関西のヤクザ
「おい、そこの赤いの!」
俺はバイトへの道中、俺を呼び止める野太い声に反応し振り返った。
げっ!
振り返るとそこには、派手なスーツに身を包み、腕に刺青が入った二.三十代くらいの男がいた。
もうこの人達に見慣れてしまった俺が怖い・・・
まぁなんだ・・・俺を呼び止めたのはヤクザだった。
「な、なんですか?」
見慣れたとは言え、流石にヤクザは怖い・・・
俺の問いかけにヤクザは答えた。
「ここら辺で金髪の女見てへんか?」
「女の子?」
「せや、身長も年もお前と同じくらいや、どうや見とらんか?」
情報それだけ!?
て言うか顔こっわ!!
野太い声と威圧する様な眼光で俺を見下ろすヤクザは俺にそう尋ねる・・・
「み、見てないです・・・」
「ホンマか?」
「ほ、ホンマホンマ!」
心当たりもなく、その威圧感故か変な関西弁で答えてしまった。
ほ、ほら答えたし早くどっかいけよ・・・・
こいつ青龍会の組員か?後で楓にチクってやる!
俺の願いは叶わず、更にヤクザは俺に距離を詰める。
「嘘やったらエンコじゃ済まさんでぇ!」
「ぐっ・・・・ちょ・・・」
俺の胸倉を掴み上げ、威圧をしてくる。
ヤクザってこんな奴ばっかりなの!?
もう本当に何なのぉ!
俺は胸倉を掴む相手の手を握り、顔に視線を向けた時、背後からヤクザに近づくもう一人の強面の男に目が行った。
その男は自身の右手を拳骨に変え、ヤクザ目掛けて振り下ろした。
「何しとるんじゃおどれ!!!」
「あだっ!!」
ヤクザは殴られた頭を押さえる為に俺の胸倉から手を外した。
「な、な、な・・・・何しとんじゃ・・・・あ、アニキ!?」
ヤクザは自分を殴った方に振り返りそう言った。
アニキ?
「おどれ、何カタギに手だしとんねや?」
「し、しかしコイツが姫の居場所を知っているかも知れやせん!」
姫・・・・?
それにしてもヤクザの人めちゃくちゃビビってんな。
本当にあの人があのヤクザの兄貴分なんだろう・・・
俺が考え事をしている間も、俺の前でまだ初めに絡んできたヤクザのおっさんが怒られていた。
「”カタギに迷惑かけんな”これがワシら【
「そ・・・それは・・・」
「それにワシらは”極道”・・・・カタギの皆さんに迷惑かけとるって意識を常に持てと言っとるよなぁ?」
「う、うっす・・・」
「ワシらが相手してええのは極道の関係者だけや、そこんところ今一度よう覚えとけや!!」
「うっす!!!」
まともだ・・・・
このヤクザは今まで見たヤクザの中で一番まともだ・・・・
ごめんおっさん、俺ヤクザは皆救いようのない自分勝手な連中と思ってたよ!
あんたみたいな人いるんだな!
俺が感心しているとアニキ分のヤクザが俺に話しかけてきた。
「ウチの阿呆が兄ちゃんに迷惑かけたなぁ、すんまへん!」
頭まで下げてもらった・・・・本当にこの人ヤクザ?
ウチの先生よりまともじゃない?
「い、いえ・・・その気にしないでください」
流石に俺もここまで丁寧に謝られると何も言えないよ・・・
そもそも怖くて何も言えない!
「おおきに!にいちゃんのおっきい心臓に感謝するでぇ」
「は、はい・・・」
もう俺が常に圧倒されている状況だった・・・
「せやせや、この阿呆が言っとった事はホンマでな、もしそれっぽい人見かけたらこの番号に連絡してもらえんか?」
「わ、わかりました」
「ほんじゃ、ワシらはこれで・・・・ゴラァ、お前も頭下げんかい!!」
俺に名刺を渡した後、兄貴分の人はおっさんの首根っこを引っ張りながら帰って行った。
「ん?金狼連合?青龍会じゃないのか・・・・」
俺は貰った名刺に目を通し、その中身を確認した。
【金狼連合直系・松野組若頭、
名前の下には住所と電話番号も書いてあった。
「大阪府?」
・・・あぁなるほど、だからあの人達関西弁だったのか!
しかし、金狼連合・・・聞いた事ないな。
青龍会とはまた違うみたいだし・・・
俺は数秒頭を悩ませ、良いアイデアを思いついた。
そうだ、先輩に聞いてみよう。
先輩の出身関西って言ってたし。
そう思い立ち、俺は本来の目的地であるバイト先は向かった。
* * * *
「ほんで?聞きたいことって何なん?」
「あっ、スリーサイズなら後輩君でも教えへんからね!えっち!!」
「違いますよ!!」
バイト先でいつもの様に俺をからかう先輩・・・こういう発言は本当に勘弁してくれ・・・もし夢にでも聞かれてたらと思うと・・・
「ほんならなんなん?」
「えっと・・・」
俺はさっき知ったヤクザ組織の名前を口にした。
「先輩って金狼連合って知ってます?」
「何でも関西のヤクザ組織らしいんですが・・・先輩?」
俺は業務中のお皿洗いを続けてながら質問をしたが、中々帰って来ない返事が気になり俺が洗ったお皿を片付けている先輩の方に視線を向けた。
「なんで・・・後輩君がその名前知ってんの?」
「なんでって・・・さっき金狼連合の松野って人から名刺もらいまして」
「そうなんや・・・悪いけどウチはなんも知らへんわ」
なんだ?先輩が変に冷や汗かいてる様な・・・って!?
「先輩!!」
「え?何・・・キャアッ!」
先輩は俺が話しかけた事が原因で、足元に転がるペットボトルに気が付かないままそれを踏んでしまい転倒した。
先輩が持っていたお皿が数枚割れる音が厨房内に響いた。
あっぶな・・・・なんとか下敷きになれた・・・
「先輩・・・大丈夫っす・・・か!?」
下敷きになった俺が目を開けると、先輩の顔が至近距離にまで迫っていた。
後ろから、誰かが先輩を少しでも押そうものなら、間違いなく唇が触れ合いそうな・・・・
「あ・・・・その・・・すいません!」
この距離感に恥ずかしくなった俺は直ぐにその場を退き、顔が赤くなっているのが自分でも理解した。
「ありがとうな後輩君助かったわ・・・・」
流石の先輩もあの距離感には恥ずかしくー
「アハハハ、後輩君顔真っ赤やん!」
なってなかった・・・・
「もしかしてウチとチューしそう!とか思った?ナイナイ」
むしろ平常運転だった。
「でも庇ってくれてありがとなぁ。あっ、お皿はウチから店長に言うから掃除もせんで大丈夫やで!」
「ほんなら、ウチ箒取ってくるから~」
そう言いたい事を全て言った先輩は速足で箒のある倉庫の方へ向かった。
いや、ドキドキしてたの俺だけかい!
もう、本当に心臓に悪いわ・・・・
俺は先輩の走って行った後を見つめながらそう思った。
◇
もちろん、彼女も乙女。
あの距離で、少し気になっている年下の男の子に庇われれば、心臓の鼓動も早くなる。
「危なかったわ・・・・」
バレてへん!?ウチがドキドキしてた事バレてへんよね!!
後輩君、ウチを助ける為とは言え大胆すぎるわ・・・
なんやのあの距離!もうチュウしてまいそうやったやん!
三歳も年下の男の子にドキドキするとかウチやばいって・・・・
あーもうどないしよ!可愛い弟やと思ってたのにぃ!
ウチは倉庫で一人、頭を抱えていた。
そもそも後輩君が、あの名前なんか出すから・・・・
ウチは深く深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとした・・・・
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