第30話 新体制
1544年(天文13年)4月 越後国 春日山城
年が明けて俺も14歳となった、早いものでこの時代に来て既に7年目となる食生活を改善してきた御蔭か、この時代にしては長身と言える170程にまで背も伸びた
もう少し伸びて欲しい、毎日欠かさず行っている鍛錬の為身体も随分引き締まってきたと感じる刀の腕は京志郎の言う通りでそれ程上達しなかったが、弓の腕は美雪には及ばずとも家中で5指に入ると思える程には上達した、最も俺が弓を振るう機会なぞないがな
信濃平定から既に半年が経とうとしている、信濃平定を終え俺が春日山に帰って来たのは越後に既に初雪が降ろうかという季節だった、春日山に帰ってからはまさに嵐のような忙しさだった、新領地の民の戸籍の作成から、新たに加わった家臣達との面接その雇用契約、配属先の振り分け、雪解け後に行われる街道整備や治水事業等の公共事業に対する計画、その承認とまさに分刻みのスケジュールをこなす事になった、しかし忙しかったの俺でだけではない、新たに発想した内政局の連中もおれと同様だ、なんとか学舎で学んでいた者達で使えそうな者を老若男女とわず青田刈りしなんとかこの嵐を乗り切る事が出来た、戦場より余程忙しかったわ
古賀京志郎に一万の兵を預けて信濃の抑えとして効いたのか、懸念していた信濃周辺の勢力の動きも表面的には落ち着いている、甲斐の武田は未だに内乱は終息の気配が見えない信濃に眼を向ける余裕は無さそうだ、駿河の今川と美濃の斎藤には一応書状を出して置いた
『この度隣に住む事になった長尾です、よろしく』
大体こんな感じだ
書状を出して一月と空けずに今川と斎藤からの使者が越後にやって来た
雪が積もる信濃を越えてご苦労な事である
今川家からはなんと今川義元の片腕にしてあの黒衣の宰相と名高い大原雪斎が自らやってきた、斎藤家からは長井 道利こちらは道三の一門衆で斎藤家の筆頭家老だ、
両家とも大物を送って来た、それだけ長尾を警戒しているのだろう
斎藤、今川両家とも現状の状況は思わしくない
斎藤は先年守護の土岐氏を美濃より放逐しその権力の座を奪ったばかりで国内の国衆の統制もうまくいっていない上に守護の放逐により美濃の北越前の朝倉、西の近江六角とも関係が悪化している、南の尾張の織田信秀とは犬猿の仲だ、その状況で更に東の信濃に大国の長尾が現れた、正に4方に敵を抱える状況だ
今川にしても斎藤よりは多少マシであるが現状は東は関東の北条と駿河の河東地域を巡ってバチバチに争っている最中であるし、西の尾張織田と三河を巡って激しい抗争の最中だ、今川が強国となったのは武田、北条と3国同盟を結んで東を安定させてからだ、現状は東と西で敵を抱える状況で北側、信濃の俺にとても対応出来る状況じゃ無いのだ、俺を敵に回せば三方が敵になる、同盟国武田は内乱中でとても当てにならない
両家が急ぎ大物を派遣してきたのも頷ける状況といえる
ここまで有利な外交条件が揃う事ってなかなかないんじゃないか?
なんせ俺が同盟国の朝倉となんなら織田や六角と図って4方から美濃に攻め込めばおそらく美濃はあっと言う間に落ちる、駿河今川も同じだ北条や織田に
『今川を共に攻めよう』
と俺が話を持ち掛ければ両者はおそらく乗って来るだろう
最も俺にそんな気は無い現状越後、信濃の内政で手一杯の状況で碌に管理も出来ん領をこれ以上増やす心算は無い
しかしそんな状況だから俺は使者には強気な姿勢で臨んだ
両家ともこちらとの婚姻、同盟関係を望んできたがそれは一蹴した
誰が好き好んで他家の争いに兵を出さねばならんのだ
代わりに条件を付けて4年の不戦条約を提案した
その条件とは長尾家との交易の自由化だ
家では既に関は撤廃されている為、それ程影響は無いが両家には未だ幾つもの関が残っているその関を長尾家の商人は自由に通過できる事になる
これは両家の領で商いを行う上でこの上ない有利性を生む、両家で商いを行う商人達は皆関を通る度に関料を払わねばならない
それも関は1つでは無いのだ、この時代関の収入は国人衆の貴重な収入源の1つだ、街道には幾つもの関が乱立しておりその度に商人達は関料を払わされる事なっていた、商人としてはたまったもんじゃ無いだろう
現代で言うと高速道路のインター事に通行料を徴収されている様なものだ
それは当然コストとして売り物の値段に加算される庶民にとっても迷惑な話だ
そんな関料が長尾家の商人には掛からない当然コストが掛からない分、家の商品の値は下がる村井貞勝の試算によると
『大方3割程安くなるのでは』との事だ
それに加えて長尾家には俺や工房が開発した魅力的な商品が溢れている
美濃や駿河でさぞや売れる事であろう
この貿易の自由化は長尾家に圧倒的な黒字を齎す
それは斎藤、今川両家の財政の基盤を揺るがす程の額となるはずだ
4年も経てば両家は相当弱体化しているだろうな
そうとも知らず
「おぉ、ありがとうございます!」
と斎藤家の使者である長井 道利は嬉しそうに美濃に帰っていった
帰って蝮に叱られないといいね
今川家の大原雪斎は流石にこの意味を理解した様で渋ったが
俺は別に不平等な条件を出している訳では無い
今川家の商人から長尾家も関料を取る訳では無いのだ
あくまでも双方にとって公平な商いである
それは雪斎も判ってはいるので
「・・・・致し方有りませぬか・・・」
そう言って合意し肩を落として駿河に帰って行った
ここまで不利な外交条件では流石の雪斎でも飲まざる得なかったらしい
お疲れ様でした
こんな感じで美濃の斎藤家とと駿河の今川家とは4年の不戦条約を結んだ
これで長尾領に隣接するのは周辺国で此れと云った脅威となる家は消滅したと考えて良いだろう
関東や甲斐の武田出羽の安東、最上は現状長尾家にとっては既に軍事的脅威とは言えない、経済的にも軍事的にもその差は圧倒的だ暫くは放置だ、とは言っても兵は動かさないが経済的な浸透や流民の取り込みは継続して行っていく兵を動かさずとも敵は弱体化していくはずである
無理に兵を動かす必要は無い兵を動かす事より、やる事が有るからな
信濃の京志郎にはこのまま信濃に留まって貰い周辺国の抑えとなって貰う、他には越中、飛騨を鈴木重家に5千の兵を預け任せ、荘内には柿崎景家を3千の兵と共に置き安東、最上に対する備えとした
本国となる越後には信濃衆や揚北衆を取り込み2万までは兵員を増やしていく予定である
暫くはこの体制で行くつもりだ、最もここまで兵員を増やしても当分は彼等の出番は無いだろう、彼等の主要なお仕事は主として街道整備や河川改修等の土木工事となる、是非頑張って貰いたい
対して越後水軍だが海兵1万人艦艇50隻を目標に増強中だ、暫くはこちらが主役となりそうである、それにしても水軍と云うのは銭が掛かる銭が正に湯水の様に消えていく、そりゃぁ大名でも独自では中々持てんわ
しかしうちの場合は平時は貿易船として活用もしているから割と余裕は有るんだけどな、訓練と実益を兼ねるってお得だよね
俺にとって海兵達は自分達の給料以上を自分で稼いでいるのだ、俺にとってはお財布に優しい使い勝手の良い兵といえる
一方内政については長尾家の拡大に伴い
こちらも大きく組織の体制を改める事となった
新たな組織として
※政務局
内政の方向性を決め、治水計画の立案から運用新田の開拓、各種法令の制定までその仕事の領域は広い、下部組織として人事所、法務所、開拓所が有る、初代局長はは直江景綱に任せた
※財務局
税の徴収からその管理、商人からの税の徴収や農民からの年貢の徴収も行うかなり忙しい職場だ、初代局長は村井貞勝だ
※商業局
新たな新産業の育成から保護、新商品の開発俺が重視する新たな産業育成の為に重要な局となる俺の造った絹や毛織物の加工所、各地の牧場なども此処の管轄である、初代局長は青苧座を解散し暇となった親父殿蔵田重久だ
※外交局
文字通り外交する所だ、初代局長は上杉君、先ずは朝廷、幕府との折衝に当たって貰う予定だ、これから忙しくなるだろう
※医学局
現在の日本人の平均寿命は40~50だ、それを65歳位にまでは伸ばしたいと立ち上げた
各地に医療所の開設や医療知識の浸透、栄養バランスの良い食事レシピの普及に、各種感染症や抗生物質の開発研究など意外と幅広い分野を担当する
初代局長は吉田舞、局長の中では最年少の22歳ボンキュッボンのお姉さんだ、工房で働いていた娘で医学に適性がやけに高かったから重宝していたのを今回抜擢させて貰った
※教育局
国の基幹は人を育てる事、と今回の人材不足で改めて学ばせて貰った
領内各所に学舎を普及させ子供のみならず大人にも最低減の読み書き計算は出来るようになってもらう、その中で先々には意欲や才能の有る者には軍人や医者、各種職人を養成する大学舎も設立していく予定だ初代局長は軍務局と兼任で矢田清兵衛となる、忙しいと思うが頑張ってくれ
こうして長尾家は新たな船出を迎える事となった
今年もなにかと忙しくなりそうだ
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