第11話 糸魚川での内政
1538年(天文7年)3月 越後国 糸魚川
越後の長い冬が終わりを迎え春を告げる梅の花が芽吹き始めた頃に俺は直江津から新たに賜った糸魚川の地への引っ越しを終えた。
「商家風情」「余所者」がとなにかと侮られることが多かった蔵田家、その末っ子が大殿の眼に止まり土地を与えられ城持ちとなった。
蔵田家にとっては大いなる飛躍だ父は大いに喜び盛大に祝ってくれたが、母の幸や姉の蘭は俺と離れる事を随分と悲しんでいた。
うん、ちょこちょこ実家には変える事にしよう、幸い直江津と糸魚川はそれ程離れてはいない、船でも馬でも1日もかからない距離である。
俺が大殿より与えられた糸魚川の地だが石高にすると1万石程、日本海航路の重要な湊であると同時に東西を北国街道が通り信濃に向かう糸魚川街道(千国街道)の結束点だった事から商業的にも栄えており越中、信濃と接する為重要な軍事的要衝といえる土地である。北国街道を西に向かえば越中の魚津、糸魚川街道を南に行けば信州現代の松本方面だ。
よくそんな重要な要衝を8歳児に任せようと思ったな大殿は、娘に婿入りさせる予定の俺の拍付け以外にもまぁいろいろ思惑は有るのだろうが期待にはなるべく応えたいところだ。
さてこの糸魚川での統治手法だが、それは先日街の主だった者達を集め伝えさせて貰った、税は4公6民を基本として無料での軍役や公共事業等の賦役は基本的に無し、必要ならば銭を払って希望者を募集すると言った感じである。
この時代の農民の負担は悲惨なモノである、基本税は6公4民、良くて5公5民である中には7公3民やら8公2民なんて悲惨な土地も有る、おまけに賦役と呼ばれる軍役や城や砦の建設、用水路の建設などの公共事業に無給で駆り出された、その負担も決して軽くない戦ともなれば命を落とす事も珍しくないし長引けば農作業にも支障をきたす。越後は大体が6公4民だな。
この時代では信じられない待遇と言って良いだろう、現にそれを伝えた街の者は信じられないという顔をしていた者が多かった。
まぁ急に現れた8歳児の言う事など信じられない気持ちも良く判るがな。
俺はは他の領主と違って商売と偽が・・・私鋳銭の鋳造を行っている、その利益はこの領から得られる収入の既に数倍だし今後更にその規模を大きくしていく予定だ無理に農民から税を取る必要は無いのだ。
その辺は行動で示していくしかないだろうな。
俺はこの糸魚川でも新たな産業を興す事を先ずは目標とする。
この糸魚川の地は今まで俺が差配していた谷浜村に比べれば随分と広い、手狭な谷浜では出来なかった事が幾つか出来るようになった、谷浜は人口が増え新たな建設予定地の確保にも苦心していたからな、その点でも新たな土地を得たのはタイミングが良かった。
先ずは機密度の高い私鋳銭と軍事関連の工房を谷浜から居城の根知城に移し、他にも養蚕、陶磁器、火薬等の重要度の高い研究を根知城で行い、段蔵に機密保持の為の人員を配置させた。
新たに糸魚川で行う事業は料理人の作兵衛と共になんとか試行錯誤の末に試作に成功した醬油と味噌を製造所、庶民の調味料と言えば塩ぐらいの日本の食卓に革命を起こしてくれる事を願っている。
谷浜時代から苦労して取り寄せ育てていた牛、馬、鶏、豚等羊、山羊、羊を育てる大規模牧場、牛は農耕から食肉牛乳まで採れる貴重な家畜だし馬も軍事に農耕に役立ってくれる、鶏や豚も今後日本人の貴重なタンパク源として必要だし、山羊も乳が採れる羊は食用にもなるが主目的はウール羊毛を使った毛織物産業の勃興だ、これらの家畜が今後日本に普及していけば民にとって大きな助けとなっていくだろう。
そして牧場の隣では日本ではまだ普及していない様々な商品作物、野菜など育てる実験農場が併設される、農場では谷浜時代に父の伝手を使って苦労して手に入れた油の原料となる油菜や砂糖の原料である甜菜、木綿などの商品作物じゃが芋やさつま芋、玉ねぎ、人参、キャベツといった野菜、林檎や葡萄、梨、苺といった果物が植えられる予定だ、まだまだ原種に近く味も生産量も現代の物とは程遠い為この農場で米などの既存の作物と一緒に品種改良していく予定である。
後糸魚川の市街に近日開店予定なのが硝子工房だ現状は食器や湯飲みや装飾品と限られた物品の製造となるがゆくゆくは大規模化し住宅用の窓硝子や商品梱包用の密封容器等を大量生産していきたい。
最後は糸魚川湊の東に新たに大型の南蛮船(ガレオン船)の入港出来る水深の深い港を建造し南蛮船の建造する造船所を建設予定である、何故和船でなく南蛮船なのかと言うと和船は日本国内の沿岸輸送を主目的として開発された物で南蛮船は外洋を渡る長距離輸送を目的として開発された物だからだ。俺はなるべく早期に外洋に出るつもりだ今後の俺や日本にとって必要な船は外洋には不向きな和船では無く外洋に出る事が出来る南蛮船だ、既にヨーロッパのスペイン、ポルトガルでは大航海時代に突入している、現状では新大陸が発見され南米にてピサロがインカ帝国を占領し原住民から凄惨な略奪を行っている頃だ、まもなくアジアにも本格的に富と植民地を求めてやって来る。後数年もすれば日本の種子島にポルトガル人が漂着し日本に鉄砲が伝来する。
未来の歴史を知る俺としては西洋の影響力がアジアで高まる事は望ましくない、現状の日本は大きく出遅れている状態だ、この造船所で大型のがレオン船を建造していち早く海外に進出したい所だ。
まだまだやりたい事は多いが初期段階としてはこれで充分だろう、資金も無限では無いし何よりも人手が足りない。
なんせ今まで俺には家臣と呼べる者が居なかったからな、今回の独立に伴って蔵田家の所属であった矢田清兵衛と古賀京志郎は正式に俺の家臣となっり、春日兄妹は俺の近従として正式に仕える事となった。
清兵衛には主に内政主として各種産業、農業関連の纏め役を京志郎には谷浜に引き続き軍事関連を任せるつもりだ。
それでも尚圧倒的に人材が足りない、俺は大殿に呼び出された翌日には段蔵に命じて越後国内に留まらず全国各地に越後の神童の噂とその神童が家臣を求めているとの噂を流した、求める人材は腕の立つ者だけでなく各種職人や医者、土木、算術、農学、天文学、山師等様々、やけに具体的な環境や雇用契約の待遇の噂も流して置いた、見込みのありそうな者には積極的な勧誘を行うようにも指示しておいた。
そんな指示を出して2月だ、、そろそろ結果が出ても良い頃なのだが・・・・
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