第15話 佐渡
1539年(天文8年)6月 佐渡国 雑太城 新次郎
俺が佐渡を手に入れてから1月が過ぎた、その統治は驚くほどに順調で有る。
まぁ本間家の統治が下手だった事も有るが、この佐渡の住民の大部分は俺の統治を好意的に受け止めていてくれている。
具体的な統治手法は谷浜や糸魚川でしてきた事と同じだ、税率は基本4公6民とし賦役は基本的に無し公共事業や兵員の必要性が在れば対価として銭を払って雇うという感じだ。
俺は佐渡でもいくつか新たな産業を興す予定である、先ずは佐渡の南東部の丘陵地帯に大規模な牧場の建設で、ここでは糸魚川と同じく海外から仕入れた牛、馬、豚、羊、鶏などの家畜を飼育していく予定である。
この時代は肉食は禁忌とされいるが、日本人の栄養バランスの為にもその様な風習とは早めに決別したい所である 何よりこの時代で目覚めてから既に3年現代の食生活を知る身としてはそろそろ限界だ・・・肉が食いたい。
それに俺の目指す主要産業の一つが毛織物だ、なるべく多くの羊を確保して置きたい。
他にも羽茂湖での牡蛎、帆立の養殖、真珠の養殖などを試験的に行う予定である、この戦国時代は小氷河期とも言われ気温が低い、寒い海を好む帆立もこの時代ではいけるのでは?と考え蝦夷から取り寄せたのだ。
どれか一つくらいは成功して欲しいモノだ。
また農民達の副業としては養蚕業を推奨して品種改良した蚕と桑の苗を提供した。
蚕かから取れる繭は生糸の材料である、養蚕業も俺がこの時代毛織物と同時に日本の主要産業の1つと位置付ける重要産業である。将来日本の貴重な輸出品となり日本に貴重な外貨を齎してくれる事になるだろう。
他にも未だ日本には伝来していない鉄砲や大砲などの火器を研究開発する工房を雑太城に移しその一角に新たに造り同時に火薬の製造も本格的に行う、秘匿技術の研究に海に囲まれた佐渡は丁度良いのだ。そして私鋳銭の製造工房も同様の理由で雑太城に移した、今後佐渡は蔵田家の秘匿技術の実験検証の島となる事になる。
最後に佐渡と言えば金だがこの時代佐渡では未だ金は産出されていない、今山本勘助に命じて本格的に鉱脈を探索させている所だ、まあ佐渡で金銀銅が採れるのは間違いない、気長に待つ事とする。
さて・・・後は
1539年(天文8年)5月 能登国 七尾城 畠山 義総
「この度は修理大夫様に拝謁の名誉を賜り恐悦至極に御座いまする。この本間貞兼、修理大夫様に是非ともお力添え頂きたき儀があり参上致しました。何卒我が城の奪還にご協力頂けぬでしょうか!」
眼の前で平伏する男に苦々しい視線を向けながら名門能登畠山家の7代目当主である畠山 義総(はたけやま よしふさ)は考えを巡らす。
この本間貞兼なる男は畠山家の重臣である温井総貞(ぬくい ふささだ)を頼り佐渡からこの七尾に一族で逃れて来たらしい、此度の面会も温井の強い勧めがあっての事だ、温井の娘が本間家の一族に嫁いでいるらしい。
重臣からの勧めで会っているこの男を無下に扱う事は出来ん、しかし佐渡での本間家による圧政は能登にまで聞こえてきたほどだ正直自業自得だと思わなくもない、佐渡の民は本間家を追い出した、あの越後の神童を自ら向かい入れ歓迎したと言う。
民から見捨てられる様な為政者が仮に戻ったとしても民から歓迎される事は無く佐渡が再び荒れる未来しか見えない。
にしても・・・・・・・・・越後の神童か
義総の治める七尾城下にも既に越後製の絹や硝子製品、陶器、足踏み式脱穀機、新型農具、炭団などの新次郎直営の日ノ本屋が扱う革新的な製品が大評判となっているし、先年に七尾城下に開店し大評判となっており義総自身も気に入って何度もこの七尾城に呼び調理させ食している蕎麦もその越後の神童が携わっている店なのだとか。
儂らとは発想の次元が違う怪物、妖怪、妖の類に義総は感じていた、そんな神童が長尾家の前当主長尾為景の目に留まり糸魚川一万石を与えられ直臣に取り立てられたという、それも先月には佐渡を落とし既に3万石近い領地を持つ小大名と呼んで遜色ない勢力を持つに至った。恐らくあの戦鬼はその神童を身内として取り込むつもりなのだろう。
戦鬼のお気に入りの神童か・・・・
佐渡は欲しいが、、奴の背後には戦鬼もおる、どう考えても敵対は良策では無いな。
ここは書でも送り佐渡の支配を認め友好を深めるとするか。
名門能登畠山家の全盛期を造り上げ能登畠山家を守護大名から戦国大名へ押し上げた名君として知られる、畠山家7代目当主畠山 義総は眼の前の厄介な来訪者をどうやって穏便に追い返すか考えを巡らせるのだった。
1539年(天文8年)6月 越後国 春日山城 長尾為景
「グワハハハハハハハハ」
「・・・・大殿笑い過ぎですぞ。」
「ククク、これが笑わずにおられるか、あの小僧・・・いや婿殿かまさか3日で佐渡を制圧してしまうとはな。それで大和守よ、お主は婿殿をどう見た?」
俺の腹心といえる切れ者の直江景綱をこの男と会うのも半年ぶりである。儂は間違いなく優秀では有るが融通が利かず頑固な娘千代の矯正にと千代を婿殿の所で学ばせる事とした、その千代の守役兼婿殿の監視役に景綱を共に糸魚川に派遣していたからだ。その景綱が今日佐渡の戦の報告に春日山に帰ってきたのだ、その報告は儂の想像を超えておったわ。
最早笑うしか無いぐらいだ。
「まぁ率直に申し上げると・・・妖もしくは化物の類の者でしょうか。小国とはいえ佐渡を1兵も損じる事無く3日で手に入れる事など常人にはとても出来る事とは思えません。」
「ハハハハハ、まぁそうであろうの奴の器は我等常人では計れぬ。のう大和守よ、あの小童が儂と初めて応た時何を話したか判るか?」
「・・・・・・いえ皆目見当もつきませぬが・・・・越後の統一など容易いとでも話されましたか?」
「ガハハハハハハ、儂やお主が考えるのはやはりその程度よな。あの小童はな、儂に『日ノ本など小さい。』と言ったのよ。この図を見てみるが良い。」
儂は婿殿と初めての面会時に婿殿が書いた婿殿が言う世界地図成る物を今でも大切に保管していた、儂の凝り固まった古い常識を打ち壊し眼を覚まさせてくれた物だからだ
「・・・・これは・・・まさかこの端に有るのが日ノ本!?それに・・・・・・・朝鮮・・・明、大殿・・・・明の彼方にも真にこの様な陸地が続いておるのですか・・・?」
「儂が知る訳無かろうが。その図を見れば確かに日ノ本が小さいと納得は出来たがな。」
「確かに・・・この図が真であるとすれば随分と小さく見えますな。しかし新次郎殿はどこでこの様な知識を・・・やはり大御神の加護を受けたという話は真なのでしょうか?」
「その噂が真かどうか儂には判断できぬがな・・・その神童が我が足元に生まれたのは僥倖だと思わんか?」
「・・・・新次郎殿を長尾家に取り込めばこの長尾家ゆくゆくは越後が大いに繁栄する事に成るでしょうな。私は糸魚川が繁栄する様をこの眼で観て参りました。それと同じことを越後でも新次郎殿は容易く行われるでしょう。しかし殿・・・・」
「フッ、まぁ越後は荒れような。」
民は大いに喜び婿殿が齎すその繁栄を素直に享受する事が出来るだろう、しかし今現在の支配者層である国人衆や寺社などの宗教勢力はどうか?
あの自尊心ばかりが高く強欲な者達は
恐らく婿殿が齎す変革にはついていく事は出来まい。
その不満はやがて争いを生む
「・・・・よろしいので?」
「あぁ構わん。儂は精々婿殿の後押しをさせて貰うとする。婿殿にはこの越後に巣食う黴臭い者共の大掃除に大いに励んでもらおうではないか。あ奴等には儂も随分と煮え湯を飲まされたものよ、今から楽しみでしょうがないわ。それよりもお主己の身の振り方は考えておるのよな?まぁあちら側にお主が付くと言っても儂は止めはせんが。」
「御冗談を・・・・当家は本間家の二の舞は御免で御座いますな。」
「まぁ、あれを間近で見ればそうなるか。大和守これより居城に戻り後の乱に備えよ、有能な者はなるべくこちらに取り込み無能な物は・・・・・のぅ・・」
「承りました。この大和守はっきりとこの越後を色分けさせて貰いましょう。」
「あぁ頼むぞ。ククク、にしても大和守よこれからの越後いや日ノ本は真面白い事になりそうよの。」
惜しむらくは儂の寿命が其処で迄持たぬ事か・・・
そういえば婿殿は『人は寿命が有りますがその想いは子や孫へ引き継いで行けば良いのです。』なぞと言っておったな
千代やその子供達に後を託す、そう考えれば悪い気分では無い
「そういえば大和守よ、千代の様子はどうじゃ?」
「はい。糸魚川の繁栄や此度の本間家の戦を見て随分と感じる物が有ったようでございますな。今では新次郎殿に付いて周り何かと質問攻めで新次郎殿を困惑させておりました。しかし以前と比べれば思慮深さが増し広い眼で世を見渡せる様に成長しておる様に見受けられます。このまま成長出来れば大殿の期待以上の将の器を開花させるのではと愚行致します。」
そうか愛娘も糸魚川で何かを掴み成長してくれている様だ、うむ、我が子の成長とは嬉しい物よ。
父親としては長尾家の為にも可愛い愛娘の為にも、佐渡と糸魚川だけでは少し心許ない、もう少し婿殿の後押しをしてやりたい所ではあるな。
その辺りも大和守と話して置こうかの。
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