第26話 黒滝城の戦い
1543年(天文12年)5月中旬 越後国 黒滝城
北国街道を見下ろす位置にある標高250m程の低山国上山のひとつ北側にせり出した峰に築かれているのが黒滝城、北国街道の抑えとして中越・下越の交通上の結節点として軍略上の要衝を護る地に築かれた城だ。
急峻な峰に建てられた城は幾つもの空堀や堀切、6つの曲輪によって護られ更に城の南側に蛇崩山砦、扇ヶ峰砦、背後となる西側には剣ヶ峰砦が配されており正に越後の要衝を護る黒滝要害と呼ぶに相応しい威容を誇っている。
俺は一万の軍勢を率いて北国街道を挟み黒滝城と睨み合う形で城の東側の平地に陣を構えた、着陣と同時に馬防柵を巡らし空堀を掘るそして出た土を使って高地とする、家はなるべく兵の損耗を押さえる為に基本弓兵を主体としているからな弓の威力や射程が上がる高地を確保したい、以前に比べて和弓や石弓の性能も工房の試行錯誤の結果による弓の素材、弦の見直しなどでその射程威力は1割~2割程度は向上している、戦なのだから人死には避けられないがそれを減らす努力は怠る心算は無い。この簡易陣地の構築工事も間もなく終わる、予定より大分早いがまぁ家の軍は普段から街道整備や河川の改修なども行っているから陣の構築等も手慣れたものだ
「なぁ、お主達ならあの城どうやって落とす?」
「まぁまともに攻めるのは骨が折れそうですな。」
「とりあえず囲んで内応を狙うのが効率が良いかと。」
「力攻めでも良いとなれば落として見せましょうが、被害も無視できるものでは無いでしょう。」
陣から黒滝城の威容を眺めての思ったのは
『なんだよこの城、こんな城どうやって落とすんだよ!まともに攻めたらどんだけの死傷者が出るか判らんわ』
試しに近くに控えているいた参謀局の面々である、勘助、幸綱、定満に聞いてみたのだが、この3人も大体は俺と同意見の様である。
気合いでなんとかしてみせましょう!
力押しで行きましょうなんとかなります!
とか言われなくてよかったけど
にしてもこの黒滝城って確か謙信が16歳位の時に落としたんじゃなかったか?
こんな要塞どうやって落としたんだ?
そういえば・・・・・・・・本人が居たな
若干当時の謙信より若いとはいえ、興味は有る
「なぁ千代、お前ならこの城を落とするならどうする?」
俺の側で興味深げに俺と勘助達の話を聞いていた千代に話を振ってみた
千代は城を眺めながら暫くの間う~~んと考えていたがやがて城の左手側の曲輪の一つを指差して言った
「私ならば先ずはあちらの曲輪から攻め立てます、他の曲輪から多少離れておりますし防御も他と比べ薄く見えます、先ずはこの曲輪を落とし占拠出来れば奥の三の曲輪の制圧が容易となり三の曲輪さえ落とせば南側曲輪と砦は無効化できましょう。そうなれば後は本丸に攻め懸かるのみ、他の曲輪は意味を為さない物となります。」
語り終えて『どうでしょうか?』と首を傾げながら見て来る、うん100点満点です。
やっぱこの娘軍神様だわ、言われるまで気が付かなかったが言われてみると確かにそうだ、兵法方の方々も感心したのか『ほぉぉ。』『確かに』『見事です』など呟いている。
「流石は大殿の娘で俺の嫁だ千代は凄いな!なんなら俺の代わりに大将をやって貰いたいぐらいだ!」
「えっ!い、いや、あ、あの、私なん、、てそんな。」
とりあえず全力で褒めて置いた、相変わらずこの娘は褒められ慣れていない、顔を朱くして照れているのが子供らしく可愛いものだ。
あっ、一応俺の名誉の為に言っておくが妻とはいえ千代にはまだ手を出してないからな、大殿は会うたびに『早く孫の顔を見せろ!』と煩いが千代が15になるまでは手をださんと言い切っている、千代も俺もまだ13歳現代なら中学1年生だ子供とか早すぎるだろ。
大殿は『儂の寿命の事も考えろ!』と言っていたが
『それなら酒を控え、食生活に気を遣い長生きしてください。』
と言って俺が手書きした健康レシピを渡してやったわ。
その甲斐があったのか本来は亡くなっているはずの大殿は未だピンピンしている、今回春日山城の留守を任せたのが気に入らないらしく、
『次の戦では絶対儂も出陣するからな!判っておるな絶対だぞ!』っ
て感じの書状が先日届いていたわ。
長くなったが何を言いたかったかと言うと
『俺は決して、、ロリコンじゃあ無い!!』
それを理解して貰えばそれでいい
「にしても、殿と奥方様は相変わらず仲がよろしいですな。」
「然り、羨ましい事です。」
「これは、長尾家も安泰でしょうな。」
ちっ、親父殿がニヤニヤとこっち見てきやがる、だから俺はロリコンじゃねぇ!って言ってんだよ!
言えんけど・・・・・無視だ無視
この時代10代前半の結婚なんて普通だからな
前田利家の妻まつさんなんかも11歳で出産しているから、いくら寿命が短い時代とはいえ考えるだけで恐ろしいわ、うんもし俺が天下を獲れたら先ずは15歳以下の結婚は禁止だ禁止!
「伝令!角田山に陣を構えていた敵勢こちらに向け進軍中その数2千」
そんなことを考えていると、伝令からの報告が届けらえた
どうやらのほほんとしていられるのも此処までの様だ
「ほう、やはり動きましたな。」
「と、なれば黒滝城に籠る連中も動きましょう。」
「柿崎殿陽動が効を為しましたな、敵勢はこちらとの決戦を覚悟したようで。」
先程攻城戦の話をしていたが俺は、鼻からこんな堅城を力攻めする気など更々無かった、昨日の内に柿崎景家に命じてこちら側に新たに恭順した国衆の兵5千を率いさせて信濃川を越えさせた、態々黒滝城から見える位置でだ、信濃川を越えられれば揚北衆の本拠は脅かされる、渡河をを防ごうにも俺達が城の出口を塞ぐ形で陣を張っており指を加えて眺める事しか出来ない、敵勢としては最早黒滝城に籠る意義すら見いだせない状況なのだ、数的不利の中の一か八かの決戦か撤退しか選択肢は残されていない、がこの状況で撤退戦は被害は甚大な物となる結局は敵勢の選べる選択肢はこの地で角田山の軍と合流しての決戦しか無かった
間もなく北国街道を北から角田山の陣を引き払った軍勢2千、それに連動する様に黒滝城に籠っていた兵4千が我が軍の西側に展開した、家は北と西の2正面に備えなければならない状況では有るが防御陣地の構築も出来ている、多少の戦術上の不利は看過出来る。
「敵勢は合わせて6千程ですか、随分数を減らしましたな。」
どこか憐れむような声音で定満が呟いていた、当初は8千近くの兵が居たはずだからな、敵勢にとって圧倒的な不利の状況だ俺としてはもう少し減ると思っていたんだが、『思ったより残っている』と言うのが俺の感想だ
「敵は動きませんな。」
「真田殿、動けぬと言うのが正解では無いでしょうか。」
「奥方様のおっしゃられる通りかと、この堅陣に1万の兵で籠られば敵勢は容易く攻め懸かる事は出来ぬでしょう。」
「一向宗門徒共の憐れな顛末も知られているのでしょうな。」
「儂など殿の敵にならんだ事を心底安堵しております、もし敵に廻っておればあそこで進むに進めず退くに退けずで進退窮まっておったでしょうな。」
「宇佐美殿、我等は何も焦る必要が無いですからな、じっくりと陣に籠り敵を迎え撃てば良い敵勢としては溜まらんでしょう。」
「しかし、そろそろ動きそうですよ旦那様。」
敵勢が陣容を整え静かに動き始めた、その行軍は洗練された動きで見ただけで見ただけでそれが精兵だと判る、元々越後は古くから強兵の国と知られていた中でも揚北衆の強さは越後でも屈指だと言われている
しかしな・・・・
敵勢が前進を始めたその瞬間敵勢の背後敵勢にとっては味方の筈の黒滝城より時の声が上がり一斉に長尾家の九曜巴の旗印が掲げられた
それと同時に敵勢の後方丁度黒滝城と敵勢を遮断する位置にいた大宝寺家の兵1千も長尾家の旗印を掲げ時の声を上げる
当初何が起こったか理解できなかった敵勢であったが、徐々に大宝寺家の寝返りに気が付き始めたようだ、そして自分達が置かれた余りにも絶望的な状況にも
先日届いた大宝寺家筆頭家老土佐林禅棟からの書状には俺への詫びの他に、黒滝城に籠る大宝寺兵1千の兵権を一時的に俺に預けるという事が書かれていた、大宝寺兵を率いるのは禅棟の次男忠親だそうでその旨は忠親には既に知らされており忠親は密かにこちらに繋ぎをとってきた。
大宝寺兵は西側の剣ヶ峰砦守備を任されており俺はその剣ヶ峰砦に夜陰に紛れ神保長職率いる700余りの兵を送り込んでいたのだ
敵勢が出陣しほぼ空城となった黒滝城を占拠する事など神保長職にとって容易い事だっただろうな。
神保家は以前は長尾家の仇敵と言われた家だからな、家でも何かと肩身の狭い思いもしているかと思い、手柄を上げさせてやりたいとは思っていたんだ。
これで少しは家に馴染めるだろう
「敵勢崩れましたな。」
勘助の指摘通り先ずは北側の兵2千が撤退を始めた、その有様は秩序だった撤退ではは無く無秩序な敗走と呼べるものだ、まだ逃げるという選択肢を選べただけこの時点で北側の兵は幸せと言える、あくまで今時点での話だがな。
西側の兵は正面を俺の率いる1万背後を大宝寺兵1千と神保長職の率いる700に挟まれた格好である、しかも黒滝城に籠る兵の総数すら把握できていない、重家には多めの旗を持たせておいたから敵勢には実数の数倍の兵が籠っているように見えるだろう。
絶望の表情を浮かべながら敵勢は次々と武器を捨て降伏した
これではもうとても戦にはならない、中条 藤資、小川 長資、鮎川 清長、色部 勝長の揚北衆、そして黒川城主黒田 秀忠等等も降伏した。
そして敵の総大将上杉 定実は黒川城で神保長職により捕えられた
残すは敗走している北側の敵勢だが先に信濃川を渡河した柿崎景家には敵勢の渡河地点を押さえて置くよう伝えてある。
揚北衆も信濃川を渡河しなければ本拠に戻る事も出来ない頭を抱える事しか出来ない、待ち構えているのは猛将柿崎景家が自軍の倍する兵で待ち構えているのだ、無理に渡河すれば全滅の憂き目に会うのは眼に見えている。
念の為こちらからも3千程追撃を出す予定である、敵勢は前後から挟撃される形だ、それで終わりだ
結局敗走した敵勢も予想道理進退窮して率いていた新発田 綱貞、加地 春綱、黒川 清実等の敵将も降伏した
後はほぼ空同然の敵勢の本拠を占拠していくだけの簡単なお仕事だ
最も・・・俺が到着する頃には平八がほとんど終わらせてそうだな。
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