第8話戦鬼
1538年(天文7年)1月 越後国 府内 春日山城
今日も越後の空はどんよりとした灰色の雲で覆われた憂鬱な曇天である
この時期越後はすっきりと晴れる事はまず無いのだ、海は荒れ時には人の背丈ほどまで雪が降り積り軍を興すどころか外出すらままならない時期も長い。
この時期は大体寒いだけで外出も許されない憂鬱な時期であったのだが今年は少しばかり状況が変わった。
「大殿・・・・この蟹は・・・又随分と旨い物ですな。」
ククク、やはり大和守(直江 景綱)も随分気に入ったようじゃこの寒い時期に味わうこの蟹鍋は格別じゃ
「今朝方に五郎左衛門が年始の挨拶に参っての献上していったのよ。」
「ほほぅ蔵田殿が。ではこれが市中で噂になっておる谷浜蟹で御座いますか、噂以上に旨い物ですな」
「うむ。酒にも合うぞ飲んでみるがいい。」
「これは・・・・水の様に澄んだ酒?で御座いますか?・・・・・これは酒精は強いですが・・・随分と飲みやすい酒ですな。大殿これは?」
「これも五郎左衛門が今朝方蟹と一緒に新作の酒と言って献上してきたのよ。見事な物よな。」
「これも蔵田殿ですか。やはり神童の噂は・・・」
「ん?大和守神童と申したか?何の事じゃ?」
「はて?大殿はあの蔵田の神童の噂をご存知なかったので?何でも蔵田殿の次男新次郎殿は生来病弱で先頃には医者にも匙を投げられる程の大病を患ったそうなのですが、その死の淵から奇跡的な回復を遂げられたとか、なんでもその大病で苦しむ最中に天照大御神様の加護を得られ様々な知識を伝授されたとの事。某も唯の噂と思っておりましたが、谷浜蟹もその酒もあるいは・・・と」
「ほう。。その話は真なのか?」
「はい。某も噂でしか聞いておりませんが、しかしどやら蔵田殿がまだ幼い新次郎殿に谷浜の差配を任せたのは真実の様です。その新次郎殿が差配して以後谷浜の村は見違えるほどの繁栄をしているとの事で御座います。」
「ほう。谷浜といえば何も無い鄙びた村であったはずだが、、大御神様の加護とな随分と眉唾な話しではあるが・・・・その小僧結果は残しているようだな。大和守よその新次郎と言う小僧は幾つになる?」
「確か8歳ぐらいかと。」
「随分と幼いな・・・・大御神様の加護云々はともかくとして何やら面白そうな小僧では有るな。何よりこの旨い蟹や酒が飲めるようになったのがその小僧の御蔭と言うなら・・・・・その小僧にも褒美を呉れてやらねばならんな。」
ククク、面白い調度暇を持て余しておった所じゃ。その神童とやらこの信濃守 長尾為景がその真贋を見極めてやろう。
越後国守護代長尾家の居城春日山城の城下町府内は現在の上越市に当たり要港・直江津に隣接し、日本海航路の中継地として又下越方面へ延びる北国街道及び信濃方面へ延びる善光寺街道の基点でもあり海陸交通の要衝にあった経済都市として栄えると同時に越後国の守護所が置かれる政治都市としても栄えていた。
そんな府内の中心に俺の店日ノ本屋も出店している、その店の一角にはめったに使われない高貴な人を持て成したり重要な商談を行うための特別な部屋が在る。豪華な飾り付けのされたその部屋で俺はゆったりと昼食中である。この時代は普通一日2食が基本であるが現代人の記憶を持つ身としては、それは少々辛い。そんな習慣はさっさとおしまいにしたい所だな
店が大繁盛で真冬の寒風の吹く中外にまで長い行列が出来ている中並ばずにのんびり特別ルームで食事とは多少は気が引けるが、そこはオーナ-特権と諦めてもらうしかあるまい。
「若このおでんというやつは旨いな!酒にも合いそうですな!」
「この寒い時期の温かな蕎麦というのは格別ですな。」
「この天婦羅が至高です。私こんな美味しい物食べた事ありませんわ。」
「京志郎まだ日は高い。酒は駄目だぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
そんな恨めしそうな眼をしても駄目だ、俺だってまだ飲めぬのだ。お主は家に帰れば飲めるだろうが俺は後五年は辛抱せねばならんと言うのに・・・・・
「にしても凄い賑わいですね。」
「ほんとに。でもこのお味でしたらこう繁盛するのも判りますわ。」
この3人もこの店の料理は大のお気に入りである、最初はシンプルに蕎麦だけであったが今ではおでんに天ぷら、谷浜の蟹等の新メニューも随時追加していっているどれも巷で大人気となっている、この日ノ本屋で扱っているのは料理だけでは無い谷浜工房で生み出された、工芸品、農具、酒、各地から仕入れた特産品など様々な物が食堂に隣接した店舗で売られている、利益的にはむしろこちらがメインと言っても良い。
従業員についてはには谷浜や直江津で村民や流民を雇って教育して働いて貰っている、現在も教育中の者も居るが随時現場で働いて貰う予定である。それと各地の北国屋や段蔵の配下の忍び達の諜報の拠点ともなるそこで各地の情勢から市況、流行、権力者の趣向など全国の様々な情報が逐一俺まで届く手筈だ。
最も店は現在では能登の七尾に越中岩瀬湊、加賀本吉、越前の敦賀、三国、一乗谷に出羽の酒田まで増えたが経済先進地域の畿内や他の地域には進出は出来ていな
今年中には京と堺に店を出したい所だがな。
その為にももう少し有用な人材が欲しい所だが・・・・
部屋は店内の高い位置に在り小窓の障子を開けると店内を見渡せる造りとなっている。
何故そんな造りになっているかというと、まぁ俺の能力の有効活用の為だな、ここから覗いて有望な人物が居たらスカウトするのだ。
現状商売は順調に推移しているのだが、やりたい事はまだまだ有る、職人や山師、調理人、新たな店を任せられる商人であったりと必要な人材はまだまだ足りない。
実は今日ここに来た目的もその人材発掘がメインだったりする、谷浜村の方が軌道に乗り俺が居なくてもなんとか廻る様になったので今は人材の発掘に力を入れている所なのだ。
日がな一日この部屋に籠って人材探し確かに地味だが成果はでている。
先日は直江津の店で五島平八という酔っ払いの男をスカウトした、その30半ばの男は身体中傷だらけのいかつい顔の男だったが、珍しい水軍の適性を持っていた上に軍人としての能力も飛び抜けていた。
酒を片手にスカウトに向かったのだが、強面の割に気さくな男であった酔った勢いもあったのだろうがスカウトの話をすると
「ワハハハハハハハ、小僧俺の前に安宅船(あたけぶね)でも並べて見ろ。それなら部下でも配下にでもなってやらぁ!」
「生憎安宅船は無いです。代わりに南蛮船じゃ駄目ですか?」
「がハハハハハ!南蛮船なんぞ日本にそうある訳無かろうに!俺ですら見た事は数える程しかないわ!小僧南蛮船なら雇われてやるどころか一生奴隷として仕えてやろうじゃないか!」
「二言は有りませんね?」
「あたぼうよ!この五島平八、綿津見神(ワタツミ)に誓って二言など有るはずはあるめぇぇ!」
その翌日二日酔いで苦しむ平八を叩き起こして今浜村で建造中のガレオン船を見せてやった。
あの時の眼が飛び出る程見開き口をあんぐり開けた平八の表情は傑作であったな・・・・奴隷契約の成立である。
暫くは奴隷として扱き使って適当なとこで勘弁してやろうとは思う。
うん・・・・口は災いの元とは良く言ったものだね。。
平八の他にもかなりの数の医学、職人、兵士、農学などに秀でた才能の有る有能な人材を雇う事ができたのだが、未だに人手不足は解消されていない。
さてと・・・今日も面白い者(人材)は居ないな~
美雪が注いでくれた茶をお礼を言って啜りながら店を覗いていると
賑やかだった店内が嘘の様に静まりかえった、、なんだ?客の視線が入り口に立つ一人の男にに集まっている・・・・・・・・・
やべぇ-------------------の来たぁぁぁぁ!!
俺のその男に対する第一印象はそれである・・・・・・
背後に屈強な護衛らしき侍を引き連れたその男は身に着けている着物は上質な物で腰に差している刀もおそらくかなりの業物である、歳の程は50前後だらおうか、この時代ではもう老人と言っても差し支えの無い年齢だが、背筋伸びその鍛え抜かれた身体に全く衰えは感じらない。何より歴戦の強者のみが発する威圧感がまた半端ない。あれに睨まれればヤクザなど裸足で逃げ出すだろう。
俺もあんな危なそうな奴とは出来る事なら関わりたくない。
そっと障子を閉めようとした所できょろきょろと店内を見回していた男と眼が合った・・・・合ってしまった。
そこで思わず眼に力が入り思わず能力を発動した・・・・・発動してしまった
名前;長尾 為景 男
・統率:89/92
・武力:91/95
・知略:88/91
・政治:80/82
・器用:79/80
・魅力:65/67
適正:指揮 騎馬 策略
越後の戦鬼が其処に居た・・・・・・
男はまるで獲物を見付けた狼の様に俺を見てニヤリと微笑むのだった
あぁっぁ・・・・・・・逃げたい・・・・
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