他人の不幸はゲロの味
@rindberg
第1話
他人の不幸は蜜の味という言葉がある。誰かにとっての不幸を見ることで自分が幸せであると再確認することができるという心理状態から来ているらしい。だけど私にとって不幸というのはどこまでも、
──ゲロの味がした。
文字に色が見える、匂いや音といった形がないものに形を見出す。多分そんな共感覚に似たようなものなのだろう、私は自分や他人の幸や不幸に味を感じる人間だった。一般的に周囲に笑顔が浮かぶような出来事には『美味しい』と感じて、誰かが泣いたり、苦しんだりするような不幸な出来事には思わずその場で戻してしまうくらい、いわゆる吐瀉物(としゃぶつ)のような味が口の中に広がった。小さい頃はそれは普通のことで、悲しい映画や出来事にあったとき周りはみんな吐き気を我慢しているものだと思っていたのだが、だんだんと周囲との感覚の違いに気が付いてからこの感覚を持っているのは少なくとも私だけなのだと教えられなくても察することが出来た。
私だけの共感覚に気が付いてからは別にその力を使って特別なことをするというわけではなく、目の前で誰かが困っていたら助けたし、誰かの幸せな知らせには笑顔を浮かべた。困った人を助けるとその人は笑顔を浮かべてくれたし、幸福なことに笑顔を浮かべれば何故だかわからないが私に幸せ報告をしてくる友人が増えた。向こうは話を聞いてほしいし、私は幸せ報告で口の中が幸せになるというまさにwin―winな関係を築くことが出来た。
誰かの幸せな話より誰かの不幸のほうが多い都会においてなるべく周りが幸せであるように、不幸になってもなるべく小さな不幸であるように、自分にどうしようもないことに関しては関わらないようにするという無難な生き方をして早数年、私の日常に一つの変化が起きた。
「お疲れ様です」
「ああ!岡崎さんお疲れ様です」
エレベーターに乗ってくる人影が見えて反射的に開くボタンを押した。そのことにお礼を言いながら乗ってきたのは同じ会社に務める同僚の橘内亮(きつうちりょう)さんだった。
「助かります。ここのエレベーター逃したらなかなか次が来なくて」
「わかります、急いでいるときに限って来ないですよね」
2人きりのエレベーターのなかでなんてことのない短い会話をしているだけなのに酷く胸が高鳴る。目的の階につくまでの少しの間に世間話にもならない会話をしているとエレベーターが減速して橘内さんがボタンを押した階に止まる。
「それじゃあ岡崎さんお先に」
エレベーターが閉まる瞬間までこちらに軽く手を振ってくる姿に心臓が痛いくらいに高鳴った。完全に閉まり切ったのを確認して頬を抑えると鏡なんて見なくても分かるくらいに口角が上がり切っていた。
「(っぶね~!!もう少し一緒の空間にいたらだらしない顔見られてた!)」
口角を戻しながらホッと胸をなでおろす。
「(けど今日もかっこよかったなぁ、何とかしてもう少し交流を深められないかな~、部署違うし無理かな~)」
先ほどの手を振りながら笑顔を浮かべていた橘内さんの顔を思い出してはまた顔がにやけそうになるが、エレベーターが目的の階につくことを知らせる音がして再び顔を戻した。
──簡単に言ってしまえば、私は恋をしていた。
それも初恋。
恋について一番盛り上がることが出来る青春時代をほぼ聞き手にまわっていた私がまさかする側になるとは思ってもみなかった。恋について幸せそうに話す友達たちから文字通りおすそ分けをしてもらっていたから、恋をしているという状態がいかに幸せなことなのかということについては知っているつもりだったのだが、やはり話で聞くのと自分で体験してみるのは違う。彼の姿を思い出して、やり取りをするだけで心もそうだが口腔内が酷く幸せな味で満たされる。そんな状態が彼と出会ってからずっと続いているのだ、いや本当に
「(恋って素晴らしいな!)」
「みさき?おーーい、聞いてる?」
「へ、あぁ!ごめんごめん!ちょっとぼうっとしてた」
「もー、ちゃんと聞いてよね」
うららかな昼下がり、落ち着いたBGMが流れる店内にて私は学生時代からの友人である山田桜(やまださくら)と食事をしていた。
社会人になると希薄になりがちな昔の交友関係のなかでも彼女とは幼い頃からの付き合いで、自分の体質に慣れていなかったときに突然吐き気を催す私の背中を彼女だけは呆れた顔をしながらさすってくれた。その姿に一体何度救われたことか。
「……美咲、あんたなんか最近綺麗になったってか、色気づいた?」
「いろっ、ちょっと急に何?そんなことないって」
何気なく口に含んだコーヒーを反射的に吹き出しそうになったのをなんとか堪える。
「私に隠し事しようったってそうはいかないんだからね~?」
「な、何にもないってば」
「当ててあげよっか?ず・ば・り……恋してるでしょ?」
私の耳元にそっと口を寄せてささやくように告げたその内容に動揺して大げさなくらい肩がはねた。
「うそ、図星?」
「ちちち、違うってば!桜が急に変なことい、言うから!」
慌てて訂正をしようとするが時すでに遅く、桜の顔は完全に納得した顔を浮かべていて、反論なんてできそうにもなかった。
「ふーん、昔から浮いた話の一つもなかったアンタが恋ね~」
からからとグラスの中の氷をかき混ぜながらこちらを伺い見る桜の視線に急にいたたまれない気持ちになる。
「わ、わたしのことはいいから!そんなことより桜は?なんか今日大事な話があるって聞いたんだけど」
生ぬるい空気を払拭したくてわざとらしく話題をすり替えた。
「はいはい、いい結果お待ちしておりますよ」
「からかわないでよ」
桜のほうはそれを察して揶揄うような笑顔を浮かべて手を小さく振った。
「今日の本題なんだけど、ちょっと嬉しい報告がありまして」
からかうような表情から一転してまじめで、それでいてほんの少しうれしさを隠し切れないような表情で桜は姿勢を正して膝の上に乗せていたカバンの中身をごそごそとあさり始める。一体何が出てくるのかと身構えていると桜は目的のものを見つけたのか勢いよく手をカバンから引き抜いて顔の横に持っていく。
「じゃじゃーん!」
誇らしげに掲げられた左手には店内の照明を受けて光り輝く指輪が薬指にはめられていた。
「なんとわたくし年内に山田じゃなくなりまーす」
薬指に指輪、苗字が変わるという報告。
「つまり、そういうこと?!」
「ええ、そういうことよ──結婚、するの」
驚きでその場で叫びそうになるのを両手で口を押えて堪えるが指の隙間から濁音交じりの悲鳴が少しだけ漏れた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「そうだけどぉ……そうなんだけどぉ!!」
桜が今付き合っている人と『いい感じ』の仲の深まり方をしているのは度々あって近況報告がてらその話をしていたから知っている。
しかしながら突然の結婚報告にはやはり驚きを隠すことはできなかった。
「それでさ、美咲に頼みたいことがあって」
「頼みたいこと?」
「結婚式に来てほしくて」
「もちろん行くでしょ!誘われてなくてもいくよ!」
「そこで友人代表でスピーチをして欲しいんだ!」
「わか、え…………エェ?!」
「はい決まり!分かったって言った!」
幸せ報告に舌鼓を打ちながら首を縦に振っていると途中でとんでもない頼みごとをされて、それを了承してしまったことに気が付く。
「いやいやいやいや!わたし、スピーチとかする柄じゃないし!やったことないし!そもそも桜の彼氏に会ったこともないし!」
「大丈夫よ~結婚式のスピーチなんて適当にそれっぽいこと言えば勝手に招待客も感動して拍手するから」
「なんて情緒のないことを言うんだコイツ」
そりゃ結婚式といえばその場の空気に飲まれて関係の薄い人間まで涙を浮かべてしまう、そんな場ではあるが、それをこれから結婚式を開こうという主役が言っていいものか。
「私も親以外の人間に彼氏に会わせたことないから、別にあんただけってわけじゃないよ」
「そうかもしれないけど!面識のないやつがスピーチ台に立つとか彼氏さんも戸惑うでしょ!」
「あんたのことは割と話してるから実質マブみたいなもんでしょ」
「さすがに暴論が過ぎるよ……」
「わかった、分かった!じゃあ今度私の彼氏を紹介するよ、それでいい?」
「……会ってみてから決める。」
「そ、じゃあ日付決めよっか」
にっこりと笑ってスケジュールアプリを開く桜の顔が酷く悪魔のように見えたことだけは絶対に言わないでおこうと心に決めた。
「……結婚か」
桜との食事が終わり、顔合わせの日取りを決めて解散したあとの帰り道。誰に言うのでもなくポツリと独り言を呟いた。
数回程度だが友人や会社の同僚の結婚式に参加したことはある。だけど結婚式のスピーチなんて大役を頼まれるのは初めてで、そんな重大なことを頼んでくれるくらい桜の中に私の存在があることがうれしくて、どことなく恥ずかしかった。店では思わず照れてしまって、了承するのをごねてしまったが、桜の幸せのために、そして幸せのおこぼれのために、私はできる限り彼女に協力したいと思っていることは紛れもない本心であった。
「(絶対に私が結婚するときは桜にスピーチたのんでやろーっと!)」
心の中でそんなことを考えながらも最後にまだ相手はいないが、と米印をつけることを忘れない。
『岡崎さん』
ふと、脳裏に橘内さんの笑顔が浮かんで顔に熱が集まる。
「(いやいやいや、まだ恋人どころか知り合い止まりのくせになに考えちゃってんのわたし!恥ずかしい妄想はそこまでだ!)」
頭の中の映像を振り払うように首を振ると幾分か熱が冷めてくる。
「(──けど)」
恋に恋して夢を見る年は過ぎた、漫画の出来事のように都合よくは初恋というやつはかなわないことは知っている。特に私みたいな気持ちを持っているだけで行動に移そうとしないヤツの恋なんて特にそうだろう。しかし、この幸せな気持ちが少しでも長く続くことが今の私にとっての幸せなのだ。もう少しだけ夢を見続けたい、そんな浮ついた気持ちのまま私は帰り道を歩いて行った。
「ほおら目を見開いて焼き付けなさい!私の彼氏を!」
「桜さん少し恥ずかしいから」
約束の日がきた。私と桜の彼氏との初顔合わせ。多少一般から外れた人間でも桜の選んだ人間だから多少は目を瞑って受け入れよう、そう思っていた。
「ふふふ、驚いて声も出ないようね」
「初めまして、じゃないですもんね。昨日の昼ぶりです岡崎さん」
昨日の昼、他部署との合同での打ち合わせでたまたま彼の隣の席に座ることができた。お昼ごはんの後だったから周りから隠すようにあくびをもらす彼の横顔と視線が重なって小さく笑いあったのを覚えている。
こんなこともあるのかと、純粋に驚きが勝った。
「?美咲、大丈夫?」
「っあ、大丈夫!まさか会社の同僚が桜の彼氏だなんて思わなくて……びっくりしちゃった」
ほんとにびっくり。
「実は少し前に美咲の話をしてたらもしかしたらって知り合いかもーって亮が言ってくれてね、写真を見せたらドンピシャだったのよねー?」
「本当は先に言おうと思っていたんですけど」
「美咲を驚かせたくて黙っててもらったの!」
名前で呼び合う仲なんですね、そりゃそうか、恋人どころか夫婦になるんだもんね。
「おーい、だめだ完全にフリーズしてる」
「やっぱり内緒にしていたのまずかったんじゃ」
「それともまさか亮には会社でしか見せない一面があってそれが相当やばいとか?!」
「ええ?!そうなの?!?」
しっかりしろ。いつも通り誰かの幸せに笑顔を浮かべる私に戻れ。
「あはは!ごめんごめん!まさか2人が付き合ってるなんて今年一番、もしかしたら人生で一番の驚きだよ!」
笑えているだろうか、幸せと不幸の味が口の中で混ざりあって酷い気分だ。
「ちょっとごめんトイレ行ってくるね!すぐに戻ってくるから」
これ以上この場にいるとかろうじて保っていた幸せと不幸の均衡が崩れてもどしてしまう。一度冷静になりたくて逃げるようにその場から離れた。
「(ひっっどい顔)」
店のお手洗いには幸いなことに誰もいなかった。個室の中に入って頭を抱える。人を待たせているのだ、あまり長くはいれない。
「(吐くな、吐くな、吐くな)」
私の大好きな友達の幸せな話だ。不幸だと思うな、ただ私の恋にもならないものがすこし予想外の形で終わったというだけだ。別にこんなことは不幸なことではない、いつも通り、おめでとうって言うんだ。
「美咲?大丈夫……?」
扉越しから桜の心配そうな声が聞こえてきた。
「体調悪い?誰か呼んでこよっか?」
「だ、大丈夫!」
慌てて個室の扉を開けて外に出る。そこには予想通り心配そうにこちらを伺う桜がいた。
「うわっ、酷い顔。また吐きそうになってたの?」
「あはは、サプライズに胃がびっくりしちゃったみたいで」
桜は昔から私が陰で吐いていたことを知っている。だけどその理由までは知らない。今となってはそのことについて説明しなくてよかったと心底思う。
「もう、私の結婚式では吐かないでよね」
桜は呆れたように笑っていつものように私の背中をさすった。
「ごめんね昔から迷惑かけて」
「こんくらいいよ、だって友達でしょ?」
桜が小さく笑う、つられて私も口角を上げた。
「結婚式本当に楽しみ、おめでとう桜」
「すこし早いけどありがと!大感動のスピーチ期待してるからね美咲!」
あたたかな日差しが降り注ぐ会場には見知った顔もいれば、全く知らない顔もいた。顔合わせからそんなに日が経っていないうちに桜の結婚式は開かれた。
「美咲!こっちこっち!」
受付で手続きを済ませると本会場とは別の控室に通される。そこには純白のドレスに身を包んで華やかに着飾った桜が笑顔でこちらに手を振っていた。
「よかった!どっかでまた吐いてるんじゃないかって心配だったんだ」
「さすがにどこでも吐いてるわけじゃないよ……」
桜の中で私がどんなイメージで固められているのかなんとなくわかってしまって肩を落とす。
「それで考えてきた?空前絶後の驚天動地、感慨無量の全米を泣かせる傑作スピーチは?」
「その小学生が考えたような形容詞の羅列やめてよ……考えてきたよ」
カバンからスピーチの台本を取り出すと、ぱぁっと桜の表情が明るくなる。
「本当に楽しみ!美咲のスピーチ!」
「それでは新郎新婦のご友人からの祝辞の言葉です。新郎新婦の共通の友人である岡崎美咲様おねがいします。」
名前を呼ばれて立ち上がる。新郎新婦のテーブルの近くまで行ってスピーチ台に立った。
「橘内さん、山本さんまずはご結婚おめでとうございます。こんな素晴らしい日に二人の友人としてこの場に立つことが出来たこと光栄に思います。」
何度も何度も予行練習をしたお陰かすらすらと突っかかることなく言葉が出てくる。
「新婦の山本さん……いえ、桜とは小さいころからの仲でよく体調を崩しがちな私は桜には本当にお世話になっていて」
「晴れ舞台なんだから倒れないでよー!」
「はいはい!今は大丈夫だって!……こほん、続けさせていただけます。」
スピーチ台から二人の様子はよく見えた。お互いの方を寄せ合って、ひどく幸せそうに笑いあっていた。
「橘内さんとは同じ会社の同僚で二人が付き合っていることはサプライズで教えてもらったんですけど、その時はびっくりしすぎて胃が口から出そうになってしまって」
大げさな表現に周りから小さな笑い声が響く。
「その時も桜にお世話になってしまって、でもあれは完全に桜のマッチポンプだと思うんですよね」
「ちょっと!」
「でもそんなサプライズ好きな桜を受け止めることが出来るのは橘内さんの包容力しかないと私は思います。橘内さん桜をよろしくお願いします。桜、あんまり橘内さんを困らせたらだめだよ……本当に結婚おめでとう、幸せに」
わぁっ、とその場が拍手に包まれる。その場で一礼して席に戻った。みんな笑ってる、笑いながら涙を浮かべてる人もいる。この場において不幸な人間なんて一人もいなかった。
口の中だって幸せな味で満たされていた。
「ありがとう私、幸せになるね」
「素敵なスピーチありがとうございます岡崎さん」
桜が笑ってる。
橘内さんも笑ってる。
「いいえどういたしまして!」
──幸せなんだから、笑わなきゃ。
「はーーいこれから新婦によるブーケトスのお時間です。幸せのおすそ分けが欲しい方はぜひ前のほうへ集まってください。」
式もほとんど終盤に差し掛かり司会の女性から声がかかる。意外にも会場の人たちは乗り気で男性も女性も階段の下に集まりだした。
「私こういうのやってみたかったんだよね」
「男も参加してもいいのか?」
「もう少し前のほうに行こうよ」
「さんせい!」
私の横を様々な参加者達が通り過ぎていく。私はというと少し離れた場所で参加者たちを見守っていたが、階段上の桜が私を見つけた。
「ちょっと!美咲!そんなところにいないでもっと近くにおいでよ!」
「ちょっと、恥ずかしいから!」
視線が私に集まった、慌てて階段下に集まっている集団に近寄ってブーケトスを待つ。
「それでは花嫁様幸せのバトンを次の方に渡してください」
「皆さん行きますよ!」
桜の掛け声とともに花束が投げられる。階段上から階段下に向けて弧を描いて落ちてくる。集まった人たちが笑いながら花束を手に収めようと両手を空に向けるが桜は強く投げたのか花束は後方までとんでいって、胸元で手を掲げていた私の手の中にストンと落ちた。
「おめでとうございます!見事幸せをつかんだのは新郎新婦のご友人の岡崎美咲さんです!おめでとうございます!皆様大きな拍手を!」
司会の女性の嬉しそうな声がマイク越しに響き渡る。
「美咲!今日本当にありがとう!!美咲も早く恋をかなえて幸せになるんだよ!」
日の光を背にして桜が笑ってる。幸せそうに笑ってる。
「ありがとう桜!私も直ぐに追いつくからね!」
花束を掲げて笑顔でそう返した。
幸せだ、幸せなのに。
吐き気が酷くて止まらない
──数年後
「美咲!こっちこっち!」
少し離れた場所から桜の声がかかる。大きくこちらに向かって手を振ってくる桜に手を振り返しながら近くに寄っていく。
「もう本当に久しぶりじゃない?」
「あはは、仕事が忙しくて……」
店に向かって歩きながら軽く話す。結婚式が終わってから桜も新しい環境に慣れたり、私も新しい企画が進行したりと色々なことが重なってこうしてお互いの休日に食事をするなんてことは本当に久しぶりのことだった。
「もう話したいことがたくさんあるんだよ~」
「はいはい、店に着いてからね」
今にもしゃべり始めそうな桜を宥めながら、店の扉をくぐる。
「いらっしゃいませー」
「二名で」
「こちらの席にどうぞ」
店員に案内された席に2人そろって座る。メニューからケーキセットを注文して届くのを待つ間桜の話を聞き始める。
「それで、大事な話ってなに?」
「聞いてよ!亮ったら酷いんだよ!」
ドンっと両手を机にたたくと席に着いたと同時におかれた水が少しこぼれた。
「最近ずっと忙しいとか言って帰りが遅いし、早く帰ってきたと思っても、疲れたとか言って家のこと全然手伝ってくれないし!私だって働いてるんだよ?酷くない?!」
「まぁまぁ、桜落ち着いて」
ヒートアップして声が大きくなる桜を落ち着かせる。
「美咲はどっちの味方なの?!
──他人の不幸は蜜の味という言葉がある。
「どっちのっていうか、実際橘内さんの仕事が忙しいのは事実だし……」
「でもさ!」
──誰かにとっての不幸を見ることで自分が幸せであると再確認することが出来るという心理状態から来ているらしい
「でも確かに桜も働いているのに家のこと丸投げは酷いよね」
「でしょ!美咲ならわかってくれると思ったよ!」
「ケーキセットお待たせしました」
「あ、私です。ありがとうございます。」
──けど私にとって誰かの不幸というのはどこまでも
「まだあるんだけど、亮ったら──」
「(うん、おいしい)」
──ゲロの味、の筈だった。
他人の不幸はゲロの味 @rindberg
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