第8話 総力戦

 ここはダンジョン3丁目の入り口。


 暴走したボスは、かつての部下だった魔物達を切り伏せながら、地下へと潜って行った。


 バラバラになってしまい、辺りに白骨が散らばるスケサンの亡骸を前に、スラミンは叫んだ。


「せ、先輩ッ!」

「魔を斬る剣でここまで粉々になったら、もう元に戻らないかもしれない……」

「そんな、エルちゃん!」

「スケサン……アンタの仇、必ず取ってあげるからね」


 エルはそう呟くと、


「スラミンも。他のスライム達を集めて、地下に応援来て頂戴!」

「え、あ、うん……」


 まだ戦っている仲間達の下へと、走っていくのだった。


「……あんなに強いボス、どうやって止めればいいんだよ」

「――いやホントだよ」

「え!?」


 聞き覚えのある声が聞こえる。

 スラミンはその声を探ると、それは通路の端っこに転がってて――。


「スケサン先輩!」

「いやぁ。身体が見事に粉々だわ。まぁ頭だけ残ってて助かったわ」


 そう。

 スケサンは辛うじて頭だけ緊急脱出していたのだった。


「うおおおおッ!」

「な、なんだよスラミン」

「いや先輩もう死んじゃって、ダンジョンの魔力でも戻らないかもって……」

「うん、まぁ元から死んでるようなもんだし。これを機に、スカルヘッドにでもジョブチェンジするかな」

「すんごい前向きっすね」

「それより、だ! ボスを止める方法、思い付いたぞ!」

「えぇ!?」

「いいかスラミン。これはお前はもちろん、他のスライム達の協力が必要だ」

「分かったっす先輩。なんでも言ってください、オレ頑張りますから!」


 ◇◆◇


「ボス、止まって下さい!」

「ニゲ、ロ……」


 魔を穿つ剣はダンジョンと魔物の契約を強制的に断ってしまう程の威力を持つ。

 それ故に、誰もが思い切った行動を取れないでいた。

 仮に命を投げ出し抑え込んでも、ボスを守る聖なるオーラで消し飛ばされてしまう。


「くっ、どうすればいいの」


 この状況をモニターで観察しつつも、有効な手段が思いつかないエル。

 イラつき、爪を噛む力が強くなる。


「ボス代理! スラミン達が、ボスを止める手段を思い付いたから、地下6階のボス部屋まで来て欲しいって!」

「なんですって!?」


 モニターではリビングアーマーが果敢にも斬りかかり、剣ごと両断される様が映し出されていた。

 時間はもうあまりない――。


「……分かったわ、すぐ行く」


 ◇◆◇


「エルちゃん!」

「スラミンと……それ、もしかして――」

「よお、エルちゃん。なにシケた顔してんだ」

「スケサン!? アンタ……面白い恰好になっちゃって……」


 今のスケサンはバラバラになった骨を無理矢理くっ付けて、頭に短い両手足が付いているような滑稽な姿になっていた。


「俺の事はいいんだよ」

「それで、なんかいい案があるって聞いたんだけど……」 

「ああ……ボスに、ダンジョンの魔力をありったけ注ぎ込む。オーラに阻害されてても、ダンジョンの魔力だけは別っぽいし、いけるんじゃね?」

「ありったけって。そもそもこのダンジョンの貯蓄魔力は、ボス不在のせいでそんなに多くないし……量が足りなければ、もうみんなも復活できないのよ」

「どうせあの剣で殺されると復活できねーんだ――それに、魔力を増やす取って置きの方法がある」

「何よそれ」

「ふっふっふっ。みんな!!」


 天井に張り付いていたスライムが、一斉にエルへと飛び掛かった。

 それと同時に、グリーンローパー(触手担当)がエルの胴体に巻き付き、持ち上げる。

 さらに物陰からは、配信用の魔力水晶を担いだ生き残りの魔物達が、飛び出して来た。


「え、ちょ、なにこれ!?」

「みんなの配信用アカウントがBANされて尽きるのが先か、ボスが正気に戻るのが先か――ここからは、ダンジョン3丁目の総力戦だぜ!!」


『おおーー!!!』


 魔物達は大いに叫んだ。

 

 一方、この後起こる出来事を想像してしまったエルとはというと――。


「ア、アンタら――これが終わったら、全員セクハラで訴えてやるッ!!」


 顔を真っ赤にして叫んだ。


 ◇◆◇


 再び冒険者達の宿場町――そこで1番大きな酒場。


 ここでは普通に料理を楽しむのはもちろん、様々な配信を見ながら酒を飲んだりできるので、ちょくちょくモニターの魔力水晶の前が混雑するのはままあることだ。

 ゴールドダンジョンが一時封鎖されたせいで暇を持て余した冒険者達が、そうしたダンジョン内部の配信を見るのもよくあることだ。


「な、なんだこれ」

「カズトどうしたのよ――うわっ、何この人だかり」


 新人冒険者のカズトとエイラは、酒場に入るなりモニター前が超混雑しているのを発見した。


「いいぞー! そこだー!」

「やってやれー!!」


 人だかりのメンツはほぼ男性冒険者ばかりで、どうやらダンジョン配信を観ているようだ。


「ちょっと様子を見て来る」

「はーい。席で待ってるわよ」


 流石にあの人の多さだ。まともに進んではいけないと、器用にも椅子を2つ縦に積んで上に登るのだった。


「こ、これは!?」


 そこには触手とスライムによって服を溶かされる、ダンジョンエルフの姿があった。


「……よし。重要な攻略情報になるかもしれないし、少し見ていくか」


 カズトもまた、男であった。


 続く。

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