第13話 驚愕

1539年(天文8年)4月 越後国 糸魚川 新次郎



 糸魚川の領主となって俺は2度目の春を迎えていた、今年で俺も9歳となって背も少し大きくなった気がする。

病弱だった身体の方も大分良くなって、毎朝武術の鍛錬を行っている為か今では風邪にすら罹る事が無くなった程だ。

 ちなみに武術に関しては師匠である京志郎には「若は肝は据わっておりますが槍や刀の才能は有りませんな。」とキッパリと太鼓判を押されたが、弓に関しては『中々のモノです』と褒められたものだ。

 まぁあくまで武術の鍛錬は身体造りの為と割り切っているのであまり落ち込むことも無い。


 大殿から新たに賜ったこの糸魚川の地だが今目覚ましい速さで発展を遂げつつある。糸魚川の繁栄と豊かさを聞きつけた周辺国の流民達を吸収し人口は一年で倍以上に増え糸魚川で生産される珍しい産物を求めて京や堺、博多の商人ばかりか遠く明からも商人が硝子製品や石鹸、炭団(たどん)、清酒、鮭に寒天、昆布、蝦夷から仕入れた煎海鼠(いりなまこ)・乾鮑(ほしあわび))・鱶鰭(ふかひれ)等を求め訪れる様になっている。

明から齎されるのは陶磁器や絹、それに鉄や銅といった金属が主な物となる。

陶磁器や絹は国内で未だ高く売れるし、鉄は主に武器に銅は銭に鋳造される。

はっきりと言ってぼろ儲けである。


 そんな好景気に浮かれる俺の下に母の幸と姉の蘭が訪ねて来た。まぁ母上達が糸魚川を訪れるのはそれ程珍しい事では無い、1月と空けずに直江津から船で、未だ生産量が少なく貴重な甜菜の生産により得られた砂糖を基に造られた俺の生み出す餡子やクリーム、クッキー等の新しい甘味を求めてやってくるのだ。

 ただ先日は母上達の他に主家である長尾家の次女で俺のまだ公にはされてないが婚約者である千代姫様と世話役の女中数人と大殿の側近である直江 景綱殿までが来訪されたのだ。


千代姫は大殿からの書状を預かっていた


大殿からの書状には

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寺なんかで学ばせるよりはお前の下で学ばせた方が

余程娘の為になりそうだからお前の所に送るわ。

暫くは面倒を見てやってくれ頼むぞ。

後は一緒に景綱も付けとくから上手く使ってやってくれ

それと国盗りの件よもや忘れておらんだろな?

時間は有限でる

さっさと行動しろよ。


期待しているぞ婿殿

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要約するとこんな感じだ


うん。。娘の教育を俺に丸投げする気らしいな大殿は・・・

しかしこちらとしては千代姫はともかくとして内政に秀でた直江殿が来てくれたのは正直助かる。


名前:直江 景綱 男  

・統率:75/82

・武力:72/75

・知略:80/84

・政治:83/85

・器用:60/65

・魅力:52/70

適正:内政 軍略

 流石大殿の懐刀圧巻の能力値である、今の家では政治能力の高い者は非常に助かる、遠慮なく扱き使わせてもらうとしよう。


 そういえば千代姫と会うのもあの大殿との会見の日以来だその時もチラッと顔を見た程度だがやたら睨まれていた記憶が有るが、今日は気のせいか以前よりも雰囲気が柔らかくなっている気がする。

 今年の年始の挨拶にクッキーを手紙を添えて献上しておいたのが効いたのだろうか?

 色白で目鼻立ちが整っており将来はきっと大層になるであろう器量で俺と同じ9歳だったはずだ。歳の割には大人びており中々利発そうに見える、それと貫禄というかカリスマ性の様なモノがその身から溢れ出ているような気がするんだが・・・

気になった俺は千代姫の能力を見て見たのだが・・・・


名前:長尾 千代 女  

・統率:48/100

・武力:35/99

・知略:50/85

・政治:18/81

・器用:78/89

・魅力:65/87

適正:用兵 騎馬 指揮 武人


その能力を見て思わず固まっちまったよ


まるで軍神じゃねぇか・・・・・・・


てか・・・千代姫ってこれもう軍神じゃないか?

確か謙信軍神様の幼名って・・・・確か虎千代・・・・


うん。。確かに俗説で生涯不犯を誓っていた謙信女性説が有ったのは知ってるけどさ

なんか『源氏物語』みたいな恋愛物を好んでいたとか聞いた事有るけどさ

俺ありえねーって笑い飛ばしてたけどさ

まさかな・・・・


「・・・・・・どうかしたのですか新次郎殿?」


あ、やっば!まさかの事態に我を失ってたわ


「いえ、、申し訳ありません千代様少し物思いに耽ってしまいました。」


「こちらこそ突然の来訪心苦しく思います。どうかよろしくお願いいたします。」


「いえいえ、心から歓迎させて貰います。どうぞ我が家と思いお寛ぎください。」


「ちょっと新次郎、早く案内しなさいよ!後疲れてるからいつもの甘いの所望します。」


「あら蘭、はしたないですよ。新次郎ならその辺りは言わなくても判っているわ。」

何時もの母と姉である、いつの間にか千代姫とも随分と仲良くなっていたらしい。

今も母上と蘭姉と何だか楽し気に話しながら客間に案内されていく。


 俺は残った直江殿と今後の打ち合わせだ、直江殿は糸魚川の賑わいぶりをみて大いに驚き感心していた、直江殿には暫くは俺の相談役をしてもらう事にする。

俺もまだまだこの時代の儀礼や常識等は判らない事が多い、経験豊富な直江殿に色々御教授願う予定である。

 ちなみに直江殿にそれとなく千代姫の兄弟について尋ねてみたのだが、兄で嫡男の現長尾家当主晴景様と上田長尾家に嫁いだ姉の綾様だけだと言う事だった。


はい、、、、、、、千代様がかの軍神様だと確定致しました。


しかし何故彼女は女性の身でありながら家督を継ぎ戦ったのだろうか?

これは俺の予想でしかないが・・・・・大殿は現当主晴景様の能力に不安を抱いていたのだろうか、俺も何度か晴景様に会っているが性質も温厚で優しい人柄なのだが、武の適性は皆無だった、敵性が有ったのは芸事だけだった。

 平時ならまだしも乱世を生き抜く上にはかなり物足りない、この乱世家臣が求めるのは戦に強いリーダ-だ弱い者には誰も従わない。

本人もその事を自覚しており俺に早く家督を譲りたいとぼやいていた。


 その反して娘の千代様には乱世を生き抜くうえの才能に溢れていた

大殿は迷った

「このままでは俺の死後は長尾家は持たないだろうと」


そして苦悩した上で長尾家の存続の為に千代様を寺に預け入れ男して育てられた。

 そして成長後に家督を長尾景虎となった千代様に継がせる事とし、長尾家安泰を計った。


 しかし今生では俺が越後に現れた、俺と千代姫との婚約は神童と呼ばれる俺を長尾家に取り込め長尾家の安泰を計れ、更に可愛い娘に修羅の道を歩ませなくても済む。

大殿にとっては一挙両得の妙案だったのではなかろうか?

先程の手紙に有った大殿の言葉

「寺なんかで学ばせるよりはお前の下で学ばせた方が余程娘の為になりそうだからお前の所に送るわ。」

この言葉は考えれば娘を寺に送り、血塗れの人生を送らせずに済んだと安堵する、娘を想う親心の様に思える。


 後世にまで語り継がれる軍神上杉謙信、その人生は甲斐の武田信玄と幾度も矛を交わした川中島の戦い、相模の北条氏康と関東の覇権をかけ争った関東征伐まさに戦いの人生だったといえる。

 そんな膨大な労力と莫大な資金、人的資源を消費し行われた多くの戦で確かに謙信は勝ってきた。

 しかしその結果謙信が得た物は助けたはずの各地の諸将達の裏切り、戦に巻き込まれた民たちの怨嗟、後年では越後の国人衆の反乱まで頻発する様になり謙信は武田や北条と和睦せざるをえなかった。

そりゃあ酒に逃れたくもなる


「類い稀な戦の才に恵まれながらも随分と不器用な武将」


これが俺が前世で感じていた謙信への感想だ


しかし・・・・・・・・・・・


今生には俺が居る、俺は千代に血塗れの川中島も泥沼の関東征伐も起こさせるつもりは無い。

この命をかけても止めてみせる


 そう思えば・・なんの助言も出来ない寺などに送られ血塗れの軍神様に変貌されるよりは俺の下に千代を送ってくれた大殿には感謝すべきかもしれんな。


大殿安心しな、今生では千代には穏やかで平穏な暮らしをさせてやるさ



さてその為にもそろそろ本格的な準備を始めるとするか・・・国盗りの













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