第3話 おねだり
「何500貫貸して欲しいだと!?」
今生での決意を固めた俺は屋敷にある父親の書斎を訪れていた
俺の視線の先には父上事、蔵田家当主蔵田五郎左衛門重久が呆れた表情で俺を見ていた。俺を膝に抱き抱え座る母上の幸は「アラアラ」と言いながら微笑んでいる。
まあ気持は判るさ、先日まで死の淵を彷徨っていた幼子が急に大金を貸してくれ!なんて言い出したら普通の親ならそうなるわ。
ちなみに何故母上迄いるのかというと屋敷に戻った早々に俺に構って来た母上に「父上に頼みたい事がある(だから今は構わないでね)」と言ったら
「では私も参りましょう。」
と言って有無を言わさずに付いてきたのだ。
まぁ母の事は置いて置こう、今は最大の出資者候補との交渉中なのだから
俺は気合いを入れて親父殿を真っ直ぐに見詰めて言う
「はい。その様に申し上げました。」
「その様な大金を一体何に使うつもりなのだ主は?玩具が欲しいなら買ってやるぞ?」
まぁ当然の疑問だな500貫というと現代の価値で言うと6000万円程か・・いくら富裕な我が家といえどぱっと出せる金額では無いしましてや7歳の子供に渡せるものでは無い。
唯そう言われる事は判っていたしその言い訳も考えてはある、何より簡単に諦める事は出来ない。
「父上私が先頃迄大病に侵されて死の淵を彷徨っていたのはご存知でしょう。私はその時夢の中で神々しい女神様とお会い致しました。その御方がおっしゃいますには、「お主にはこれから多くの日の本の民を救うと云う宿命がある、こんな所で死んではならん。」とそうおっしゃいました。そして夢の中で私に多くの知恵と加護を授けて頂いたのです。そして目覚めた時私の病は完治しておりました。私は女神様に命を救われたので御座います。ですから私はその女神様に御恩をお返ししなければなりません。先ずはその授けられた知恵をを使い商売を始め多くの民草を助けたいと思ったのです。私は今ではその御方は大御神様では無いかと思っております。」
大御神様と言うのは伊勢神宮の主神天照大御神の事だ天皇家の祖先と言われ日本人の総氏神とも呼ばれてい大神様である。
夢云々や知恵を授かったと言うのはまぁ嘘だが、加護を授かったという所だけはまるっきりの嘘ではないのだ。転生してから俺には以前には見えなかったモノがみえるようになったしな。
訳が判らんので取り敢えず加護ってことにしておくことにした。
誰から頂いた加護かはさっぱり判らんが
「そ、それは真なのか新次郎」
「はい。確かにお会い致しました。あの神々しい御姿はまず間違いないかと。」
「うむむ、とは申してもな何か証となる物は・・・」
「あなた・・・まさか新次郎が嘘を申しているとでも?」
流石にこの設定は無理があったかな?迷信深いこの時代ならワンチャンいけるかと思ったが7歳の息子がいきなり
夢で神様に合いました→神様に知恵を貰ったので商売します→大金かしてね
なんて言い出しても俺なら絶対に貸さんしな
さて面倒だが少し現代知識でもお披露目を天動説とかでどうだろう?などと思っていたら
父の隣でニコニコしていた母から思わぬ援護射撃が入って来た
「い、いやそうは・・言っておらん」
うん・・・母上の人睨みで父上の挙動が少しおかしい
うん・・・なんかこの家の力関係が判ったわ
母上は怒らせない様にしよう
「それならばあなた、500貫程度ぱっと渡して差し上げなさいませ。そもそも我が家は大御神様を祀る伊勢神宮の御師を出自としているのではありませんか、そのあなたが大御神様の加護を受けたという新次郎の言葉を信じないとはいかなおつもりなのです。何より神の御言葉をどう証明しろと?」
うん・・・・父上タジタジの母上の正論攻撃である
ここで少し我が蔵田家について話して置く
元々は母上が言うように伊勢の伊勢神宮の御師という下級の神官の家系で祖父の代に当時越後で頭角を現してきていた長尾為景に仕えた。そして御師としての機内での人脈を使い越後上布の原料である青苧(あおそ)の独占販売権を握っていた機内の青苧座との折衝を行い長尾家の京都への青苧搬入を認めさせた。その成果により蔵田家は青苧の公事徴収・流通統制権を認められ越後の青苧商人達を束ねる存在となり父の代には本拠地である府内の港直江津の代官まで任される事となる。
そんな伊勢神宮の神官であった蔵田家が伊勢神宮の主神である天照大御神様の名を出されれば無下には出来ないという話である。
「むむむむむむぅ・・・・・しかしな」
「あなた」
「・・・・・・判った500貫出そう。新次郎の好きにすると良い。唯し目付けは付けるがな。」
勝負有りだ。まさに母上の完全勝利流石は武家の出身だけの事はある。
そういえば我が家で武人の素質が有りそうなのって母上だけだったよな。。
「父上、母上ありがとうございます。それと・・・・・・後幾つかお願いが御座います。」
「まだ何かあるのか・・・・・」
父上がもう勘弁してという眼で俺を見て来るのを見なかった事にして
俺は後幾つかのお願いの交渉に入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます