ヤクザのイメージ

「これ、どこに向かってるの?」


 金狼連合本部に向かう途中、俺達はホテルの前から見える商店街に来ていた。

 大阪の街をぶらついていると、隣を歩く夢にそう質問をされた。


「まぁ、ちょっとな・・・・」


 俺は道中あたりを見渡していたが、何度か強面のスーツ姿の人達を見かけていた。


 アレも多分、金狼連合の人か?

 あんな風に普通に商店街に現れて、店員のおばさんと会話をして店を去っていく・・・


 やっぱり俺が知っているヤクザのイメージとかなり違うな・・・


 八百屋で野菜を買って、マイバックを片手に強面の男三人で商店街を歩いて、すれ違う人にお辞儀して・・・・


「あっくん、わかってるよ」

「ん、何が?」


 ヤクザの言動を見ている俺に夢がそう話しかけて来た。


 わかってる?俺何かしたっけ?

 何も心あたりが無いのでそう聞いたが、夢は俺の頭を撫でて来た。


「お腹すいてるんでしょ?」

「はい?」

「さっきからずっとたこ焼き屋さんを見てるし・・・」

「たこ焼き!?」


 俺の目線の先にいるヤクザの後ろには一軒のたこ焼き屋があった。


 いやいや、今はたこ焼きを食べてる場合じゃ・・・


「私もお腹空いたし、行こっ」

「ちょっ、おい・・・」


 俺の手を引きそのたこ焼き屋まで向かった夢は、六個入りのたこ焼きを注文した。


「おや?あんたらカップルなん?」

「え?」


 店員のおばさんが俺たちを交互に見てそう聞いてきた。


「はっ!」


 俺は夢に手を引かれたままだった為、その・・・手を繋いでいた・・・


「ん!!」


 俺がそのおばさんの言葉と現状に照れ、手を振りほどいた瞬間に、また夢が手を繋いで来た・・・

 今度は離せない様にかなり力を入れているような・・・


「そうなんです、ちょっと旅行で来てまして」

「へぇ・・・ええなぁ、羨ましいわぁ~おばちゃんもまたピチピチの恋してみたいわぁ~」

「まだまだお若いのでできますよ」

「お?お嬢ちゃん上手やなぁ、たこ焼きちょっと多めにしとくで」

「ありがとうございます!」


 明るい表情でそう店員のおばさんと会話をし、上機嫌になったおばさんはたこ焼きを四つも追加してくれた。


 夢って昔からおばさん人気高かったもんなぁ・・・今も健在とは・・・っとそうだ


「おばさん、ちょっと聞いても良いですか?」

「ん?どないしたんや兄ちゃん?」


 俺はいい機会と思い、金狼連合の話を聞いてみようとした。


「金狼連合って知ってます?」


 おばさんは俺の質問に大きく頷き返事をした。


「もちろんや、あの人らがそうやで」

「あっやっぱり・・・」


 おばさんが指さした方向には、先程まで俺が見ていたヤクザが居た。


「そんで?金狼連合の人らがどないしたん?」

「あっ、いや・・・なんだかやけに親しいなぁっと思って・・・俺のヤクザのイメージと違いすぎたから」

「まぁ・・・そうやろうな、金狼連合がちょっと特殊やねん」

「特殊?」


 俺の質問におばさんは言葉を続けた。


「金狼連合の会長さんが『カタギに迷惑かけんな!』って方針にしとるから、連合のみんなええ人しかおらんねんな」

「ここ最近やと金狼連合がおるこの町が日本で一番治安がええんとちゃうかな?」

「まじっすか・・・」

「まぁ、言うても相手は関西最大規模のヤクザやからなぁ・・・そこらへんのチンピラじゃ相手にならんねん」


「まぁ、ウチらみたいなヤクザとかに関わりない人には無害どころか町の人気物やから、ヤクザやからって身構えんでええで」


 やはり俺が思っていたように、あの人達は普通の極道とは違うようだ・・・

 地元の評判まで良いとは・・・


 俺はその話を聞いた後、たこ焼きを受け取り、夢と共に近くのベンチで食べ始めた。


「はい、あっくん・・・・あーん・・・」


 爪楊枝で刺したたこ焼きを俺に向け、その掛け声と共に顔の前まで突き出してきた。


「い、良いよ・・・自分で食べるから」


 こんな人前でそんなカップルみたいな事・・・うわっ、みんな見てるよ・・・


 俺たちの前を歩く人たちはこちらを見ては微笑み、通り過ぎていく。

「若いなぁ・・・」とか「ええ時期や・・・」と言う言葉と共に・・・


 恥ずかしくてその夢の行動を断ったのだが、俺の目の前には不満そうな顔が現れた。


「嫌なの?」

「いただきます・・・」


 その声に逆らえずに俺は差し出されたたこ焼きを口に入れた・・・・美味しい・・・


「・・・ど、どうかしたか?」


 俺はたこ焼きを味わい終わった後、横を見ると夢が目を閉じたまま口を開け、待機していた・・・・


 やれと?俺にもあのカップルにしか許されないイチャイチャをやれと言うのか!?

 でも、後が怖いし・・・・え?


 俺は意を決し、夢の口にあーんをしようとした時、その視線の先に見覚えのある人を見つけた。


「先輩・・・・?」

「え!?どこ、どこ!?」


 俺の言葉に反応した夢は目を開き、あたりを見渡した。


「いないじゃん!」

「いや・・・確かに似てる人が・・・」


 歩いていた後ろ姿しか見えていなかったが、確かに俺が見た事ある先輩に似ている女性だった。


「ちょっと俺行ってくるわ!」

「あ、あっくん!?」

「直ぐ戻ってくるから、夢はそこで待っててくれ」


 俺はその場から立ち上がり、その女性が言った方向に走りだした。



「確か・・・こっちに」


 辺りを見渡しても、それらしき人は見当たらない。

 それどころか・・・・・でっか・・・・


 俺はその女性を追って歩いているといつの間にか、当初の目的地である金狼連合本部についていた。


 青龍会同様に馬鹿デカい敷地の前にある門に門番の様なヤクザが二人・・・・

 外からでも見える建物?城?はその敷地内に五軒はあった。


 ここに先輩が・・・どうやって入ったら・・・


「ん?なんじゃい坊主!」

「げっ!」


 金狼連合の本部を見ていると門番二人に声を掛けられ、一歩ずつ二人がこちらに向かってきた。


 ま、まずい・・・『何見てんじぁ!』とかキレられる・・・・


 俺はそう思い、目の前に来たヤクザの顔を見たのだが、俺のイメージとは全く違う穏やかな声でヤクザは話しかけて来た。


「道聞きたいんか?ワシらここら辺はよう知っとるサカイ、教えたるで?」

「あっ・・・」


 優し!!

 えっ、微笑みと一緒にそんな言葉言ってくんの!?

 もう小学校の先生じゃん!


「えっと、その・・・先輩の知り合い・・・でして」


 恐る恐るそう口にし、顔色を伺った。


「先輩?」

「あっ、えっと自分・・・金本先輩と同じバイト先の後輩で・・・」


 その言葉を聞いたヤクザは俺の肩を叩き、言葉を発した。


「姫の友達かいな!?」

「友達?」

「姫が・・・・あの姫が友達を・・・」

「えっと・・・」


 急に泣き始めたヤクザを前に困惑していると、もう一人のヤクザの泣き始めた。


「ついに姫にも友達ができたんやのぉ・・・・」

「あぁ、ワシらがおるから友達できへんって言うてのに、ちゃんと作っとるやないか」


 涙を拭き終えたヤクザはまた俺の肩に手を置き、話を再開した。


「よう来てくれた!姫は今風呂入っとる時間やろうから、先に姫の部屋で待っといてくれ、姫の友達やしワシらが案内するで!」

「え?」


 その言葉を聞いた後、敷地内を進み歩き、俺は一つの大きな部屋に案内された・・・・


「もうそろそろ来ると思うから、待っといてくれや」

「は、はい・・・・」


 簡単に入れた・・・・


 ここが先輩の部屋・・・・

 先輩の匂いが・・・・ま、待て俺!それ以上は変態になる・・・


 俺は落ち着きを取り戻し、部屋を見渡してみると、机の上一つの写真盾を見つけた。

 俺がその倒れた写真盾を見ようとした時、部屋の扉が開き、文句を良いながら入ってくる人が居た。


「もう・・・何が『背中流します!』やねん、身内とは言え普通にアウトや!」

「ウチの事をまだ小学生と思っとん・・・・え?」


 俺の目の前に、昨日振りに会った先輩が・・・・


「ど、どうも・・・」


 俺の挨拶に明らかに動揺し始めた先輩は、この和室に似合う着物を着ていた。


「こ、後輩君!?なんで大阪に・・・って言うかウチの部屋におんの!?」


 驚く先輩は俺にそう聞いた。

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