第7話飛加藤

 1537年(天文6年)12月 越後国 谷浜村



「おう。新次郎様大物の鯛が獲れたんだ持っててくれよ!」


「ああ!新次郎様、晩のおかず造り過ぎたで持ってておくれ!」


「あぁぁ♪しんじろろ--しゃまだ♪またあしょんでね♪」


 街道から俺が代官を務める谷浜村に入るとやたらと村人から声を掛けられる

 まぁどれもクレ-ムなどでは無く獲れたての大きな鯛をくる漁師や余ったおかずをくれるおばちゃん達にこないだ遊んでやった子供達だ。

 

「おぉ!これは旨そうだな!鯛は家の親父殿の大好物だ。きっと喜ぶ!」


「おばちゃんいつも悪いな!おばちゃんの煮物は旨いからな俺の好物なんだよ。」


「おう!今度は浜に釣りにでも行くか!」



 俺がこの谷浜村の代官となってから半年が過ぎようとしている。

 最初に俺がこの村に訪れた時のこの村の村民は痩せて顔色も悪く村に活気も無かったのだが、今では皆少しふっくらとして顔色も良く何より明るくなっている。

 以前の村と比べて村に活気に溢れており人口も先日には千人を超えた、なんと半年で倍以上である。

 工房で新たに生み出される新型の農具・炭団・石鹸・などが越後国内に留まらず遠くは京、機内にまで広がり爆発的な売り上げを上げている。今では機内や博多などの遠方の商人達まで此処まで買い付けに来るほどである。

 しかし需要に対して生産が全く追いつかず、急遽工房の増設し人員の補充を流民や直江津で新たに募集した結果住民が爆発的に増える事になったのだ。

 現在も新たな工房の増設に新規事業所の建設、新住人の長屋の建設、増えた商人の為の宿屋、蕎麦屋の支店の建設等が行われており谷浜村は今まさに建設ラッシュの最中である。


 また新たに学舎という施設を造り運営する様になった。

学舎は親が戦で死亡したり貧しく育てられないと捨てられた孤児を食べさせ、そして手に職を持たせる為に身を護る術から読み書き計算などを教える施設だ。先程俺に声を掛けて来た子供も学舎の子供達だ。

 国を豊かにするのには先ずは人材が必要だが優秀な人材が其処等へんにに転がっているわけがない自分で育てるのが手っ取り早い、何よりこの時代の農民ほ本当に貧しい、こんな子供達が其処中に居る手の届く範囲でも助けたい。

今はこれが精一杯だが、将来的には規模も大きくし、子供達の適性に合った専門的教育も行える施設にしたいところだ。



「それにしても新次郎様は相変わらず凄い人気ですね。」


「ふふふふ、私の新様ですので当然の事ですわ兄様」


 先頃新たに雇った春日兄妹である、才能はずば抜けている2人なのだが兄の将次郎郎12歳妹の美雪が10歳とまだまだ幼いので、とりあえずは村の治安維持や俺の警護を主任務とする警備隊の見習いとして雇う事にしたのだ。

 当初は将次郎はともかくとして雪乃は才能が有るとはいえ幼い上に女子であった為に工房の手伝いでもしてもらおうと考えていたのだが、当の本人で有る美雪が警備隊への入隊を希望した。

 本人の資質を知る俺は「まぁそれもありか。」と思ったのだが

 兄の弥三郎は「女子が武士になぞ成れるものか!」と大反対したのだ


「あらそんな女子に一度も勝てないお兄様こそ武士になぞ為れないのでは?女子の私にすら勝てない兄様にとても新次郎様の警護が務まるとは思えませんが。」


 そんな兄に対して雪乃は余裕の表情で言い切った


「ぐぅぅぅ・・・・・・しかし・・だな」


「まぁ決めるの新次郎様ですので、お兄様いつものお仕置・・・鍛錬を新次郎様に見てもらいましょうか。」


「なっ!?ここでか?待て雪!・・・・・お願い待って!」


「問答無用です。」


 鍛錬・・・いやお仕置きか・・・はまさに一方的なものであった

 弥三郎の実力も年の割には優れているのだがそれ以上に雪乃が優れていた

 素早い動きで相手を翻弄しそして正確に相手の急所を打つ

 既に弥三郎は涙目である

しかも態と急所を外して鍛錬を長びかせている辺りに、その余裕と女の怖さを思い知らされる

 まぁ彼女の能力を知る俺にとっては当然の結果だったのだが、実の兄に容赦ね~なこの娘


 うん・・・・・この娘を怒らすのは絶対ダメ

 

 こうして雪乃は兄を襤褸雑巾の様にして備隊入隊を勝ち取り今では幼いながらも実力を皆に認められてきている。そうして雪乃は主として俺の護衛任務に就く事となったのだ。

 京志郎もあれで警備隊の隊長だ中々忙しいのだ


 そんな将次郎や雪乃達警備隊と村の中心に有る工房に向かっていると一人の

 商人風の老人に新次郎の眼が止まった。

 一見すると唯の商人にしか見えないが・・・・・


 新次郎は将次郎にそっと目配せして、その商人に声を掛けた


「御老人この辺りの者では無いようだが、どちらから参られたのだ?」


「・・・ん?おぉぉ!もしやあなたは新次郎様で?私は信濃の商人安兵衛と申します。どうぞお見知りおきを。」

 好々爺にしか見えない反応だ、たいした役者だ


「それは遠くからよく参られた。ひょっとして家の商品を見に参られたか?」


「はい、それはもうこちらの品の評判は信濃にまで鳴り響いておりまして是非とも仕入れたいと思っております。」


「ほうそれは願っても無いな、では儂が工房を案内させて貰おう。是非共良い商談としようではないか。」


「・・それは願っても無い事で。是非とも良いお話を伺いとう御座います。」





「ほう・・・これはまた変わったお部屋ですな。」


「フフフ、この部屋に初めて入った者は皆そう言うな。」


 俺はこの老人を工房に在る俺の執務室に案内した

 部屋には板張りの上に絨毯が敷かれ俺の執務用の机、その重厚な机には愛相応しくない子供用の椅子、部屋には工房で造られた色鮮やかな絵画、壺、花瓶などの工芸品が飾られ部屋の端には商談用のテ-ブルと椅子が置かれている西洋風な部屋だ、この時代の人間には珍しいだろう。


「まぁ南蛮ではこういった様式だそうだ。気にせず座ってくれ。」


 京志郎が商談用の椅子を引き老人に座るよう促した老人の背後に控える。京志郎も接客に大分慣れたようだその対応は中々堂々としたモノだ。

 俺も老人の前に座った、背後に将次郎と雪乃が控えている。


「さて・・・単刀直入に聞かせてもらうが、お主今誰かに雇われておるのか?」


「・・・・はて一体何の事でしょう?私は一介の商人に過ぎませんが・・」

 一気に警戒心が高まったな・・それでいて表情は一切変わらずか、たいしたもんだ。


「すまんな。俺は無駄が嫌いでな無駄な芝居はもう止めだ。お主乱破であろう?」


 男の警戒心が高まり僅かだが殺気も混ざった、男の背後に控える京志郎も何時でも抜刀出来る体勢に入っている


「短慮は起こすなよ。ここでお主を始末しようともとって食うつもりもない。俺は商談と言った。」

 殺気は収まったが疑念や警戒心が強い


「・・・・・・・・・今主と呼べる者は居りません。」


 男の雰囲気がガラリと変わった、曲がっていた背も真っ直ぐとなり、声も若い男のものだ。老人の姿は仮のモノで本来はもっと若い男なのだろう。


「では何故此処に来た?単なる物見遊山とは言ってくれるなよ。」


「我等にとって情報は命に等しい、「越後に神童が現れ摩訶不思議な物を次々に世に送り出している」と聞けばどんな荒唐無稽な話でも探りを入れるのは当然の事。」


「それであわよくばうちの製品の製造法等を手に入れれて大儲けでもしようと?」


「はぁ・・・・・・まぁそいった所ですな。」


 美雪が俺に「どうしますこいつ殺りますか?」と眼で問うてくるが無視だ。

 ほんと可愛い顔して本当に物騒な娘である。

 将次郎妹の事は任せた、責任もって止めろよ。


「で、なんか成果はあったか?」


「それがとんと。中々腕の良い者達をお雇いのようで神童様は。」


「こんな商談はお主で5回目だからな、皆よくやってくれているぞ。お主はどうする?」


「・・・・・どうするとは?・・・・・・・御当家に雇って頂けるとの事で?」


「そう言っている。と言ってもお主の一族の事まで俺は知らん。それを聞いて条件を出そうと思うがどうだ?」


「・・・・是非にも。」


「うむ。お主の所で忍び働きが出来る者はいか程おる?一族郎党入れてどれ程か?」


「忍び働きが出来る者は100人程、一族郎党は合わせて500人はおりまする。」

 ほう。思ったより多いな


「ではお主には100貫、忍び働きが出来る者は50貫その他の者は働く意思が在る者はうちの工房か警備隊で雇っても良い。勿論成果を上げれば他にも褒章を出すし有能な者は昇給もある。」


「なっ!・・・・・真でございますか・・・・?」


「まぁ口約束だけではな。勿論契約書も作ろう。」


「契約書・・・ですか?」


 俺が懐から一枚の書状を取り出し男の前に置く


「その書状に書かれている事に納得したなら端に名前を記してくれ。それで家との契約は完了だ。その代わり後から聞いてないってのは無しだ。気に食わないなら残念だがここから去って貰うが、安心しろ何もせん。」


 男は食い入る様に契約書を眺めている

 内容的には給料や昇給、報酬についてと守秘義務や万一任務で大怪我や死亡時の補償について書かれている。

 やがて契約書を読み終えると男は静かに眼を閉じた


「・・・・・・・・我等はこれまで懸命に働けど、乱破・素破と蔑まれまるで獣の様な扱いを受けて参りました。無謀な任務に駆り出されたあげくに約定通りの報酬を受け取る事も儘ならず。住まいを追われる事も有り申した。そんな我等にこの様な待遇を与えて頂けるとは・・・・・是非とも殿の家臣の端に加えて頂きとう御座います。!」

 男の瞳からは大粒の涙が溢れていた、意外と熱い男である。


「そうか末永く頼むぞ。おう。そういばお主名を何と申す?」


「申し遅れました。某名を加藤段蔵と申します。宜しくお願い致します。」


 まぁ知ってたんだけどな

村でこの老人を見掛けた時癖でその能力を見ちゃったんだよな、最近は初見の者を見ると自然に能力を発動する癖が付いてしまった


名前:加藤段蔵 男  

・統率:57/85

・武力:82/88

・知略:71/84

・政治:7/45

・器用:88/93

・魅力:32/55

適正:諜報 暗殺 工作


 飛加藤じゃね----------か!大物来た---------------!


 思わぬ大物との迎合に心中で喝采を上げたものだ


 この出会いは大きい政治でも軍事でも経済でもいち早く情報を得た者が勝者となる、この乱世なら尚の事だ。鳶加藤には励んで貰うとしよう、その働きには報いる。

そろそろ本格的に情報局を起ち上げるか。







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