第7話 ボスを止めろ!
ダンジョン。
そこは冒険者達が拠点にしている宿場町から馬車で1日、停留所から徒歩3日の場所にあるダンジョン3丁目。
その3丁目に、エル一行は急いで帰還をしていた。
「ほらっ、飛ばしていくよ」
スケルトンホースの馬車が2台、森の中をかっ飛ばしていた。
本来なら冒険者に見つかる可能性もあるので、変化魔法を使って偽装するのだが――そんな時間は無いので、人通りの少ない森の中をかっ飛ばしているのだ。
「揺れがすげー」
「かかか身体が、むむむげんに、ぷぷるぷる」
スケサン(スケルトン族)と、スラミン(スライム族)は振り落とされないようにしっかりと捕まっていた。
「おい、アレはなんだ」
ボルゾイ(ゴブリン族)が外を指差した。
森のあちらこちらで煙が上がっている――それは2丁目から3丁目までの間にある、魔獣の多く住む森の方角だ。
ドゴォォンッ――!
遠くでまた一つ、爆音が起きる。
「多分アレ、ボスよ。2丁目から真っすぐ3丁目を目指しているのよ――魔獣倒しながらね」
「という事は、まだ3丁目には着いてないんだな」
「でも、変化しているとはいえ、森の魔獣がドラゴンであるボス襲うのはおかしいなぁ」
「ひとまず、急ぐわよ!」
◇ ◇ ◇
ウウウウウウウウゥゥゥゥ――。
『緊急放送、緊急放送です。2丁目を襲撃したボスが、こちらへ向かって来ています。各自、防衛戦の準備をして下さい。繰り返します――』
ダンジョン内部に、サイレンと放送が響き渡る。
エルやスケサンは3丁目に辿り着くと、すぐに入口でボス来訪を待つ。
「ボス普通に帰って来るなら防衛戦の準備いるか?」
「念の為よ。……そもそも、歩いてこっち向かってる時点でちょっとおかしいのよ。飛翔魔法使って飛んでくればいいのに」
「たしかに」
それからしばらくして――黒髪の冒険者はやってきた。
片手に魔穿の大剣を携え、全身からはド白いオーラを放っている。誰の眼にも、尋常な状態ではないことは明らかだ。
「……」
「ボス。ご帰還、お待ちしておりました」
まずはいつもの革製のボンテージファッションに着替えたエルが出迎え、残りのメンツは後ろで待機している。
「……エルか」
「ボス。3丁目一同、今日までボス不在のダンジョンの経営を頑張ってくれました。つきましては……」
「エル――逃げろ」
ボスが大剣を振るうのと同時に、スケサンがすかさず間に入る。
ガキンッ!
「危なッ!?」
「きゃあッ!?」
いつも手入れだけしてあまり使ってないお気に入りの剣で受け止めるスケサンだったが、そのまま押し切られそうになる。
「――よく聞け。魔を滅ぼす呪いの剣と、ダンジョンで手に入れた宝珠の1つが共鳴し、我が意識に反して身体が動くのだ……今は3丁目の魔力供給のおかげで会話はできるようだが……くっ」
ダンジョンとの契約。
それは何も所属している魔物だけの話ではない。ボスも同じだ。
長くダンジョンからの魔力供給が行われていないと、片頭痛や貧血気味を引き起こし、さらに呪いや魔法からの免疫力の低下など様々な状態異常にかかる。
自前で大量の魔力を持つ魔物なら、それも緩和できるのだが――ボスの場合は、呪いをブーストさせるなんらかの宝珠を手に入れてしまったようだ。
「わ、分かりました。なんとかして武器とボスを引き剝がせばいいんですね!」
「おいエルちゃん! それ無理じゃね!?」
もう押し切られるがまま、スケサンは背中から地面に倒れそうなくらい反り返っている。
「無理でもやるの! みんな、時間を稼いで!」
「おお!」
「オレ達もやったりましょう!」
「ぐおおおおおッ!!」
スケサンが止めている間に襲い掛かるゴブリン隊、スライム隊。
ボスは一瞬力を緩め、スケサンが体制を崩した所を蹴り飛ばす。
「痛いっ」
「――光の精霊よ、剣となり、かの者を縫い留めよ……シャインソード!」
一刀の下、吹き飛ばされる魔物達の背後から、エルが光魔法を放つ。
その光の刃は、ボス本体ではなく――影を撃ち抜いた。
「ッ!?」
ボスの動きが止まる。
「おぉ、エルちゃんさっすが」
「今の内に、剣取っちゃって!」
「よっしゃッ」
スケサンがすかさず剣を引き剝がそうと近寄るが――。
「ニゲ、ロ……うおおおおッ!!」
ボスが魔力を乗せた咆哮――それだけで、背後の光の剣がパリンッと割れる。
「ウソッ!?」
さらにそのまま剣を振り下ろし――スケサンは構えた剣ごと、真っ二つに斬られるのであった。
「ス、スケサン先輩ッ!!」
スラミンの叫び声と共に――白い骨は、バラバラとなって床に散らばるのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
本日、ダンジョン3丁目は取り込み中につき配信を停止中です。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「例のダンジョンか。何かあったのかな」
「カズト。そんな事より、次のダンジョンどうしよっか」
「ロマリー、今日も可愛いね」
「お姉様……この間の、キャサリンって子の事なんですけど……」
「次のダンジョンはどこにしようかなー」
「筋肉こそ、真理! そうは思わないか、ジョー君!」
「ゴブリン狩りたいです、先輩」
3丁目の死闘とは裏腹に、冒険者達の集う宿場町は今日も平和だった――。
続く。
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