第16話 水軍
1539年(天文8年)9月 糸魚川
「なんとまあ、大きな船なのでしょう。」
「本当に、こんな大きな船を造られてしまうとはさすが新様です!」
巨大な3本マストを持つガレオン船をみて驚愕の声を上げる2人の少女、俺の婚約者である千代姫と近習の美雪だ。眼を輝かせながら大船を眺め、色々と俺に質問を投げかけて来るその姿は微笑ましい。
千代姫が糸魚川に来てまもなく半年となる、随分と家にも慣れてきたようで良い意味で俺に対する遠慮も無くなってきている、良く家の評定にも参加するようになったし、こうやって市中の視察にも大抵は同行を希望して来る。
まぁ彼女の成長を思えば俺に断る理由も無いから、大抵彼女は俺の傍を付いて回る事になっている。
食事なども俺は基本一人飯は好きでは無いので大抵は家臣や近習達と食べているが其処には大体彼女も居る。
因みに俺が調理するオムライスは彼女の大好物である。
家臣達との関係も良好で特に同性の美雪とは共に行動すことも多く気が合うようだ。
今日はそんな彼女達を引き連れて糸魚川に出来た南蛮船も建造できる造船所を有する新港に来ている、清兵衛からの報告で新型の越後船(ガレオン船)の試験航海が無事終了したとの報告を受け急遽訪れる事となったのだ。
以前谷浜で試験的に建造したガレオン船は航行する事は出来たのだが操船具合や水漏れなど多くの問題を抱えていた、その反省を生かして建造されたのが、越後と名付けられたこの船である。
そもそも南蛮船と和船はその用途から全く違う構造をしている、おもにヨーロッパの帆船である南蛮船は波の荒い外洋を渡る長距離輸送を目的として開発された物で、和船は日本沿岸の輸送の為に造られてきた為に両者の構造は大きく異なる。
南蛮船の船底は丸く浅瀬に乗り上げると横転してしまう為に喫水の浅い港には入港出来ない、一方和船は底が平らなので陸に引き揚げることができる。
そして最も大きな違いとなるのがその構造南蛮船が密封された樽であるなら、和船は蓋のない桶であり、波の高い外洋での航海には向いていないのだ。
だから俺は外洋に向いた南蛮船が欲しい、この新たに造られた船は俺の要求に応えてくれる性能を有しているかな
「おぉぉ!大将じゃねぇか!今日も綺麗所を2人も引き連れて相変わらず良い御身分だな!おっといけねぇ実際に大将は偉いお方だったわ!ワハハハ」
船の性能に思いを巡らせていると船の上から陽気な大声が聞こえて来た
声の方を見れば左頬に大きな傷跡持つ強面の男が満面の笑みを浮かべこちらに向かって手を振っていた。
男の名は五島平八、以前に日ノ本屋で飲んだくれているのスカウトしたのだが、俺との賭けに負けて俺の奴隷になってしまった男だ、奴隷ってなんか世間体が悪いので正式に家の家臣にって話もしたんだよ、けどさ
「男が一度口にした事は決して曲げてはいけねぇ!」
の1点張りなんだよな。
まぁそのうち理由を付けて解放してやろうとは思ってるがな
顔の怖さランキングというモノがもし存在するならこの男我が家中随一と言っても過言で無いが、これでいて義理堅く気の良い男である
名前:五島平八 男
・統率:81/98
・武力:82/91
・知略:65/82
・政治:8/52
・器用:71/85
・魅力:79/90
適正:水軍 指揮 鼓舞
そしてこの能力値だ、しかも貴重な水軍適正持ち、現在開設予定の蔵田水軍大将の最有力候補である。現在は水兵の調練と船の操作習熟に勤めて貰っている。
俺達が越後と名付けたその船に乗り込むと
平八に笑顔で迎い入れられた
「久しぶりだな平八!随分とご機嫌じゃないか?どうだったこの船の性能は?」
「こいつは大した船ですぜ大将。ちょいと蝦夷くんだり迄行って来ましたが、荷は普通の和船の倍は積んでも問題有りませんでした、おまけにちょっとした嵐ぐらいじゃ航海に支障は有りませんでしたぜ。問題と言えば操船の習熟に手古摺る事でさ、まぁそれも慣れれば問題無いですな」
「ご苦労だったな。ならばこの型の船を年内に後3隻増やす、来年には10隻は運航できるようにしたい、その心算で人を雇い育てていってくれ。」
「ヒュー♪さすが大将だな相変わらず無茶言うぜ。」
「ん?どうした出来んか?」
「何言ってんだ大将!水夫水兵も一流処にまでは鍛えて、この水軍を日ノ本最強の水軍にしてやるぜ。大船に乗った気で待ってろ!そういや今も乗ってたな。ガハハハハハ」
「ハハハハハ、期待しているぞ平八!後は改善点や不具合が有れば随時清兵衛に報告を頼むぞ。それじゃあ邪魔したな。」
「ん?もう帰るのか?まあしゃあないか大将は忙しいもんな。たまにはこうやってこっちにも顔を出してくれや。」
「お前こそたまには屋敷に顔出せよ。」
「ガハハハハ、あそこは窮屈でなぁ。海の方が性に合うってもんよ。」
うん。この性格じゃあなぁ、判らんでもない
こいつは暫くはこのまま自由にさせておこう
「フフフ、綺麗所ですって新次郎殿♪平八殿は口は悪いですが中々見所の在る殿方ですね。」
「ウフフ、新様平八殿が土産に俵物を寄越してくれました。今日の夕餉はまた鮑の牛酪(ぎゅうらく・バター)焼きが美雪は嬉しいです!」
「はい、千代殿は御綺麗ですよ。」
「判ったよ美雪。今日の夕餉は久し振りに俺が腕を振るってやる。」
「・・・・・・もう・・・新次郎殿は御上手です・・・」
「真ですか!新様の御料理美雪は大好きです!」
顔を赤らめて照れる千代姫に嬉しそうに俺を抱きかかえる美雪
おい。道行く人達が生暖かい物を見る眼をしてるぞ。
恥ずかしいからやめてくれ
にしても美雪はなんというか子供らしく素直なんだが
千代様はなんか真面目だが・・どうも褒められ慣れていない気がする
千代様の才能を知った大殿に期待され厳しく育てられたのだろう
俺は子供は誉めて伸ばすがモットーだ
叱る事も必要だが良い事をしたら褒めてやることの方が大事だろう
これからもどんどん褒めて行く方針でいく
そうすれば将来きっと酒に溺れる事も無謀な戦を行う事も無いはずだ。
「新次郎殿千代様、久し振りで御座いますな。」
千代様や美雪との会話を楽しみながら館に帰ると其処には大殿の懐刀で腹心の直江 大和守景綱が静かに俺の帰りを待っていた。
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