第1話 目覚め
「あぁ・・・・見知らぬ天井・・・・じゃないな・・・・・」
喉の渇きを覚えて目覚めた俺は初見のはずの板張りの天井に既視感を覚えた
障子に襖に板張りの床、電灯の代わりに燭台が置かれている純和風の空間は佐伯遼佑には無縁だった光景だ、
しかし今俺は長年この部屋で過ごしてきたという安心感も感じる
この部屋は・・・・・どこかで
そうだ・・・・この部屋は夢でみた少年新次郎が長年過ごした部屋だ
部屋を見渡せば父親に強請って買って貰った書籍が棚に並んでおり、母が少しは気晴らしに成ればと買ってくれた武者人形が部屋の隅に鎮座していた。
これは・・・・・・俺佐伯遼佑の記憶では無い・・・そう夢で見たあの少年新次郎の記憶だ
俺は死んだはずだ
どうなっている?
死んだはずの佐伯遼佑の記憶と夢で見た新次郎という少年の記憶が混在する事に困惑している最中にふと己の青白く細い小さな手が眼に入った。
「そういうこと・・・なのか?」
俺は自分の左手をじっと見つめる、その手は青白く細い小さな子供の手だった、おまけに手のひらには新次郎が幼い時に頃囲炉裏で火傷した傷跡までもが残っていた。
そうだあの時は蘭姉とふざけて遊んでいたら・・・あの後蘭姉と二人、母に随分と叱られたな。
急いで近くの棚にあった手鏡を覗き込んでみる
其処には青白い顔の痩せこけた少年の顔が映っていた
そう夢で見た新次郎少年の顔だった・・・
不思議な感覚だった、現代で戦死したはずの佐伯遼佑と遥か昔の日本で暮らしていたはずの少年2人の記憶が存在しているのだ。
だが感覚的にはどちらがメインでサブといった感じでは無く・・・・
そうだな・・・・・2人の魂が混じり合って新たな1人の人格が出来上がった、そんな感覚だ。
俄かには信じられない事だがそう考えると現状の辻褄が合うのだ。
にしても・・・新次郎の身体に入った事はまぁ置いとくとしてこの身体は大丈夫なのか?記憶の中では歩く事も儘ならない医者にも見放された様な重病人だったんだが・・・
確かに身体は少し熱っぽいし節々に痛みは感じるが、頭痛も無くそれ程気分も悪くは無い、言うなら風邪の治りかけのような感覚である。
ただ喉の渇きと空腹は相当なものだが。。
俺は渇きを潤そうと近くの水差しに手を伸ばし口に含んだ
旨い・・・・・・生き返るようだ
そんな時障子がすぅ-と開くと少し疲れた表情の母幸が片手に手桶を持って朝日と共に部屋に入ってきた
そして身を起こしていた俺と眼が合う
「・・・・おはようございます母上」
「母上」という言葉も自然と口から出た
母親を見ると途端に家族に対する親愛の情も湧いてくる
やはり新次郎も俺の一部なんだな
「・・・・・・・・・新次郎・・・?」
起き上がる俺を見てしばし固まった母上の瞳には見る間に大粒の涙が溢れてきた
「あぁぁぁ新次郎!」
母上は手に持った手桶を放り投げると新次郎に駆け寄り泣きながら強く息子を抱きしめるのだった。苦しかったがその腕には「もう2度と息子を手放すものか!」というような母親の強い愛情が感じられ俺も思わず涙ぐんでしまった。
やがて母の騒動を聞きつけた家族や家人達が集まって来て屋敷は久し振りに活気を取り戻す事になるのだった。
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