第31話 外交

1544年(天文13年)4月 越後国 春日山城



「我が師よ、只今戻りまして御座いまする」


「上杉君よく戻ったな、京の様子は如何であった?」


春先に京に行って貰っていた、上杉君が帰って来た、向こうもなんか俺を師匠と呼んでるし俺も未だ上杉君呼びだ、一応偉い人なんだけど、まぁ大丈夫だろ


「都の戦乱は未だ収まらず、酷い有様で御座いました」


だろうなぁ、この頃の京はヤバイ細川某や細川某、畠山某、六角、三好、内藤、それらの武家に本願寺や根来寺、高野山等の宗教勢力迄加わって離合集散を繰り返し

足利将軍家もその混乱に花を添えるという混沌とした状況だ

うん、絶対関わりたくないわ


「で、首尾はいかがだった?」


「はい、無事に御所にて主上にお目通りさせて頂きまして御座います、主上は日頃の師の忠勤に甚く感謝されておる様で、感謝の御言葉を頂き殿を従四位下左近衛権中将に任命するとの事」


毎年朝廷には銭や特産品を献上しているからな、にしても従四位下とは驚いた精々が

正五位上かと思ってたよ


「師よ、せめて正四位上出来れば従三位右近衛大将を狙っておりましたが我が力及ばず申し訳ありません、殿よりあれ程の銭を預かっておきながら・・・」


いやいや落ち込まなくていいから、充分だからほんと


「いや、充分だ良くやってくれた!」


「なんとお優しい師よ、至らぬ弟子を気遣って・・・」


いやだから、充分だからな


「・・・それで幕府の方は?」


「其方は公方様に面会叶い師のご要望通り越中、佐渡、飛騨カ国の守護職拝領致しました、公方様も殿の忠勤に甚く感動され感状を預かってきております。」




まぁ、かなりの銭を払う事になったがな

 今回俺は朝廷と幕府それぞれに1万貫(10億円)の銭を献上した財政難に喘ぐ朝廷や幕府にとっては有難い話だろう


俺は別に官位や守護職など本来は興味は無いがこの時代の人々は違う

最早武家の長たる態を成していない足利幕府でさえ権威は残っている


それならば利用出来るなら利用してやろうと考えたまでだ

その権威が通用するのもそう長い期間では無いだろうが

その権威を利用すことで敵が減るなら幾らでも利用してやる


「ご苦労だったな!期待以上であった!それで対馬の件は如何であった?」


「師のお話を帝に奏上したところ大層お怒りになられ、対馬の宗氏に対し追討の詔を長尾家に出されました。」


「そうかでかした!」


これで対馬に侵攻領有する大義名分も出来た


 対馬はこの時代で日本と海外を繋ぐ玄関口といって良い島だ

明、琉球、朝鮮との貿易の拠点であり、他国が日本に攻め込む上でも逆に日本が他国を攻める上でも拠点となる軍事上の要衝でもあり

元寇を初め刀伊の入寇、応永の外寇と度々戦火に巻き込まれてきた島だ


 そんな日本の玄関口といえる対馬は、俺が海外進出するに当たってここはどうしても押さえておきたい島なのだが


 現状はこの対馬は古くから宗氏が代々治めており、現状朝鮮との貿易を独占している状況である、がこの宗氏実は幕府の役職である対馬守護職で有りながら外国勢力である李氏朝鮮の官職を得ている、つまり日本と朝鮮の2つの国で役職を得ている事になるのだ、一時的では有るがその報酬として宗家に毎年朝鮮から米が送られてきている

 対馬は律令時代から対馬国として存在する日本領である日本側から見れば信じられない様な裏切りに見える


 しかし宗氏の側から見れば米も碌に取れない国境の小さな島の領主としては生き残るにはこういった方法しか無かったのだろうとは思う

そもそも外国との国境を小領主に担わせる事自体がおかしいのだ


それで俺はその事実を帝と将軍足利義晴にチクってやったのだ

帝も将軍もその事実にかなり御立腹だったようだ

帝からは宗氏追討の詔も頂いた


対馬は俺がしっかりと管理運営させて貰う事とする


後はあの腹黒坊主さん、上手くやってくれるといいんだがな




1544年(天文13年)4月 出雲国 月山富田城 土佐林禅棟



「ほぅ!これは見事な!」


「我が主君、長尾景重よりの御届け物で御座いますどうぞお納めください」


美麗な装飾が施された陶磁器に鮮やかな色合いの絹、複雑な文様が浮かぶ硝子の器儂から見てもどれも一流の職人が丹精込めて造った逸品だとわかる

だがのぅ若造、そう他国の者に喜怒哀楽など見せる者ではないぞ

それが大国尼子家の当主と為れば猶更よ


「流石は日ノ本一の富強と名高き長尾家よ、有り難く頂戴いたす」


「我が主は西国一の大国と名高き尼子家と良き関係を築きたいとの事で御座います、それと先の大内との大戦先ずは戦勝のお祝いをと申されておりました」


「はははは、遥か東国までも我が武名が伝わっておったか!長尾殿も信濃で大勝なさったとの事祝いの言葉をこの晴久が申しておったと伝えてくれ」


 阿呆が堅城に籠りやっとの事で勝利したお主とほぼ兵を損ねず越後、信濃、庄内を制した殿と同じにするでないわ、お主は城下まで焼き払われておろうが


「ははっ!我が主も喜びましょう、それで殿はこの様な大戦が続けば流石の大国と尼子家といえど多少は兵糧などお困りでは無かろうかとご心配されておりまして、もしお困りなら当家から融通しても良いと仰っておりますが」


「ほうぅ。何が欲しいのじゃ、条件を言うてみろ。」


ほう【タダ程怖い物は無い】とは知っておる様じゃな

流石に馬鹿ではないか


「はい、実は兵糧や物資の援助をするに当たってその拠点として隠岐を譲って頂きたいのです、当家は商いに力を注ぐ家でございまする、隠岐をその中継地として利用したいのです」


「隠岐を譲れと申すか?如何に僻地とはいえ簡単に頷ける話ではないな」


話を聞く気は有りそうよの、隠岐など殆ど米も採れぬ土地、湊に使うにも和船の主要航路航路としては外れておる、殿の言う通り尼子もおそらく持て余しておるんじゃろう


「そうで御座いましょうな、では如何ほどなら?」



「うむぅ、そうよのうぅ。米で10万石、銭なら5万貫と言った所か」


吹っ掛けてきよったわこの若造が、5千石も満たぬ土地に10万石(50億円)

の価値など無かろうに

少し引いてみるか余り足元を見られてはつまらぬ


「ふぅ~、5千石に満たぬ僻地の孤島に10万石とは話に成りませぬ、この話は無かった事に致しましょう」


「いや、待たれよ土佐林殿誰も譲らぬとは申しておらん」


「そうで御座いますか?当家としても無理して欲しい程では御座いませんので、もし御家を御支援するには拠点となる湊が欲しい、其処で隠岐ならばと思ったので御座いますが・・・」


「少々無理を言った様じゃ・・・ならば5万石でどうじゃ?」


一気に半分に下げよった、この男馬鹿では無いが商売は知らぬ

これはまだ下がる、と言っておると同じよ、余程窮しておるらしいわ


黙って首を振って置く


「・・・・・・では3万石でどうじゃ?」


うむ・・・この辺りかの


「まだ少々高いう御座いますが・・それでは無償で2万石後は有償で1万石で如何で御座いましょう?無論利子など必要御座いませんし、返済は何時でもよろしゅうございます。当家としても尼子家とはより良い関係を望んでおりますればこそのお話です」


「うむ、そうか!それで良い。当家としても長尾家とは良き関係でありたいものよ」


「左様で御座いますな。某も尼子家と当家の橋渡しが出来てようございました」


まぁこのくらいで良かろう、3万石とはいえ1万石は返済させるか尼子へ貸しとしても良い実質は2万石殿からは5万石程度なら良いと言われておった

随分と安く済ます事が出来たものじゃ、殿もお喜びになろう


そしてその手柄を上げた儂も中隊長待遇に格上げは間違いあるまい


さて殿の御機嫌取りに何か帰り道でで土産でも買っておくかの 


殿の気に入る良きものが売っておると良いのじゃが



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