第22話 備え
1541年(天文10年)1月 越中 放生津城
光徳寺の会談からほぼ5カ月、越中にて俺達に最後まで抵抗していた一向宗の勢力で有る土山御坊、瑞泉寺は田近越の一向宗側の壊滅的な大敗を受け土山御坊は門徒の助命を条件に開城、瑞泉寺の坊官門徒の一部は飛騨方面へ逃亡した。
土山御坊の坊官はより追放処分とし北陸及長尾領への立ち入りを生涯認めない事とし門徒は棄教するなら放免、しないなら同じく追放の処分とした、飛騨に向け逃亡を図った門徒宗は飛騨侵攻の口実に利用させて貰った、五箇山街道より鈴木重家に兵3千を率い瑞泉寺の門徒が向かった、熱心な一向宗徒であった内ヶ島氏利を攻め立てた、更に越中街道からも真田幸綱に2千の兵にて飛騨に侵攻させた。結果秋の終りる頃には飛騨の一向宗勢力は壊滅し飛騨各地の三木氏、内ヶ島氏、姉小路氏等の国衆も降伏した。
こうして俺は越中、飛騨を手に入れたそのまま越中に留まり新領地の内政に忙殺される日々を送っていた、新領地の運営に必要な人材の募集に、兵員の補充、新産業の立ち上げから街道の整備河川の改修等の公共事業までやる事がめじろ押しである、身体が2つ、いや3つは欲しい。やる事は基本谷浜や糸魚川、佐渡でやってきた事と変わりないが、何しろ飛騨はともかくとして越中は大国である、その規模は石高だけで見てもざっと佐渡と糸魚川を合わせても3万石程度だったのが、3万5千石の飛騨はともかくとして越中は37万石と以前の領地に比べ十倍以上になった、そりゃ死ぬ程忙しくもなる。
内政の基本方針としては越中は平野が多く米処としてこの時代では有名だが、大きな河川が多数流れておりそれらの河川は豊かな恵みと同時に毎年の様に氾濫を繰り返し民を悩ませている、現状では大規模な河川の治水は殆ど手つかずの状況だ。
先ずは時間は掛かるが河川の改修を優先的におこない、耕作地を増やし同時に洪水への対策をおこなっていく予定だ。
特に越中東部新川郡を流れる常願寺川、富山平野を流れる神通川(じんずうがわ)
そして越中西部の砺波平野を流れる東の庄川と西の小矢部川これらの河川を改修し水を制する事が出来れば、越中の石高は現状の倍以上の80万石を超える程となるはずだ、最も10年以上に渡る長期に渡る事業に成るし莫大な資金と労力が必要となる、
それでも俺はやる価値は充分有ると考えている、古来より日本は洪水や地震、火山噴火など数々の天災に悩ませてきた国だ、それらの災害が日本に齎した被害は甚大と言って良い、多くの人々が命を奪われ住む家を追われた、地震、火山活動については現状俺の出来る事は少ない精々が津波への警告か家屋の建築様式の改善位だ、
しかし洪水に付いては俺でも対策が可能だ大量の資金と労力さえ有ればある程度の治水は可能だろう、実際に現代日本では殆どの河川で治水に成功している。
俺の治水が成功すれば災害で亡くなるはずだった何千何万もの未来を生きるだろう人々を救う事が出来るはずだ、この治水は俺が未来に残せる貴重な遺産となるはずだ、手を抜くつもりは無い。
他にも北国街道や越中から飛騨を通り美濃へ抜ける越中街道、五箇山道等の街道整備に学び舎の開設、毛織物、生糸の大規模な生産工房も随時建設予定である、南蛮船が停泊出来る水深の深い港も欲しい。
飛騨に関しては平地の少ない山岳地帯の為米造りには向かない、無理に米を作らせるのでは無く、林檎や葡萄といった果物も栽培や豊富な木材資源を生かした漆器に大規模な酪農を行っていく予定だ、後は勘助の率いる山師達に命じて現在有望な鉱脈の調査中である、俺の記憶では神岡や平湯、荘川辺りで金銀銅が産出されていたはず、有望な鉱脈が見つかってくれるといいが。
それから人材面についてだが戦後何人か有能な人材を召し抱える事ができた、その筆頭と言って良いのが名将と名高い戦国のスーパ-爺さん
名前:朝倉 宗滴 男
・統率:95/97
・武力:88/92
・知略:90/91
・政治:70/75
・器用:81/85
・魅力:80/85
適正:指揮 武人 軍略 茶道
越後の軍神と呼ばれるのも納得のステ-タスだ、現在は引継ぎの為に越前に帰還中であるが、先日届いた書状によると「無事隠居が認められたので雪解けを待ってこちらに向かうからよろしく。」との事だった。現在京志郎が付いているうちの軍の総司令官を任せようと思っている。京志郎いわく『軍神を差し置いて俺が司令官なぞ出来るはずがない』との事だった、まぁ気持ちは判る俺でも嫌だ。
そして神保家当主である神保 長職(じんぼう ながもと)までも今回当家に仕官する事となった
名前:神保長職 男
・統率:79/84
・武力:73/80
・知略:72/78
・政治:75/82
・器用:71/78
・魅力:68/78
適正:指揮 開拓 土木 建設
後世の評価はそれ程高くない人物であったはずだが、ステ-タスを見てみると中々のものだった、思えば謙信さえ居なければ越中を統一した可能性のある男だ、しかも父親のやらかしで一度はどん底まで落ちぶれた神保家をほぼ1代で此処までの勢力に拡大させたのだ無能のはずは無い、唯問題は長職の父である先代の起こした事とはいえ神保家は、大殿の父である能景様戦死の主犯ともいえる家だ大殿の許可なくとても雇う事は出来ない俺も諦めていたし、本人もそれは悟っていた様で自分の命は諦めていた、その代わり一族や家臣の事を俺に託してきた。
大殿が越中に援軍にやってきていた田近越戦後に大殿に長職を引き渡しのだが、ダメ元で助命を頼んでみた。そしたらあっさりとオッケーが出たのだ、てか大殿は長職の事をすっかりと失念していたそうだ。
長職の父慶宗は大殿に敗れて自刃している大殿は過去にきっちり神保には報復しているから神保家に対する遺恨はそれ程無かったようだ。
神保家は所領は召し上げられたが、長職初め神保一門家臣で処罰された者は居なかった、長職は俺の大殿への取り成しを大層恩に感じてくれたようで
『この御恩は生涯忘れません。一生を掛け報いる所存です!』
と当家への仕官を願い出た、人手不足の当家としては願ったり叶ったりである。
他にも神保家の家臣から水越勝重、寺島 職定、小島 職鎮(こじま もとしげ)、寺崎行重等も仕官を願って来た、皆当主長職が無事帰還した事で安心したようだ。
能力的には武に秀でた者は居なかったが政務や築城、等の内政関連に秀でた者が多い正直助かった。
今年一年は基本新領の内政に勤め越中、飛騨の地盤を固めるつもりだ、先頃の戦を戦勝で終え大殿が越後への帰路の前に俺に話したのが来年には俺を元服させ千代姫の婿として迎えるとの事だった、まぁ既定路線では有ったのだが俺も千代姫も未だ11歳だぞ、現代では小学生高学年だ・・・・この時代では結構普通に有る話だったりするが。
まぁその辺のギャップは慣れるしか無いのだが、大殿は帰り際に
『しっかり備えておけ。』
と言い残して越後に帰って行った。
要はこの婚礼で越後は荒れると言う事だ
元々越後は国人衆の勢力が強い地域である、特に越後北東部の下越地域に本拠を置く揚北衆(あがきたしゅう)と呼ばれる国衆達は鎌倉時代からこの地を治めてきたという意識からか独立性が強く、南北朝時代以降越後を支配するようになった守護の上杉氏や守護代の長尾氏とはしばしば対立し、室町時代から戦国時代中期における越後の政情不安の主因ともいえる存在だ。
越後守護代の長尾家と言っても実際の所長尾家の支配領域は越後の3割前後だ、所詮数ある勢力の中の1つでしかない。
代々の長尾家当主に謙信も揚北衆をはじめとする越後の国人衆の度重なる反乱に悩まされ続けてきた、大殿はこの機に越後の国人衆の弱体化を図り一挙に長尾家の勢力を拡大し越後の中央集権化目論んでいる。
それは俺の思惑とも合致する、俺は日本の早期の中央集権化を狙っているからな。
以前の長尾家ならそんな力技は通らなかっただろうが、俺を婚約で取り込むなら話は変わって来る、越中、佐渡、飛騨の3か国を支配し強大な経済力を有する蔵田家を取り込めば長尾家が越後にて圧倒的な強者となる。残り全ての国衆を敵に回したとしても充分勝ち目がある。
来年は何かと忙しくなりそうだが今年は内政に励み力を蓄える事にしよう、大殿の期待を裏切る訳にはいかんからな。
それともう一つ備えておきたい事が有る
現状俺が最も警戒する大名家は甲斐の武田家、そして関東の北条家だ。
俺は今世では信玄との血みどろの川中島の戦いも、関東での北条との壮大な消耗戦も行う気は更々ない。当面は基本両家には調略で弱体化してもらうつもりだ、今回は既に段蔵に命じて甲斐への工作を行っている最中だ、今年武田家では嫡男晴信(信玄)が当主で有る武田信虎を駿河に追放して武田家の家督を奪うはずだ、その噂を現当主である信虎の耳に聞こえるように流す、信玄の父である信虎も一代で甲斐を統一した傑物であるその情報を知れば晴信に易々と家督を奪われる事は無いだろう、出来れば武田家を割り他国への侵攻処では無い状況にしたい所だ。
上手くいってくれるといいなぁ。
1542年(天文11年)5月 越後 春日山城 長尾為景
「先日の千代の婚儀、真素晴らしゅうございましたな。頼もしい義弟も出来ましたし、肩の荷が降りた心地です。」
「六郎(晴景)お主苦行から解放されたと言え浮かれすぎておらんか?お主はまだ隠居には早いぞ。」
「・・・父上判っております。しっかりと長尾家の為働く所存です。」
つい先日愛娘の千代と家臣である蔵田五郎左エ門の次男新次郎との婚儀が終わった、蔵田家より送られた結納の品は儂でも眼を見張るような逸品ばかりの豪華な者であったし、何よりも千代の幸せそうな顔を見る事が出来たのは何よりも嬉しかったものだ、千代は幼き頃より武人としての素質が高かった、戦鬼と呼ばれたこの儂を凌ぐほどの素質を感じ女子で有った事をどれ程悔やんだ事か、対して嫡男六郎は心根は優しいのだが武人としての素質は皆無と言ってよい、このままでは長尾家は危ういと感じ千代を寺に預け男子として育てようかと真剣に悩んだほどだ、そんな時に戯れで出掛けた、あの日ノ本屋という大層な屋号の料理屋であの小僧に出会った。
当時8歳幼子のその見識に心底驚かされ、そして自分の矮小さに落胆し、そして慰められた、この戦鬼と呼ばれた儂が8歳の幼子にだ。
今思い出しても笑える話だ。
「父上何やら楽しそうですな。」
「うん?顔に出ておったか?婿殿の事を考えるとついな。」
「新次郎ど、いえもう景重殿でしたな、確かに面白き御仁ですな。やる事全てが私の想像の遥か上を越えていきます。」
「ククク、確かにのぅ。儂は確かに奴に佐渡を獲れと諭したが1兵の犠牲も無くやり遂げるとは思いもしなんだわ。越中でもそうよ、椎名の件では手助けはしたが神保は独力で飲み込みよったし、一向宗門徒も軽く捻りおったわ。儂は散々そ奴等に苦労させられたというに。」
「ハハハ、良いでは無いですか、お蔭で今や長尾家は越後、越中、佐渡、飛騨4カ国の太守随分と大きくなりました。」
「ククク、まぁそうよなあの婿殿なら我等の悲願も簡単にやり遂げてしまいそうじゃ。」
「・・・・越後の大掃除ですか・・・・そうかもしれませんな。」
「そういえば彼奴ら骨董品を担ぎ上げるようぞ。」
「骨董品?・・・・・まさか!守護様をですか?」
「そうじゃ、儂も婿殿に聞いただけだがな。」
「少々不味いのでは。父上よろしいので?」
「婿殿はむしろ蔭で煽っておる様じゃな。あの一向宗を手玉に取ったのじゃ、なんぞ策があるのじゃろう。」
「そうですか・・・・全てを承知のうえでさらに煽っておると、、何やら敵勢が哀れに思えて参りました。」
「グワハハハハハハハハ、そうよのう。そういえば六郎、甲斐の武田が割れたそよ。当主信虎と嫡男晴信で血で血を洗う抗争が繰り広げられておるそうじゃ。」
「武田がですか!それでどちらが優勢なので?」
「それが判らん、家臣団の支持をうけておるのは嫡男の晴信の様じゃが、信虎は早々に駿河に使者を出し今川の支持を取り付けおった。これで状況は互角となり晴信派の結束も揺らいでおる。」
「それは・・・・思い切った事を。」
「今川もタダでは動かぬだろうからな。」
「にしても武田は暫くは外に出る余裕はありませんな。」
うむ。六郎の言うよにこの内乱で武田は弱体化するだろう外に出る余裕は無い、しかしこの乱にはどこか作為的なものを感じぬでもないな・・・
そういえば儂の身近に草を使うのが巧みな者がいたな・・・・越後の後は北信濃を狙うか、クククク面白い!
次の年は越後も信濃も面白い事になりそうよ。
これを見逃す事はできんわ、それこそ死んでも死に切れん
やはり婿殿や千代に言われるように少し酒は控えるとしようかの・・・出来る事ならあの小僧の往末見届けてみたいものよな。
/////////////////////////////////////
神保 長職(じんぼう ながもと)
この方は某結構野望系のゲームにも登場する越中の大名として有名ですね。
定説では神保慶宗の子とされるいますが定かではないようです、がこの父とされる
神保慶宗って人が結構ヤバい人で加賀の一向宗の越中への侵攻に対し越後守護畠山氏の要請で援軍として訪れた為景の父長尾能景を般若野の戦いで一向宗と通じて突如軍を引き裏切って能景の戦死の主因となった人です。
そりゃあ父と多くの兵を失った為景からは恨まれますよね。
畠山家からの独立を目論んでいとも長尾家の越中での勢力伸長を望まなかったとも言われていますが、結果的には長尾氏・畠山氏連合軍のの攻撃により10年以上の戦いの末に1520年前後の新庄の戦い敗れてには自害して神保家も連合軍に屈服しています。
その後跡を継いだのが慶明も1531年には出陣した加賀での太田の戦いで『悉く敗北し落命した』と記述されるほどの大敗北を喫したそうで、そんなどん底状態の神保家の家督を継いだのがこの長職です、このどん底状態から神保家は神通川を越えて新川郡に進出富山城を築き新川郡の一部迄支配下に収める事に成功し神保家の最大版図を築くまでに至ったのですが、不幸は隣国の越後の謙信が強すぎた事、謙信が居なければ越中の大半は支配出来ていたかもしれませんね。
もう少し後世で評価されても良いのではと思わせる人物です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます