青金戦争

「どうして姫花ちゃんが・・・大阪にいるんじゃないの?」


 俺の目の前に現れた楓は俺の背後より顔を出した先輩にそう聞いた。


「高校と大学がこっちやから地元から出てきたんや」

「そう言う楓は何で一人で外歩いてんの?」


 先輩は楓に質問を返した。


「今日は好きな本の新刊が出るから、振り切って・・・」

「嘘やん!そんな理由であの人らがアンタを一人で外で歩かせるわけないやん!」

「嘘じゃないよ・・・その・・・遥君もいるって言ったから・・・」


 は?・・・・俺?


 チラチラとこちらを見ながらそう言ってくる楓。


 俺楓と約束なんてしてたっけ?

 もしかして俺は楓との約束をすっぽかしたのか!?


「後輩君と?何言うとんねん、今日後輩君はウチとデートしとるんやで?」

「え?」


 ちょっ、おい!!

 楓がいるのに何て事言うんだ、この先輩!


「デートって何ですか・・・遥君?」

「ち、違くて!今のは先輩の冗談で!」


 ジト目でそう聞いてくる楓の目からはいつもの穏やかな雰囲気は感じられなかった。


「と言うより、先輩って何ですか遥君?姫花ちゃんとどういう関係なんですか?」

「えっと・・・先輩は俺のバイトー」


【バイト先の先輩】と伝える前に、先輩が俺と腕を組み合わせ会話に割って入って来た。


「まぁ、そう言う仲やねんウチら」

「はぁ!?」

「後輩君がまだ名前で呼ぶのは恥ずかしい言うから、元の・・・付き合う前の呼び方にしとるってわけ」

「アンタ、何言ってんの!?」


 たまらずそう突っ込んでしまった。


 なんだこの人、やっぱり俺脳みそ入れ替えたのか?


「本当ですか?」

「な、何が?」


 そう聞き返す俺に先程とは比べ物にならない程の冷たい目と声で言葉を続けた。


「姫花ちゃんと付き合ってるって・・・」

「う、嘘に決まってんじゃん!この人、こう言う事を平気で言うんだよ!」


 俺以外に先輩が誰かをからかうとは、思ってもみなかった。

 よりによって楓かよ・・・・ん?と言うより、この二人どうしてお互いの事知っているんだ?


 同じバイト先の夢ならともかく、特に接点のない二人が・・・


 俺は二人に質問をしようとしたが、先輩の暴走は止まらない。


「ヒドイ!嘘やないやん!」

「前バイト先でチューしようとしてたやん!」

「そ、それは!」


 俺は背中に感じた寒気に振り返ると・・・・・怖っ・・・


 仁王立ちした楓が・・・・顔が怖い・・・


「ちょっ!違うって本当に!」

「でも前、桃原さんともキスしたんですよね?」

「うっ・・・それは・・・」


 慌てて振り返った俺は、直ぐに弁解を始めようとしたが・・・

 瞼をビクつかせながら、トーンの変わらない声でそう追及してくる楓を前に何も言えなくなった所に、またややこしい先輩が口を挟んだ。


「なんやのそれ後輩君!!ウチ聞いとらんで!!!」

「いつの間に夢ちゃんと・・・それやのにウチの事口説いてたん!?」

「ちょっ!アンタ本当に黙れ!!」


 先輩の口を掌で塞ぎ、これ以上余計なことを言わせないようにした。


 ちょうどいいタイミングと思い、俺は先程の疑問をぶつける為に口を開いた。


「って言うか二人はどうしてそんなにお互いの事を知ってるんですか?」

「二人に接点とか無いですよね?」


 俺の手から脱走した先輩は視線をチラチラ動かし、冷や汗をかき始めた。


「そ、それは・・・・その・・・」


 そう明らかに動揺し始めた先輩とは違い、楓は落ち着いたトーンで言葉を発した。


「親同士が知り合いなんです・・・」

「親って・・・青龍会と先輩が!?」


 ますます共通点無さすぎるだろ!

 ゲームが上手い関西出身の先輩とヤクザ・・・・ゲーム繋がりと無理やりこじ付けるなら【〇が如く】とか?

 いやいや、意味が分からん!


「ちょっ!アンタ何言ってんの?」

「何が?」


 そう聞き返す楓に先輩は言葉を続けた。


「アンタ、ちいちゃい頃とかあんなに家の事を知られるの嫌がってたやん!」

「えっと・・・それは・・・」


 今度は楓が視線をチラチラさせたと思えば・・・・!?


 先輩の様に俺と腕を組み合わせ説明を始めた・・・


「それは、私と遥君の仲だから!」

「姫花ちゃんみたいな一方的なカップルじゃないの・・・ね?」


 何故俺に振る!?

 君とも付き合った覚えはないよ!


「ね?」

「は、はい・・・・・」


 冷たい表情とその声色が原因でつい返事をしてしまった・・・・

 怖い・・・楓ってこんなに怖いの!?

 学校でヤクザにブチ切れてた時よりも恐怖感じるんだけど・・・・

 俺足震えてるよ!!


「なんやのその・・・楓と後輩君は特別やって言いたげな感じは」

「実際そうだもん・・・もう家にも来てもらったし、組の人にも紹介したから」


 確かに行ったけど、俺殺されかけたよね!?

 あれは紹介とは言わないよ?ただ指名手配書をバラまいただけだよ!!


「ほんまなん?後輩君?」

「何がっすか?」


 もう多分先輩の質問はわかる・・・


 聞き返した俺に先輩は答えた。


「楓の家に行ったって」

「行きましたけど・・・あれはその・・・勉強をー」


 俺が言い終わる前に先輩は言葉を発しながら走り去って行った。


「後輩君のアホォ!!!!!!!!!」


 俺は遠くなる先輩の背中を追いかけたが、先輩に追いつくことはできなかった。

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