戦国日本を世界一豊かな国へ！

第6話石弓

1537年(天文6年)10月　越後国　北国街道

「ん・・・・・あれななんだ京志郎？」

「・・・・・どうやら童が追われているようですな？人攫いでしょうか？」

谷浜村と直江津の間3キロ程の間は長い砂浜が続きその砂浜に沿って北國街道が通っている。その長浜と呼ばれる砂浜には現在諸国や越後国内の戦乱を逃れてきた流民達の仮住まいの場になっておりその数は千を下まわる事は無いだろう。

　俺は京志郎と護衛の兵士を連れ直江津の屋敷への帰路にその事件に巻き込まれる事となった。

　街道をいつもの様に京志郎の操る馬の背で日本海の絶景を楽しんでいると、なにやら子供らしき２人を盗賊の様な身形をした連中が襲っているのが眼に入った。

逃げる子供らしき者も街道を往く俺達に気が付いた様で逃げる方向をこちらに修正してこちらに向かって来ている。

　この戦国時代というのはとにかく治安が悪い、主家が滅び浪人となった侍や食うに困った農民が野盗化し周辺の村々を襲ったり、人攫いをする等の話は日本全国に溢れかえっている。なんなら後の世に英雄と称えられる武田信玄や上杉謙信でさえ人身売買に手を染めていたという程に倫理観の崩壊した時代なのだ。

「どうする若？」

「人攫いなら捨て置けん。助けるぞ。」

「・・・護衛の身としては若に危険が及のは避けたいのですが・・・・流石は若様だ！」

　こちらを振り向きやれやれと首を振りながらも京志郎は配下の護衛達に戦闘準備を支持してば馬首を人攫い達の方に向ける。

　京志郎は商売や工房では空気でしかないが事が戦闘となると肝が据わっているし武芸の腕も中々のもで頼りになる。

今もどこか楽しそうに部下に的確な指示を出している、やはりこいつは戦闘指揮官向きだな、、将来的には万軍を指揮してもらう予定だから頑張って成長してくれ。

やがて何とか人攫いに追いつかれる前に俺達の下に辿り着いた２人の兄妹らしき２人の子供、年長の兄らしき少年が肩で息をしながら俺達に保護を求めた。

「人攫いで御座います！どうかお助けを。」

１２歳ぐらいであろう腰に太刀を差した少年と、俺より少し年上の10歳ぐらいの少女だ、どちらも端正な顔立ちをしており身に纏う着物も薄汚れてはいるがそこそこ上質な物である、どこかの滅びた武家の御曹司達といったところかな。

姿もどことなく似ている事からおそらくは兄妹なのだろう。

その端正な顔立ちが今回は仇となって人攫いに狙われる事となったのだろうが。

追手の人攫い達は10名程、槍や刀で武装しどこかで奪ったであろうボロボロの鎧を纏った者までいる。皆卑しい笑みを浮かべぼさぼさの髪に不潔な髭、垢に塗れたいかにも犯罪者といった感じの男達である。

　本来犯罪者なら決して正規の兵には近づく事は無いのだが、この時代ではこちら側有利と見れば構わず平気で襲い掛かってくる。現にこちらの兵は俺や子供を除き５名運も悪い事に周りに人目も無い。

　こちらの陣容を見て組し易しと見たのであろう俺達をも獲物と定め向かって来る・・・ほんと世も末である。

「若、例のモノぶっ放していいですかい？」

「あぁ構わん存分にお見舞してやれ！」

　京志郎は彼等と俺を背後に下げると京志郎と兵士達は木製の弓らしき者を向かって来る人攫い達に向けて構える。

「撃て！」

人攫いに警告を発する事無く京志郎と兵士達は無慈悲にその引き金を引いた

放たれた凄まじいスピードの５本の矢は狙いたがわず5人の人攫いの身体を貫いていく。

「なっ！畜生弩か！？」

「頭！やべぇですぜ」

　瞬く間に半分が戦闘不能となり動揺する、

「落ち着け！弩なら連射はきかん・・・ガッァ」

人攫い達に非情な2射目が放たれ男達は瞬く間に全滅した

残念これ連射式なんだよな

　京志郎たちが装備していたのは石弓だ、西洋ではクロスボウとも呼ばれている強力な機械式の弓である。日本ではあまり使われた記録は無いが西洋や中国などでは紀元前から使われておりその凄まじい殺傷能力により西洋では神が憎む兵器であるとされ、キリスト教徒に使うことが一時禁止され使用対象は異教徒に限定された程である。

その石弓を俺のうる覚えの設計図から造り上げた工房の職人達には感謝しか無い。

　その工房で出来上がった石弓の試作品を、さらに取り扱いを易く軽量化した上連射機能が付いた物を先日発足させた村の警備隊の20名には配備済みであったのだ。

因みにその警備隊の隊長は京志郎であり、隊員には武力が高く刀槍や弓等の適性が有る者を俺が選んだ、人数こそ少ないが精鋭と言っていいだろう。

「皆大分石弓の扱いにも慣れたようだな。」

「この弓は素晴らしいですな。射程は普通の弓より短いですがこの距離ではまず的を外しませんし何より素人でも容易く扱えます。」

「・・・・・あの、ご迷惑をお掛けして申し訳でした。」

「ありがとうございました。」

　俺と京志郎で石弓の性能について話していると遠慮がちに助けた子供達が声を掛けてきた。

話してみるとやはり兄妹だそうで、兄の方は春日将次郎、妹の方は春日美雪とそれぞれに名乗った。

　佐渡の国の豪族の生まれで家が戦乱で滅びる寸前で子供達だけで小舟で逃がされたそうだ。何とか此処まで小舟で逃れて来た所を今度は人攫いに襲われ攫われそうになっている所を俺達に救われたらしい。

　話を聞くにこの越後にも親類はおらず行く当ては無いらしいという事なので家で引き取る事とした。うというより俺の側近候補として是非とも雇わせて貰いたい！

俺の能力で見えた兄妹の能力が凄まじかったからだ。

名前：春日将次郎　男

・統率：32/85

・武力：29/71

・知略：50/95

・政治：35/95

・器用：45/70

・魅力：50/75

適正：軍略　政務

名前：春日美雪　女　

・統率：47/91

・武力：32/95

・知略：39/75

・政治：21/72

・器用：65/92

・魅力：61/85

適正：騎兵　弓　指揮

兄の弥三郎の方は軍師としての資質が有るし妹の美雪は戦闘指揮官として優秀過ぎる。

　そんな兄妹の優秀な能力に浮かれて俺は油断していたのだろう、盗賊の生死確認をしっかりと行っていなかった、軍時代の俺では考えれない事だ。

致命傷で倒れていた盗賊の一人が「どうせ助からないなら最後の抵抗を」とでも考えたのだろう雄叫びと共に一番近い場所にいた美雪に切りかかったのだ

春日兄妹は元より京志郎ですらその賊の突然の凶行に反応出来なかった

反応したのは俺だけだった、自然と身体が動いた俺は石弓を持っていない軽量化したとはいえ幼い俺にはまだ重すぎる

武器として帯びるのは腰に差した脇差だけ咄嗟に脇差を引き抜くと賊の前に立ち塞がった

賊の血走った眼が俺に向けられる

賊の標的が美雪から俺に変わった

「若！！」

背後から京志郎の叫びとこちらに向けて走り寄る足音が聞こえる

賊に許されるのはこの一撃だけ、この一撃を外しても外さなくても賊は終わりだ

賊もそれは悟っているのだろう

迷いない渾身の一撃を俺に振り下ろしてきた

速い・・・が来ると判っていれば躱すのは容易い

俺は賊の右前方に飛びその一撃を躱すとそのまま逆手に持った脇差を賊の首に突き刺した

鮮血が俺と砂浜を朱色に染めた

「若！怪我は無いか！？」

背後から京志郎が駆け寄って改めて部下に命じて俺の安全を確保してから俺に土下座して謝って来た

「若、申し訳なかった。油断で若を危険に晒した。護衛として失格だ、腹切って詫びる。峰の事をよろしく頼む。」

そう言って脇差を抜く京志郎を慌てて止める事になった

「ちょっ！待て！馬鹿かお前は？その理屈だと油断してたのは俺も一緒だ、だったら俺も腹を切らなきゃいけなくなるだろ？俺は腹なんか切りたく無いぞ。」

「しかし・・若はちゃんと動けてた。」

そりゃ歳は一番若いが軍歴は俺が一番長いからだよ！言えんけど

「しかしも糞も無い、俺は京志郎が悪いとも思っておらんし咎める気も無い！何よりこんな詰まらんことで有能な家臣を失う気は無い！」

「・・・・・・・若・・・この古賀京志郎・・・一生若に忠誠を捧げまする！」

「・・・うむ頼りにしている。」

アブね！いきなり有能な家臣が腹切りとかこの時代の侍って倫理観どうなってんの？

まぁ忠誠心が爆上がったみたいなんで良しとして置く。

そういえばあの兄妹はどうした？

兄妹が居た方を見ると兄の将次郎は気が抜けたのか砂浜にへたり込んでいた、妹の美雪は呆けた顔で俺の方を見ていたが俺の視線に気が付くとスッと眼を逸らされた。

そりゃ・・・俺血塗れだしサクッと賊殺しちゃう人殺しだけど幼い少女にそんな態度取られると少し傷つく。。。

　まぁ子供にはこの光景はちとキツイか。

きついだろうがこの子達の身の振り方も考えてやらないとな

「２人はこれからどうするつもりだ？なんなら我が家に仕えるか？」

「・・・・えっ・・・・？」

「・・・！！是非にも！！この身も心も若様に捧げ必ずや若様のお役に立って見せます！！」

ん？エライ勢いで喰い付いて来たのは先程迄俺に怯えていた妹の美雪の方だった、兄将次郎の方は突然の誘いに戸惑っている感じだったが理解が追いついたら涙を流しながら礼を言われた。

これで将来有望な人材が手に入った。

うん良い広い物をした。

あ、、、今回賊に俺が切り付けられた事は京志郎達に緘口令をしいとかないとな息子を溺愛する母上なんぞに知られたら外出禁止令とか出されかねんわ。