第56話 俺ニート、絶望の虚しさに環境音を添えて

「確かにアリスさんが言っている言葉に嘘はないと思います。だからこれ以上の攻撃は不可能。でも手当をする必要性は?アリスさんは今は敵ってことですよね?」




「それは……最期まで私は、リバーサル社の社員だからです」




「でも……あなたは……あなたは死ぬんですよ!?それでもいいんですか?」




「この戦いではどちらかが必ず負けるんです。それが私だった。それだけのことじゃないでしょうか?」




「……ぐっ!」




アリスはもう……俺の熱がこもった言葉は届かない……


もう俺が声をかけることも、辞めた方がいいのかもしれない。




「一つだけ聞かせてください」




「……はい」




「どうしてアリスさんは、リバーサル社の社員になったんですか?」




「……内緒です。それはリバーサル社の秘密です」




(…………)




死ぬまでリバーサル社に努めるってことか。


まるで『洗脳』されているみたいだな。




「アリスさん……」




「はい」




(…………)




「……今まで、ありがとうございました。さようなら」




バーン!




(…………)




これで……良かったんだよな?


その言葉に答えてくれる人は……誰も……いなかった。




……気づけば俺は現実に戻ってきていた。


だが……アリスという存在だけは、元に戻ってこなかった。




(…………)




俺はどうすることもできず、ひとまず寝ることにした。


明日になればアリスは帰ってくる。きっとそうなんだ。


普段だって俺が寝るときは一人じゃないか。


アリスが夜勤とやらに行っているのだろう。


きっと今回はたまたま俺に連絡もせず勝手に言っただけなんだ。


きっとそうだそうだ!アリスもたまにはおっちょこちょいなところ見せるじゃないか。




もう今は忘れよう。とにかく明日になろう。




(…………)




いつもより寝付くのに時間はかかったが、なんとか眠ることができた。


そして迎えた次の日。




ビューン!ビューーーーン!




(……ん?)




今日はあいにくの荒天。まるで俺の心境を表しているかのようだ。


……いや!そう考えちゃだめだ!


アリスは今いつものパンを用意して待っているはずだ!




俺はそう考えるように脳内に強く叩き込んだ。


俺がアリスを撃ったのはきっと何かの間違いだったんだ。


あれはそう!でかい夢の中だったんだよ!




(…………)




俺はそう考えながらも、アリスがいつもいる場所へたどり着く。


そして祈るような思いで、扉を開けた。




「あっ!淳一さん!おはようございます」




(……!)




やった!やったぞ!


神は俺に味方してくれたんだ!


アリスは死んでなどいない!俺はアリスを撃ってなどいない!


俺の考えが全て正しかったんだ!




「おはようございます」




さあ今日のパンはなんなんだ!もはや目の前にあるパンの存在が嬉しく思えてくる。


どうやら今日はバターロールだったようだ。




「いやーアリスさん。今日はバターロールだなんて珍しいですねぇ!こう特別な味付けもなく、パンそのものの味を楽しんでほしいってことですか?」




「…………」




「まあクリームパンとか、メロンパンとか、ジャムパンとか、パンに味がついているものばかり食べてましたからねぇ……たまには素材本来の味を楽しむのも大事ですよね!」




「…………」




「いやー……このふっわふわのやわらかいパンの触感に、まるで新鮮な空気のような味わい!濃厚でとってもいい感じの味わいだ!ね!アリスさん?」




「…………」




俺が何度話しかけても、アリスは一度も……一言も喋ってれなかった。


そして近くにあった鏡には……何もない……いや、空気を食べていた俺の姿があった。




「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」




「もう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だもう嫌だ」




俺は頭を掻きむしった。そして机に突っ伏した。




(…………)




これは夢なんかじゃない。全て現実に起きたことだった。


アリスはもう……死んでしまったのだ。

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