買い出しはデートに入りますか?
「おーい、後輩くーん!」
俺はこれまたいつもの隣町のショッピングモール内のベンチに座っていた所、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。
俺を呼ぶ声の方向に振り返ると、手を振りながらこちらに駆け足で寄ってくる先輩がいた。
「ごめんごめん、待たせてたもうたなぁ」
「ちょっとメイクに手間取ってもうて・・・アハハ」
「先輩ってメイクとかするんすね」
普段から綺麗な顔をしているからメイクなんてしていない、天然素材な人だと思っていたけど・・・
俺が先輩にそう話すと、デコに先輩が力を込めた指が飛んできた。
「イテッ」
パチッと音を立てた先輩のデコピンは俺のデコに綺麗に当たった。
「こーら、そこは先に『全然まってへんで』とちゃうん?」
「ウチせっかく漫画でよう見るシュチュエーションが出来ると思って、わざわざ一本電車送らせたのに」
「はい?」
「んもう!後輩君減点や!」
なぜ先についた俺が怒られる・・・
実際、先にはついていたけどそれも5分しか早くない。
俺も美穂に怒られるからその言葉は意識してたのに、何故か先輩だと『まぁ良いかな?』と思ってしまった。
それもこれも俺を普段から揶揄うからいけないのだ!
「はいはい、早くお店のお皿買いに行きましょうよ」
そう流す俺にもう一発の、今度は「バチン!」っとなるほどのデコピンが飛んで来た。
「痛っ!!」
「ちょっ、何するんすか!?」
流石に痛すぎたので声を大きくして言ってしまった。
本当に同じ人間が放ったデコピンなのか?
「後輩君、早すぎやって!」
「な、何が?」
そう聞く俺に先輩は答えた。
「デートやねんからもっとこう・・・あるやん!服褒めるとか、手繋ぐとか!」
・・・デート?
俺の記憶がただしければ、俺達は今日、バイト中に割ったお皿を買いに来たはずだ・・・
俺は誰かと脳みそでも入れ替えたのか?
いや、そんな凄い手術をした記憶もない。
「どう、ウチの恰好?可愛い?」
そう俺に聞く先輩の服装はチェック柄のスカートに白いブラウス、頭に被る茶色のキャスケットからは先輩の金髪が見える・・・
楓や香織とはまた違った、大人っぽい服装を見つめ、言葉を出した。
「に、似合ってますよ?」
「か・わ・い・い?」
言葉を強調して聞いてきた先輩に求められている言葉を返す。
「可愛いです!はいっ!!」
「んもう、素直やないなぁ」
俺の言葉に、先輩は大変ご満悦の様子だ・・・
「ほな、お店行こか」
「んっ!」
その言葉と共に俺の方へ右手を指し伸ばしてきた。
これはアレだな・・・俺に拒否権は無いんだろうな。
俺は恥ずかしながらも先輩の手を握り、歩き始めた。
この感じ・・・まるでデートだな・・・
俺たちはただ割ったお皿を買いに・・・・買い出しに来ているだけなのに。
先輩ってもしかして俺の事!
「こうしとかな迷子になってまうからなぁ」
うん、いつも通りの先輩だわ!期待して損した!
「はいはい、じゃ行きましょうか」
* * * *
「これとかどないよ?」
俺達はインテリアのお店で家具を見ていた。
手に取ったお皿を俺に向けてそう聞いてくる。
「いや先輩・・・店長が言ってたのは普通の柄のない白いお皿ですよ?」
そう、ネットカフェで使うお皿は全て柄の無い白いお皿。
先輩が持っているお皿には猫の絵が入ってある・・・・
「ん?知ってるで?」
「じゃあこれは何です?」
俺の質問に先輩は言葉を続けた。
「これでウチの作った料理、後輩君に食べて欲しいなって・・・・」
「え・・・?」
先輩は時々こちらがドキッとするような事を、素のトーンで言ってくる。
しかし、ここで俺が狼狽えようものなら、餌を見つけた肉食獣のようにからかいに来るに決まっている・・・あえてここは冷静に。
「へ、へぇ~先輩って料理できるんですね・・・・てっきりお弁当生活かと」
「う、ウチだって自炊くらいするわ!」
「自慢やないけど、高校から一人暮らしして、ほぼ毎日自炊してんねんで!」
「意外っすわ・・・」
あんなにお菓子大好きな先輩が自炊ねぇ・・・俄かに信じられないけど、まぁ確かにバイト先の料理はめちゃくちゃ上手に作っていたような・・・
「て言うか、先輩って高校生の時から一人暮らししてたんすね」
「せや、実家にいたくないから、実家のある大阪から離れる為に東京に越して来てん」
そうだったんだ・・・・
俺はてっきり大学がこっちに・・・東京にあるからとばかり。
「でもどうして実家が嫌に?親子喧嘩とかですか?」
「んー半分正解かな・・・・」
「半分?」
「まぁ、いつか教えたるからそれまで毎日ウチの事考えて生きとき。アハハハ」
先輩は笑いながら茶化すようにそう言った。
まぁ、人の家の話だしな・・・・変に首を突っ込むのも野暮だな。
俺はそれ以上特に何も聞かず、俺たちは必要な枚数のお皿を購入し、店を出た。
* * * *
「もういい時間っすね」
俺は時計を確認しながらそう言った。
時間は十六時を回りそうだった。
「せやね、帰りにバイト先にお皿届けて帰ろか」
俺の言葉にそう返した先輩と共に歩き始めようとした時、目の前にあったゲームセンターの景品に目が行った。
それは楓と初めて買い物に行った時に取ったぬいぐるみの亜種シリーズ。
ペンタゴンがカッパ被って傘を差している。
青崎、じゃなくて楓・・・あのぬいぐるみ、大切にしてくれてるかな?
俺が目線の先にある景品ディスプレイを眺め、昔の記憶を思い出していると、その光景を見た先輩が口を開いた。
「ん?あれ欲しいん?」
「え?」
「ちょい待っとき、金色の悪魔の腕前見せたるわ」
先輩はゲームセンターに向かい走って行った。
その異名、案外気に入ってそうだな・・・・
「ほい、これ」
「えっ、早っ!!」
先輩が挑戦したクレーンゲームは、ゲームセンターの悪徳使用設計。
どんなに上手い人でも三手、つまりは確実に三百円はかかる配置のはずが・・・・また百円だな。
本当にこの人は何者なんだ?
容姿もかなり良い方って言うか普通に美人だし、ゲームも世界急に上手い・・・
頭まで良いとかないよな?
でもまぁ、俺の為に取ってくれたんだしありがたくー
「え?」
俺がぬいぐるみを受け取ろうと手を伸ばした時、先輩が自身の方へぬいぐるみを引き寄せた。
「もちろんタダやないで?」
「そ、そりゃそうっすよね・・・」
なんだかてっきり貰える物かと・・・流石に図々しいよな。
「あげる代わりに、またウチと・・・・その・・・・」
「はい?」
先輩は頬を赤らめながら顔を上げ、言葉を続けた。
「ウチと買い物に行ってくれる?」
そんな事で良いんだ・・・・
正直俺も楽しかったし、答えなんて・・・
「もちろん、また行きましょう」
「ホンマに!?言質取ったで!」
「はいはー」
「あれ?」
俺が先輩の言葉を流そうとした時、背後から俺のよく知る声が聞こえた。
「遥くん?こんな所で奇遇だね・・・・」
振り返るとそこには、あのヤクザの娘で友達の楓がいた。
「お、おぉ!奇遇だな、かえー」
これまた俺が楓に言葉を返そうとした時、背後にいた先輩が口を開いた。
「楓やん・・・」
「姫花・・・ちゃん・・・?」
お互いの名前を呼び、固まり出す二人の間に俺は挟まれた。
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