
「えぇ、キャティーレさまにはよくあることですので」
「ふうん、そんなに面倒臭がりなのね」
「はい、まぁ、そんな感じです」
「ねぇ……リザイデンツさん」
ジュリモネアが緊張した面持ちでリザイデンツを見た。
「ひょっとして、女の人に会いに行っていたとかは?」
「はいぃいっ!? とんでもない、そんな甲斐性があったら、どれほど安心することか!」
つい本音が飛び出した。
「あ、いえ、失礼いたしました……キャティーレさまにそんなお相手はいらっしゃいません」
「そう……キャティーレさまって次期領主さまなのに、まったく女の人に相手にされないような人なのね」
「いいえ、それは違いますよ、ジュリモネアさま」
リザイデンツは少なからずムッとしたようだ。
「容姿端麗、頭脳明晰、身のこなしも洗練されて美しい……領内の若い娘、いいえ、女に限らず老若男女、誰もが皆、キャティーレさまに憧れております」
「それじゃあ、誘惑も多いのでは?」
「取り入ろうと近付く者も多いのですが、キャティーレさまが誘惑に負けたことなどございません」
「リザイデンツさまが知らないだけかもしれないわよ?」
「ご心配には及びません。そういったことに関しては、必ずわたしに報告してくださるはずです」
「随分な自信なのね」
「はい、約束ですから。キャティーレさまが約束を
「真面目なのね」
「えぇ、いささか真面目過ぎるきらいもございます」
「それじゃあ、面白味のない人?」
これにはリザイデンツ、じろりとジュリモネアを見た。が、聞き咎めるほどでもないと思ったのだろう。あるいはここは素直に認めたほうがのちのためだと思ったのか?
「確かに『面白味』はないかもしれません。ですがその分、真面目で真っ直ぐ、信用のおけるかたです」
「つまり、浮気の心配はないってことね。そうね、何人も愛人を作られたら堪らないもの。その点はいいかもね」
クスッとジュリモネアが笑った。
リザイデンツが愛想笑いを浮かべる……この令嬢は変に装うことがない。屈託なく陽気、可愛らしい容姿は申し分ない。しかし、なにしろ上品さに欠ける。根拠もないのに婚約者の不実を疑うなどもってのほかだ。だが、伯爵さまはもう長くない。多少のことには目を
問題は当の本人キャティーレさまが同じように考えてくれるかだ。わざわざ自らこの城を訪れたジュリモネアは乗り気と考えていい。その気がなくても、幻惑の魔法を掛けて一度でも契ってしまえばキャティーレさまに夢中になる。そして裏切ることもない。それが我ら吸血の一族に与えられた特別な力、その力があるからこそ、秘密の漏洩を恐れることなく新しい仲間を一族に迎えることができた。この力があるからこそ、新たに仲間に加えられた者は変わり果てた自分自身を嘆くことなく受け入れられるのだ。
だから問題はキャティーレさまだけ、キャティーレさまさえその気になればジュリモネア嬢との婚姻は可能――しかしその気になるだろうか?
(いいや、この際その気になって貰うしかない)
どこの誰とも判らない、本当に居るのかどうかも判らない、そんな相手など綺麗さっぱり忘れて、現実に目を向ける時が来たのだと
ドアが控え目にノックされ、メイドが深々と一礼して入ってきた。
「キャティーレさまがお戻りになりました。お着替が済み次第いらっしゃるとのことです――お食事の準備を仰せつかりました。お運びしてもよろしいでしょうか?」
「やっと戻ったか……うん、マリネ、すぐに運び始めてくれ」
暫くすると次々と運び込まれた料理でテーブルが埋め尽くされる。
「こんなに二人で食べきれるのかしら?」
「残っても気になさることはございません」
「それにしても……メイドたちはどこに隠れていたの? このお屋敷って、人の気配が全くしないわよね」
ジュリモネアの質問に、リザイデンツが冷汗を
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