友人同士の会話
昼食を食べに向かう中、準備とは何をするのかセツナに問うと、どうやらノクトと合流することだったらしい。
ノクトの執務室へと足を進めていたが、丁度途中の廊下でノクトと会えたため、そのまま一緒に昼食を食べに向かった。
歩いている道的に昼食は、昨日食べた煌びやかな食事の場で食べるらしい。
部屋に入ると、既にそこにはアベラルドさんとディアークさんがそれぞれ席に座っていた。
ノクトも昨日と同じ席に座ると、さも当たり前かのようにわたしに自身の膝に座るよう促す。
「今回は自分も椅子に座って、自分で食べます!」
さすがに他の人がいる場では恥ずかしさを抑えることはできない。というか、むしろ食べづらさを感じざるを得ないだろう。
「別に二人も気にしないだろうに」
「わたしが気にします」
「どうしてもダメか?」
「ダメです。というか、嫌です」
断固として拒否の姿勢を崩さずに主張すると、明らかにしょげた雰囲気で「嫌なら、仕方ない」と折れてくれた。――が、新たな主張をし始めた。
「では、椅子をもう一つここに持ってきてもらおう」
彼は近くにいたメイドに、もう一つ椅子を持ってきて二つ並べて置くよう指示を出す。
「いやいや、狭くなりますし、普通にすぐ横の席に座りますよ」
「俺がミアのすぐ隣で食べたいんだ。これは譲れない」
意地を張る子どものようなノクトに、わたしは張り合おうとするが、アベラルドさんが間に入る。
「おいお前、諦めろ。つか腹減ったし早く食おーぜ。ディーも限界が近い」
その言葉にディアークさんを見ると、目の前の料理を見たままぼんやりとしている。瞼が少し落ちており、眠そうな雰囲気だった。
「ディアークは俺たちとは半日ずれた生活をしている。昼の警備の中心をアベラルド、夜の警備の中心をディアークに任せているからな。ディアークにとってこの昼食は、寝る前に食べる夕食ということになる」
ディアークさんの様子を不思議そうに見るわたしに、ノクトがそう説明してくれる。
それならこれ以上待たせてはいけないと、わたしは渋々ノクトの主張を呑むことにした。
食事はそれぞれ好みに合わせているようで、アベラルドさんには肉を中心とした料理、ディアークさんはアベラルドさんに比べると小食なのか、少し少な目な量で元の世界で言う洋食と同じような料理が並んでいる。
わたしとノクトの前には、和食料理を再現したものを中心として、幅広いジャンルの料理が複数用意されていた。
「では、食べるとしよう」
ノクトのその一言で、全員が食事を始める。わたしは一人、「いただきます」と手を合わせてから食事を始めた。
「アビー、ミアの案内はどこまでできた?」
「あぁ、一通り終わったぜ。細かい説明は省いたけどな。ディーの部屋も一応案内はした」
「ということは、ディーの紹介も済んでいるようだな」
「うん。そういえば、双子君、来てたね。彼はまだユラさんに紹介しなくていいの?」
昼食の場は思いの外、友人同士のような会話が飛び交い、三人とも気楽に食事を楽しんでいた。
ノクトも二人を愛称で呼んでおり、どこか気を緩め自然に振る舞っている。
「あぁ、あいつはまだいい。一気に紹介してもミアが混乱するだけだ。それに、あいつには少し時間が必要そうだしな」
わたしは彼らの会話をただ聞いているだけだったが、どうやらまだ紹介されるべき人がいるらしいことを知り、わたしは今ある情報をできるだけ早めに覚えるべく、ひたすら頭の中で振り返りをする。
「ミア。どうした、大丈夫か?」
「あ、全然、大丈夫です」
ずっと無言でいたことを心配したのかノクトが声をかけてくれた。続けて、食事の味はどうか聞かれたので、それは全力で褒め称えまくる。そんなわたしの様子に安心したのか、ノクトは微笑み、わたしの頭を撫でた。
そうして食事の時間は穏やかに過ぎていき、先に食べ終わったディアークさんは限界だからと一足早く部屋に帰っていった。
その他全員が食べ終わると、アベラルドさんは鍛錬をするらしく部屋を出ていく。
「さてと。ミア、約束の場所に案内しよう。俺が抱き上げて連れて行ってもいいが、どうする?」
「遠慮します。自分の足で歩きます」
冗談半分、本気半分といった感じで提案したノクトに、わたしは強めの口調で断る。
するとノクトは小さく笑い「残念だ」と言うと、わたしに腕を差し出した。わたしは少し躊躇うものの、ノクトの無言の圧力により、素直に彼の腕に手を絡めた。
「では行こうか」
満足そうなノクトに、わたしは少し気恥ずかしくも嬉しく感じながら、彼と一緒に歩を進めた。
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