知らない天井とバスローブ

「・・・・くん」


 なんだろう・・・聞き覚えのある声が聞こえる。

 昔はよくこの声とやかましい声の二人で遊んでいたっけ・・・


 俺は目を閉じたままその声を聞き声の主をイメージしていた。


 桃色の髪で、五年ぶりに再会した幼馴染・・・


「あっくん・・・・」


 ちょっと前頬にき、キスされて・・・・そうだ

 あの大胆になるって発言はどうなったんだろう・・・

 べ、別に何も期待してないし?ちょっとどういう意味かなぁって思ってただけだし・・・


「あっくんってば!!」

「な、なんだ・・・あだっ!!」

「あうっ!」


 俺の体を揺らし、名前を強く呼ばれた事で俺の眠気は消え失せ、飛び起きる様に目を覚ました・・・・と思ったら何故か額に痛みが走った。


「痛ってて・・・」

「痛いよあっくん・・・」


 どうやら俺と夢は額どうしをぶつけてしまったらしい。

 俺と同様にぶつけた額を俺の体の上で片手で押さえている・・・・ん?

 体の上・・・・?


「ちょっ!夢、そんな姿で何やってんの?」


 俺に馬乗りしていた夢はバスローブ姿のまま額を押さえ・・・・こちらを見下ろした。

 あっ、そんな姿でのぞき込むように見下ろしたら、その・・・・胸が見えそう・・・・って何考えてんだ俺!!


「急に大声出さないでよ・・・」

「ご、ごめん・・・じゃなくて!そこで何やってんの!?」

「何って・・・・ねぇ・・・」


 夢は俺の発言に、額の次は耳を押さ視線を俺から逸らした。


 嘘・・・・大胆ってこう言う事?

 俺寝てる間に大人になったって事?


「俺・・・もしかして卒業式しちゃった?」

「それは普通にセクハラ発言だからやめて・・・」


 頬を赤らめた夢は俺の横に座った。


「別に何もしてないよ・・・ただあっくんがずっと寝てるから」

「なんだ・・・・よかった」

「よかったって何よ・・・・私じゃ不満な訳?」

「あっいや、今のはその・・・・」


 胸に手を当て深呼吸をした瞬間、次は俺の発言を聞いた夢がジト目でこちらを睨んでくる。

 その目を見まいと目線を逸らしたが、背中越しに今も睨んでいる視線が伝わる・・・


「ってそうじゃない!」


 俺は肝心の事を思い出し、体の向きを反転させ、夢の方を向いた。

 まだ視線のやり場に困る・・・


「ここは?先輩は!?」


 俺の質問に夢は、「ん・・・」と言う言葉と共にベットの前に配置された机を指さした。


 俺は立ち上がり、ピンクの壁紙と薄暗い光の中部屋内にある目の前の机に向かった。


 うん、もうコレあれだ・・・・ホテルだ・・・・

 未成年が入っちゃいけない所だ・・・・


 香織は当然として、楓にもこの事は言わない方が良さそうだな・・・・

 何故かは分からないが殺されそうな気がするし・・・


 香織よりも淡々と詰めてくる楓の方が、怒ると怖い事が分かった。

 もういっその事殴ってくれた方が良い・・・・俺はMじゃないぞ。

 って言うか何故俺が怒られなきゃいかんのだ!


 っとそうだ、机・・・・なんだこれ?


 机の上には一枚のコピー用紙と十枚の諭吉君が置かれていた。

 俺はそのコピー用紙を手に取り、書かれている文章に目を通した。


 文章を見た瞬間に、ヤクザの松野さんからの物だと理解した。


『急に麻酔銃撃って大阪まで連れてきてしもうてすまんかったなぁ、そっちの嬢ちゃんもすんまへん。ただまぁホンマにこれ以上ウチの問題に首突っ込む様ならただでは済まんから”これ”で帰り。

 ホテルの金は払ろてるさかい、その嬢ちゃんと楽しんでもええし、デートして行ってもええ。

 もちろん、釣りは持っていきや』


 本当にあの人ヤクザか?相変わらずいい人過ぎないか?


 俺は手紙を読み終えた後に部屋のカーテンを開け、外の光を浴びた。


「うっ・・・」


 光に目が眩み、顔を隠した手を退けた時、本当に自分が大阪にいることを理解した。


 うっわ・・・あれ通天閣か?まじで大阪に来てしまったのか?

 ・・・で先輩は実家に連れ帰られたと・・・


「あっくん?」


 俺が外の景色を見つめていると背後からでまだバスローブ姿でベットに座っている夢が声をかけて来た。


「とりあえず先輩を探さないと・・・・」

「え!?ダメだよ、危ないよ!」


 夢はベットから立ち上がり声を上げた。


「手紙見てないの!?相手はヤクザ、松野さんが良い人だっただけで、これ以上関わったら何されるかわかんないよ?」


 夢の言っている事は最もだ・・・

 実際俺が先輩に会って何かできるわけでもないし・・・・でも・・・・


「でも・・・先輩とまだ仲直り出来てないしそれに・・・」

「それに?」

「先輩も嫌そうだったから・・・」


 嫌っそうに顔をしかめ、ため息を付いた夢は俺に向け言葉を発した。


「もう・・・・あてはあるの?」

「え?」

「私だって姫先輩と離れ離れは嫌だし・・・・離れるにしてもちょっと早い気はしていたし」


 また頬を赤らめた夢はそう言った。


「まぁ青龍会と同じ規模なら場所はグルグルマップで分かるだろう・・・問題はどんな所か、かな?」

「じゃあ早く行こ、私はまだここでその・・・いろいろしてもいいけど、あっくんは嫌なんでしょ?」


 口角を上げジト目でそう聞いてくる夢。

 その言い方はアレだ・・・・いろいろマズイ・・・


「嫌って訳じゃ・・・・じゃない!そうそう、早くいこう!」

「はいはい・・・」


 そう俺の言葉に返事をした夢とホテルを後にし、大阪の街に向かった。

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