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ジュリモネアのお転婆にリザイデンツがウンザリする。だけど立場上、顔に出すわけにも意見するわけにもいかない。侍女のナミレチカが多少は言ってくれるのだが、小言の枠を出ず、ジュリモネアを
「キャティーレさまが領内視察なら、わたしも行くわ。ここがどんな所かも見てみたいし」
いくら止めても、『なかなか帰って来ないキャティーレさまが悪いのよ』と取り合わない。
「しかしジュリモネアさま。行き先はベッチン村、馬車が入って行けるほど道が広くありません」
「心配ご無用。わたし、乗馬は得意なの」
「いえ、そう言う問題じゃ――」
「あら、 ドルクルト伯爵家ともあろうものが予備の馬や馬具がないとか? そんなことないわよね?」
「えぇ、馬も馬具も充分にございますが」
「じゃあ、決まりね。リザイデンツ、案内を頼むわ。そのベッタン村とかに連れてって。少しくらい飛ばしても平気よ――ナミレチカはエングニスに乗せてきて貰いなさいな。一緒に行くわよ」
慌てて後を追うエングニス、馬車を
「ベッタンじゃなくってベッチン村なのですがねぇ」
リザイデンツが疲れた顔で溜息を吐く。ナミレチカを見ると申し訳なさそうな顔で泣きだしそうだ。きっと、いつもジュリモネアに手を焼いているのだろう。
「さぁさ、我々も
仕方なくジュリモネアと同行すべく、二人も
ベッチン村は何やら騒がしかった。それはそうだろう、牛舎が襲われた対策で大わらわなはずだ。
「ワッツ、キャティーレさまは?」
村人たちにあれこれ指図している大男にリザイデンツが声を掛ける。
「これはリザイデンツさま、お珍しい――キャティーレさまですか? お見かけしておりませんが?」
チッとリザイデンツが舌打ちした。それを見てジュリモネアがコロコロと笑う。
「逃げられちゃったみたいね。どこかできっと伸び伸びしてるのよ。わたしも良くそうするの」
「ここに居ないとなったら、どこに居るか判りません――城に戻りましょう」
「あのワッツと言うのがここの
帰りたくないのだろう、リザイデンツを無視してジュリモネアが尋ねる。仕方ないのでリザイデンツが答えた。
「ワッツは村長の息子です。村長はもう年寄りで、いろいろと息子に任せているのです。そろそろ代替わりしたほうがいいだろうとキャティーレさまにも言われていて、今年の収穫が終わったら村長に納まることになるでしょう」
「へぇ……そうなんだ」
自分で訊いておきながら、大して興味もなさそうだ。
「あれが魔獣に壊された牛舎? ボロボロね」
と、いきなり馬を降り始める。
「ジュリモネアさま!? 下馬なさってはいけません」
リザイデンツが止めるが聞こえないふりだ。慌ててエングニスも馬を下り、ナミレチカを降ろすとジュリモネアのあとを追う。リザイデンツも同じように馬を下りたがエングニスのほうがずっと早い。
さすがに中に入るのは危ないと思ったのだろう、ジュリモネアは壊れた牛舎を眺めながらぐるりと周囲を回る。と、その足が不意に止まった。牛舎の裏手に人がいた。しゃがみ込んで何かを袋に詰めている。ネルロだ。
「なにしてるの?」
「なにって、薬草袋を作ってるんだよ」
「薬草袋?」
「あぁ、さっき説明したじゃないか。乾燥させた魔獣除けの薬草と、重し用の小石を袋に入れて村の周囲に置くって――これじゃあ袋が足りないな。ワッツにもっと持って来いって言ってきてくれないか?」
「はいはい」
ジュリモネアがニコニコと来た道を引き返す。エングニスはネルロの態度にムッとしたようだが何も言わずにジュリモネアについて行く。やっと追いついたリザイデンツは事情が判らず不思議そうな顔をしたが、馬に戻る気になったのだろうとやはり何も言わない。
ところがジュリモネア、表に出たって馬に戻る気なんかあるはずがない。
「ワッツさん。魔獣除けの薬草を入れる袋って?」
「あぁ? ネルロに頼まれたのか? そこに積んどいた。勝手に持ってけ」
「はいはい」
ワッツも相手を見ずに答える。忙しくってそれどころじゃない。
エングニスが袋の山を持ち上げようとするジュリモネアを手伝おうとするが
「わたしが頼まれたのよ?」
拒むジュリモネア、
「いったい何が始まったんだ?」
リザイデンツが目を丸くした。
「いいから! エングニスもリザイデンツもそこから動かないで。エングニス、リザイデンツがわたしについて来ようとしたら力づくでも阻むのよっ!」
「へっ?」
キョトンとするリザイデンツの腕をエングニスがガシッと掴んだ。
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